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3rd STAGE はぐれエルフと魔蟲軍団

Data.88 神々の石切り場

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 ◆現在地
 神々の石切り場

「おっ、ここであっているようね」

 鬱蒼と茂る森の中に苔のむした巨大な石切り場はあった。
 自然の地形を人工的に切り抜いたそこは何とも言えない神秘的な雰囲気が漂っている。
 いや、切り抜いたのは一応神ということになっているのだから『神工的しんこうてき』とでも言うべきかな?

 まあそれは置いといて、かなり広そうね。
 切りぬかれた地形は迷路のようになっていてどこに行けばいいのかとんと見当もつかない。
 とりあえず奥へ奥へと進んでいくと、戻れなくなりそうとか不安な感情が湧きだしてくる。『神々の』と呼ばれるだけあって妙な圧迫感があるわ。

「ん?」

 足場の悪いとことを壁に手をついて歩いていると、妙なくぼみを指先から感じた。
 ここまでの石は綺麗に切り出されていて、その切断面は不思議なほどキズがなかった。

「これは……」

 文字だ。石の壁に文字が刻まれている。
 『汝がこの地に立ち入った理由を示せ』と書かれている。
 誰に向けたメッセージだろうか。この石切り場に来た者へ向けたものなのはわかるけど、一体いつごろ彫られたのかわからない。

 理由か……私は『導きの石』を手に入れに来たのよね。
 どこかに地図でも彫られてないかなー。
 今度は石にも注目しながらさらに辺りを捜索する。

 すると、先ほど石に刻まれていたメッセージと同じものが進む先々で見つかった。
 これ、もしかしてピンポイントに私に問いかけているのかしら?
 それとも、この地では立ち入った理由を早く明確にしないと大変なことになるとか……。
 しかし、示すと言っても声に出せばいいのか、こっちも石に文字を刻んで一風変わった筆談としゃれ込むのか……。どっちも試せばいいか。

「あのー、これ普通にしゃべればいいんですか?」

 石の文字に向けて声をかけてみる。
 すると、私の目の前で新たな文字が独りでに刻み込まれた。

「然り」

 それは助かる。石に武器で長文を刻むなんて時間がかかって仕方なさそうだもんね。

「私は『導きの石』というものを探しに来たんですけど、どこにありますか?」

 単刀直入に尋ねる。
 石壁は先ほどより少し時間を置いてから文字を刻んだ。

「汝の言う『導きの石』とは、神の力を宿した石のことで間違いないか」

「そうです」

 またここで少し間が入る。

「何故、石を求める」

「えーと……私が神の使徒で、神の世界からこの世界のとある場所に降り立てるようにしたいからです。その場所は国を守るために重要な場所で、どうしてもそこにリスポ……降り立てるようにしておきたいんです」

 素直に事情を話す。きっとこれが正解だと思う。

「汝の理由は理解した。真なる石切り場に立ち入る事を許可する」

「真なる石切り場……?」

 その疑問に対する回答は無く、代わりに石に矢印が刻まれていた。
 これに従って進めってことね。
 それから数分かけて石切り場内部をあっちこっち移動。
 もうどこから来たのかわからない。方向感覚は完全に狂ってしまった。
 こりゃ帰りも案内してもらわないと帰れないな。

 と、思っていると何やら円形の広場のようなところに着いた。
 周囲の壁は高く、その上に生えた木々からの木漏れ日で神聖な雰囲気を醸し出している。中央に聖剣でも刺さってそうだ……って本当に剣が広場中央に刺さってるわ。
 正確には中央の少し手前で、本当の中央には大きな石の塊が鎮座している。
 これがきっと『導きの石』ね。

 うーん、普通の石との違いがわからない。
 それに思ってたより大きいなぁ。アイテムボックスに入れられるタイプだといいんだけど、そうじゃないと運搬に手間がかかる。
 じーっと眺めていると、この石にも文字が刻まれていることに気づいた。

『この石は導きの石であり、そうではない』

 ……?
 深そうで深くないような、よくわからない文章だ。

「どういうことですか?」

 私が疑問をぶつけると、刻まれていた文字が消え新たな文字が刻まれた。

『汝の手で導きの石を切り出すのだ。正しき心で正しき形に切り出せば、石はそれに応え力を解き放つであろう』

「えっ!私、石なんて切ったことありませんし、正しくなんて出来ませんよ!」

『心なのだ。石に求める力を心とともに形にあらわすのだ!』

 もうわけわからんくなってる!
 心とか形とか一番答えに困るやつじゃない。
 でも、やらないと目的は果たせそうにないか。
 うーん……石に求めるものはリスポーン地点になることで、目的はアクロス王国を守る拠点を作るため。しかし、それに適した形ねぇ……。

「こっちの世界とリアル世界を行き来するための形……行き来するための形……あー」

 思いついてしまった。
 私が『導きの石』を切り出すならこれしかないだろうというドンピシャのやつが思いついてしまった。
 石の前に突き立てられた剣をとり、石に刃を入れる。驚くほどよく切れる。
 これなら私でも思った通りの形を作れそうだわ。



 > > > > > >



 ◆現在地
 アクロス王国国境線:イーストポイント
 side:アチル

「遠目に見ても険しい場所だと思ってたけど、実際来るとそれがよーくわかるわね」

「こんなところに砦なんて建てられるんですか?」

「それを調べに来たのよ」

 私におんぶされてるシュリンさんはあちこち見渡している。
 国境付近は地面が荒れていて車イスでの移動は大変ということで私が背負っているんです。

「極力狭いところがいいわ。切り立った山肌と山肌の間に門でも作って塞いでしまうのがもっとも効果的」

「そ、それどれくらい材料がいるんですか?」

「さぁ、正確なことはわからないけど魔石一千万個ぐらいあれば門の部分は出来るんじゃない?」

「……立派な門が出来上がりそうですね」

「そう手間はかからないわ。だって、魔石の方からこっちに向かってくるんですもの。モンスター討伐と砦の建築は同時に行っていけばいい」

「出来上がるまでに倒しきれないほどの大群が来ないことを祈るしかありませんね……。マココさんだって万全の状態じゃありませんし」

「戦力の増強についても考えがあるわ。まぁそれもこれも敵の出方次第ね」

 シュリンさんは妙に落ち着いてるけど、結構ギリギリの作戦に聞こえる。
 でも、正しいのは正しいと私も思う。

 モンスターの大量発生はどうやって決着をつけるのかがわからない戦いになる。
 発生源となる何かがあってそれを破壊すべきなのか、それとも時間経過でおさまるのか、一定の数で発生が止んでそれを倒しきればいいのか……。
 今はわからないことだらけでも、砦を作って安定した防衛能力を得られれば落ち着いて次の一手を考えることが出来る。

 『明確な勝利条件がわからない戦いは目的に向かって自身を奮い立たせることが出来ず、精神的に疲弊しやすい』とお父さんも言っていた。
 ドラゴンゾンビの時も村の防衛は大変だったし、離れて討伐に行くときは内心気になって仕方なかった。
 だから、まず砦を作り守りを固めるという目標を設定したのは良い事だと思う。

「んっ! この辺りでストップよ」

「は、はい!」

 考え事をしていたので、シュリンさんの声に驚いて足を止める。

「地面もある程度平らだし、切り立った山肌に挟まれていて間隔も比較的狭い。それに前方は下り坂になっていて侵攻してくる敵に上からの攻撃が可能……。ここしかないわね」

「ここが私たちの拠点になるんですね」

「拠点にしていくのよ、私たちで」

 シュリンさんが耳元でささやく。
 吐息がかかったからなのか、そのセリフがカッコよかったからなのかわからないけど、なんだかゾクゾクして体が震える。

「あら? 怖いのかしら?」

「そ、そんなことないです!」

「ふふっ、かわいい」

 ギュッとより強く背中に抱き着いてくる。

「か、からかわないでください!」

「ごめんね、久々に感じた人肌の温もりなもんだから……」

 そう言われると拒みにくい……。まあ、いやなワケじゃないしいいかな。
 ということで、しばらくされるがままでいるとマココさんがこちら目がけて走ってくるのが見えた。
 ここは少し高いところだから日の出ているうちは索敵もしやすそうね。

「よっし、見つけたわ!」

 颯爽と戻ってきたマココさんの顔は上機嫌。意外と表情に出やすい人だから、作戦が成功したとすぐわかった。

「導きの石を手に入れられたんですね!」

「ええ、バッチリ。アイテムボックスの中にあるわ」

「よく私たちの場所がわかったわね。合流は小屋の予定だったのに」

「それがねぇー、石切り場を探索途中に帰る方向がわからなくなったから、石切り場の主っぽい存在に帰るためのアイテムも貰ったのよ。それがこの『再会の石版』!」

 マココさんは矢印が描かれた正方形の石版を見せてくれた。

「これは特定の人物のいる方向を矢印で示し続けるらしいわ。この場合はシュリンを対象にしてるから、小屋には戻れなくて直接ここまで来れたってワケ」

「へぇ、それじゃこれからは私をストーカーし放題ね」

「むっ、何かあったら助けに行きやすいと言ってほしいわね」

「あらそう。それは頼もしいわ」

「まあ『再会の石版』のことはこのぐらいにして本題に入りましょう。『導きの石』はどこに設置するの?」

「砦の中心となるところに置きたいから、そうね……」

 シュリンさんがマココさんに細かく指示をだし、設置場所は決定された。

「それじゃ、設置するとしますか!」

 アイテムボックスから『導きの石』が取り出され、そのまま地面に置かれた。
 お、思ってたより大きい。2メートルくらいあるかな?
 それにこの形って……。

「あなたってよっぽど好きなのね」

「仕方ないじゃない! 私的にあっちとこっちを行き来する、行ったり戻ったりするという形はこれしか思い浮かばなかったのよ!」

「まあ、いいんじゃない? 無難な形じゃつまらないし」

 石は『く』の字型。つまり、マココさんの愛用武器ブーメランの形にそっくりだ!

「私も良いと思います。こう……なんといか力強いです!」

「そう、やっぱり? 私もこれしかないってくらいしっくりきてるのよねー」

 あ、やっぱりマココさんも気に入ってるんだ……。

「さーて、後は新たな地名を決めればこの石は『導きの石碑』となって二つの世界をつないでくれるらしいわ」

「地名ですか……。つまり、砦の名前になるわけですね」

「名前ねぇ……。私、あんまり得意じゃないからマココに任せるわ」

「私もマココさんに任せます!」

「そう? じゃあ帰りに考えてた案が一つあるんだけど……」

 マココさんも悩むと思いきや、もうすでに考えがあるみたい。
 そういえばスキル名とか個性的だったなぁ。

「架け橋の砦……ってのはどう? 二つの世界をつなぐ場所であり、国境という二つの国をつなぐ場所にある砦だから」

「……うん、いいわね。意外とセンスあるのねマココって」

「意外とは余計よ」

「つなぐ場所ですか……素敵です! 私も異議ありません!」

「じゃあ決定で」

 マココさんが石に新たな地の名を刻んだ。
 その瞬間、石から青いオーラが湧きだし大地を駆け抜けていった。
 置いてあるだけだった石が石碑となり地に根付いたような……気がした。

 ◆現在地
 架け橋の砦

「うん、これで良し!」

 マココさんはうんうんと頷く。

「まぁ、問題は名前だけ立派で砦なんてどこにもまだないって事なんだけどね。それにこの導きの石碑が壊されると、次の石碑がこの土地に定着させられるようになるまで相当な時間がかかるらしいわ。だから、壊されないようにしないとね」

「まあ、それは大変。野ざらしにしておくわけにはいかないわね」

「とりあえず丸太の壁でも作っとこうか」

「じゃあ木を切りに行きましょう!」

 不安なことはたくさんあるけれど、マココさんやシュリンさん、それにこれから出会うみんなの力があればきっと故郷を、生まれた国を守れる。
 私だって成長しているはず。身につけた力はみんなを守るために使おう!
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