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第4章 ゴーレム大地を駆ける

第59話 ゴーレムと列車

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 客車の床は金属製なので、俺が歩くとカンカンッと金属同士がぶつかる音がする。
 メタルゴーレムになって背が縮んだとはいえ、2メートル弱はある俺だと少し天井が低く感じる。
 それでも頭をぶつけずに車内を歩くことは出来るし、他の住人たちなら不自由はないだろう。

「座席に座ってみましょう!」

 マホロに引っ張られて一緒に座席に座ってみる。
 うーむ……硬い! 座り心地が非常に硬い!

「硬いですね、ガンジョーさん!」

 マホロも遠慮なく感想を言う。
 鉄で作られた座席に直接座っているわけだからクッション性はまったくなく、硬くてひんやりした感覚だけが伝わって来る。

「でも、この客車の雰囲気……なんだか落ち着きます」

「ああ……。上手く言えないけど、この狭さとか、窓から見える風景とか、独特の空気感があるね」

 通勤ではなく、別の用事で混んでいない電車に乗った時の感覚に近い。
 それこそ俺が命を落とすきっかけとなった田舎への帰省……その時に乗り込んだ人が全然見当たらないさびれた列車の雰囲気……。

 ちょっと不気味だし、内装も綺麗とは言いがたいんだけど、あの列車が走る時に出る音とただただ流れていく景色を眺めている時は、妙に満たされた気分になるんだ。

「これが荒野を走るんですよね、ガンジョーさん」

「うん、その予定さ。ジャングル到着までにかかる時間もこのトロッコ……いや、これからは列車と呼ぼうかな? この列車を使えば、大幅に短縮出来るはずだよ」

「壁も天井もありますから、魔獣が襲って来ても安心ですね」

「とびきり頑丈に作ってあるし、機会があればどんどん機能をアップデートしてくつもりさ。何の心配もなく荒野を縦横無尽に走れるようにしていきたいね」

 今のところ行き先は廃鉱山かジャングルくらいしかないけど、オアシスまでレールをつないでみてもいいし、人が流れて来る北の方角に無人駅を作って、人が来た時だけ動かす仕組みとか作っても面白そうだ。

「私、たまにあの荒野が怖くなる時があるんです。家族から逃げるように屋敷を飛び出した後、私とメルフィは荒野を目指しました。滅んだ街に希望を求め、追っ手が来るのではないかという不安に怯え、体力のない私はメルフィに背負われて無力感でいっぱいでした」

 瓦礫の街に流れ着いても生き延びられるとは限らない……。
 何一つ確かなものもなく、あの荒野を進み続ける不安は相当なものだろう。
 俺ですら暗闇の荒野では不安な気持ちを何とか他の感情で抑えていた。

「ふとあの時ことを思い出すこともありますし、夢に見ることもあります。でも……今はこの列車で荒野に繰り出すのが楽しみで仕方ないんです! ガンジョーさんと一緒にいれば、私に怖い物はなくなっていくような気がします!」

 マホロは歯を見せてニィッと笑う。
 そのはつらつ・・・・とした笑顔を見たら、こっちも楽しい気持ちになって来る。
 ゴーレムに表情筋は存在しないが、俺も心の中で大いに笑った。

「マホロのためにも、街の人のためにも、列車を完成させよう! ……ということで、マホロはここに座ったままでいてくれ。俺は外からこの試作一号をチェックしてみるよ」

「了解しました!」

 列車内にマホロを残し、俺だけが外に出る。
 そして、列車の周りをぐるぐる回ってその外観を確認していく。

「うん、見た感じ変なところはないな。複雑な機構きこうは存在しないけど、先頭車両を務める俺に引っ張られて、正しく車輪が回ればそれで十分だからな」

 列車になっても引き続き動力は俺が務める。
 それが一番シンプルかつ、馬力も確保出来るからね。

「そうそう、問題は車両全体の重量だな……」

 頑丈になるようにと重く強靭きょうじんな素材をいくつか使っているから、今まで引っ張って来たトロッコよりは確実に重くなっているはずだ。

 後ろから車体に触れ、力を込めて前に押してみる。
 むむっ、もちろんゴーレムのパワーで動かないほど重いわけじゃないんだけど、想像していたよりはグッと重い感覚が手のひらから伝わって来る。

「ガンジョーさん、大丈夫ですか?」

 列車が押されたことに気づいたマホロが窓を開けて身を乗り出す。

「あ、いきなり動かしてごめんね。ちょっと列車の重量を確認してみたんだ」

「どうでしたか?」

「思ってたよりずっと重いね。強度を重視したから当然なんだけど、これを俺が引っ張るとなるとスピードがどうなることやら……」

 メタル化してゴーレムとしての能力は上がっているが、方向性としては魔法の強化がしゅたるもの。
 馬力はそこそこの強化にとどまっている気がする。
 それでこの重さの物体を引っ張るというのなら、もう一工夫欲しいなぁ……。

「うーん、重い物を引っ張る力……ですか。灯台のエレベーターみたいにスーッと前に進んでくれたらいいんですけど……」

 列車から降りて来たマホロがホームの上で腕を組む。
 俺の悩みを解決するため、一緒に考えてくれるその姿と何気ない言葉……。

「マホロ、それだよ!」

「え? どれですか!?」

「灯台のエレベーター……つまり、電磁魔動式! この列車も磁石の力で動かすんだ!」

 いくらでもヒントはあったというか、今日だってずっと門扉もんぴの電磁化の話をしてたじゃないか!
 それを列車にも適用すればいい……!

「あの荒野にリニアモーターカーを走らせるんだ!」
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