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本編
机の奥の声【後編】
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階段の踊り場で息を整えた。窓の外では薄曇りの空が、春の光を鈍くしている。
《あの夜、誰がいた》
紙片の問いが、額の奥で何度も響いた。
沙織は何を見たのか。誰が沙織を黙らせたのか。誰が、今も封筒を撒いているのか。
響平は昇降口に向かいながら、遠い廊下の奥に誰かの影を見た気がした。立ち止まっても、そこには何もなかった。埃だけが、春の風に撫でられていた。
昇降口の手前で、真菜が立っていた。鞄を胸に抱え、足元を見つめている。
「響平……。」
真菜の声は掠れていた。
「私……。」
続きを言わず、唇だけが震えた。響平は言葉を探したが、何も出てこなかった。
沈黙が二人を切り離す。春の埃が、その隙間をゆっくり漂った。封筒の声はまだ止まない。昇降口の外に出ると、春の風が制服の裾を持ち上げた。砂埃が足元をかすめ、遠くの空にまだ咲ききらぬ桜がぼんやり揺れている。響平は真菜の隣に立ったまま、しばらく何も言えなかった。真菜の瞳には、微かな怯えと何か言いかけた言葉の残響があった。
「……沙織のこと。」
小さく、真菜が切り出した。
「沙織、あの夜、何かを……。」
そこまで言って、声が途切れた。遠くで誰かが校門を閉める音がした。その金属音が、封筒の擦れる音に重なった。
響平はポケットの紙片を握りしめた。
《あの夜、誰がいた》
問いが真菜の声と重なり、心臓の奥でひどく冷たく疼いた。
「何を見たんだ。」
問いかけは、風に流されるように小さかった。真菜は小さく首を振り、視線を落としたまま答えなかった。沈黙の隙間を春の埃が埋めた。
校門を抜けても、背後に誰かの気配が残った。振り向けば、ただ夕暮れの影が長く伸びているだけだった。響平は息を吐き、空を仰いだ。墨の匂いが、風の奥にまだ滲んでいる。
封筒の声は、まだ終わらない。
《あの夜、誰がいた》
紙片の問いが、額の奥で何度も響いた。
沙織は何を見たのか。誰が沙織を黙らせたのか。誰が、今も封筒を撒いているのか。
響平は昇降口に向かいながら、遠い廊下の奥に誰かの影を見た気がした。立ち止まっても、そこには何もなかった。埃だけが、春の風に撫でられていた。
昇降口の手前で、真菜が立っていた。鞄を胸に抱え、足元を見つめている。
「響平……。」
真菜の声は掠れていた。
「私……。」
続きを言わず、唇だけが震えた。響平は言葉を探したが、何も出てこなかった。
沈黙が二人を切り離す。春の埃が、その隙間をゆっくり漂った。封筒の声はまだ止まない。昇降口の外に出ると、春の風が制服の裾を持ち上げた。砂埃が足元をかすめ、遠くの空にまだ咲ききらぬ桜がぼんやり揺れている。響平は真菜の隣に立ったまま、しばらく何も言えなかった。真菜の瞳には、微かな怯えと何か言いかけた言葉の残響があった。
「……沙織のこと。」
小さく、真菜が切り出した。
「沙織、あの夜、何かを……。」
そこまで言って、声が途切れた。遠くで誰かが校門を閉める音がした。その金属音が、封筒の擦れる音に重なった。
響平はポケットの紙片を握りしめた。
《あの夜、誰がいた》
問いが真菜の声と重なり、心臓の奥でひどく冷たく疼いた。
「何を見たんだ。」
問いかけは、風に流されるように小さかった。真菜は小さく首を振り、視線を落としたまま答えなかった。沈黙の隙間を春の埃が埋めた。
校門を抜けても、背後に誰かの気配が残った。振り向けば、ただ夕暮れの影が長く伸びているだけだった。響平は息を吐き、空を仰いだ。墨の匂いが、風の奥にまだ滲んでいる。
封筒の声は、まだ終わらない。
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