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番外編
4.(後編)『封筒の咎』―模倣者の結末―
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白石晃が最初の封筒を撒いてから、7日が経った。
街は静かだった。最初の数日は。
それは一通の投稿から始まった。
〉「大学構内の掲示板に《シクレさん》からの警告が……」
《私は、シクレ。私は知っている。》
晃は見知らぬユーザーが拡散している画面を見て、手が震えた。自分が撒いたはずの封筒に、見覚えのない文面。《知っている》とは?誰のことを?
「……これ、俺じゃない。」
そうつぶやいた時、背後のベッドで寝ていたはずの紗耶が静かに目を開けた。
「見てる人、増えたね。」
声が冷たかった。封筒の火遊びが、いつの間にか炎上していた。
3日後。
街の公園で、一人の学生が遺体で発見される。名前は和泉壮真。晃と同じ大学の3年生。学内で「ハラスメント疑惑」が囁かれていた人物。遺体のそばには、白い封筒が落ちていた。
《私は、シクレ。罪を暴いた。》
ニュースはあっという間に拡散した。SNSでは“犯人は《模倣犯》の誰か”と騒ぎになった。晃は、スマホの画面から目を逸らせなかった。吐き気と冷や汗が止まらない。
「俺……じゃない。違う……」
けれどもう、誰もそれを確認する方法はなかった。
夜、晃の元に紗耶がやってきた。封筒を10枚ほど持っていた。
「やろう。まだ間に合うよ。」
「……何が間に合うんだよ。」
「“本物”になるってこと。」
紗耶の目は真っ直ぐだった。その黒目には、炎の代わりに“正義”の光が宿っていた。
「和泉って、最低だったよ。女の子泣かせて、教授にまで圧力かけてた。誰も止められなかった。でも……」
彼女は微笑んだ。
「シクレさんは、止めた。」
晃はその場から逃げるように立ち上がった。封筒が床に散らばり、墨が畳に滲んだ。
「もう、やめろよ。」
「晃くんは、やめられるの?」
耳の奥で、あの日の掲示板の文字が囁く。
《私は、シクレ。真実を語らぬ者へ。》
数日後、晃は警察に自首しようと決意する。けれど、彼が交番に向かう途中、背後から携帯が震えた。画面には、写真が一枚。自分のアパートの玄関前に落ちている“封筒”。
《次は、裏切り者。》
晃は振り返った。しかし、その背後には、誰もいなかった。ただ、埃のない春の風が、封筒を一枚、彼の足元に運んでいた。晃は、その封筒を拾い、そっと開いた。
《私は、シクレ。あなたが最初の模倣者。けれど、もう“あなたのもの”ではない。》
彼の背中を風が打ち抜いた。恐怖は、もはや“自作”ではなかった。《模倣者》は、神にはなれない。それが、《本物》と“名乗られない何か”の違いだった。春の夜、誰かがまた、封筒を一通、“本物の災い”として郵便受けに忍ばせた。
街は静かだった。最初の数日は。
それは一通の投稿から始まった。
〉「大学構内の掲示板に《シクレさん》からの警告が……」
《私は、シクレ。私は知っている。》
晃は見知らぬユーザーが拡散している画面を見て、手が震えた。自分が撒いたはずの封筒に、見覚えのない文面。《知っている》とは?誰のことを?
「……これ、俺じゃない。」
そうつぶやいた時、背後のベッドで寝ていたはずの紗耶が静かに目を開けた。
「見てる人、増えたね。」
声が冷たかった。封筒の火遊びが、いつの間にか炎上していた。
3日後。
街の公園で、一人の学生が遺体で発見される。名前は和泉壮真。晃と同じ大学の3年生。学内で「ハラスメント疑惑」が囁かれていた人物。遺体のそばには、白い封筒が落ちていた。
《私は、シクレ。罪を暴いた。》
ニュースはあっという間に拡散した。SNSでは“犯人は《模倣犯》の誰か”と騒ぎになった。晃は、スマホの画面から目を逸らせなかった。吐き気と冷や汗が止まらない。
「俺……じゃない。違う……」
けれどもう、誰もそれを確認する方法はなかった。
夜、晃の元に紗耶がやってきた。封筒を10枚ほど持っていた。
「やろう。まだ間に合うよ。」
「……何が間に合うんだよ。」
「“本物”になるってこと。」
紗耶の目は真っ直ぐだった。その黒目には、炎の代わりに“正義”の光が宿っていた。
「和泉って、最低だったよ。女の子泣かせて、教授にまで圧力かけてた。誰も止められなかった。でも……」
彼女は微笑んだ。
「シクレさんは、止めた。」
晃はその場から逃げるように立ち上がった。封筒が床に散らばり、墨が畳に滲んだ。
「もう、やめろよ。」
「晃くんは、やめられるの?」
耳の奥で、あの日の掲示板の文字が囁く。
《私は、シクレ。真実を語らぬ者へ。》
数日後、晃は警察に自首しようと決意する。けれど、彼が交番に向かう途中、背後から携帯が震えた。画面には、写真が一枚。自分のアパートの玄関前に落ちている“封筒”。
《次は、裏切り者。》
晃は振り返った。しかし、その背後には、誰もいなかった。ただ、埃のない春の風が、封筒を一枚、彼の足元に運んでいた。晃は、その封筒を拾い、そっと開いた。
《私は、シクレ。あなたが最初の模倣者。けれど、もう“あなたのもの”ではない。》
彼の背中を風が打ち抜いた。恐怖は、もはや“自作”ではなかった。《模倣者》は、神にはなれない。それが、《本物》と“名乗られない何か”の違いだった。春の夜、誰かがまた、封筒を一通、“本物の災い”として郵便受けに忍ばせた。
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