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番外編
シクレさんの呪い(裏)
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春の校舎の埃の奥で、誰も語らなかった声があった。それは弓田沙織の吐息でもなく、響平の正義でもなく、教卓に立つ東山の声でもなかった。 この教室には、もう一つの《シクレさん》がいた。
一年前。
諸星奏は誰よりも早く“火種”を見つけていた。掲示板に流れた匿名の噂。
「盗撮映像が売られているらしい。」
それを誰が流したのか、奏はすぐに知った。校内に潜む小さな欲望と恐怖。スマホ一つで誰でも汚れる世界。奏は何も告げずに、沙織に近づいた。
「沙織、これ、お前だろ。」
放課後の誰もいない教室で、奏はスマホの画面を開いて見せた。そこには、映像の断片があった。女子更衣室、制服の袖、下駄箱の影。沙織は何も言わなかった。言い訳も、弁解も、涙もない。ただ机の埃を指先で払って、黙って頷いた。
「俺にだけ話せ。」
奏はそう言った。沙織の唇が小さく震えた。声にならない言葉が、埃の奥に沈んでいった。
「私だけじゃない。」
その言葉を聞いたとき、奏は笑った。
封筒は、沙織が撒いたのか。それは半分正しく、半分は嘘だった。最初の封筒は沙織が書いた。
《私は、シクレ。》
けれど、その封筒を誰の下駄箱に忍ばせたのか。その封筒を誰が増やしたのか。それは奏だった。
「全部暴こう。全部。」
奏の声に、沙織は首を振った。
「全部はダメ。」
沙織は最初の一通で終わらせるつもりだった。映像の真相を、誰が売ったのか。誰が沙織に命じたのか。それを沙織自身の言葉で告発しようとしていた。だが、奏にとっては違った。
「お前一人で終わらせるな。」
封筒が撒かれた夜、奏は沙織にメールを送った。
《誰が一番汚れてるか、見てみようぜ》
返信はなかった。翌朝、沙織は屋上から消えた。奏はその夜、掲示板にスレを立てた。
【#シクレさんの逆鱗】
誰かが沙織を追い詰めたのか。それとも沙織自身が追い詰めたのか。誰も知らないまま、封筒はもう一度増えた。
一方、学校の奥で静かに監視していた人間がいた。轟大亜、生徒会の裏の“顔”は、奏の掲示板を黙って眺めていた。
「いいじゃないか。潰し合えば。」
轟にとって、封筒の混乱は都合がよかった。教師陣の汚職、8年前の鹿羽勝の事件、生徒会費の不正、全てを誰かの恐怖で塗り潰す。轟は沙織に封筒の“墨”を与えた。だが沙織は一度だけ書き、もう書くつもりはなかった。書き足したのは奏だった。
真菜が封筒を見つけるたびに、響平が机を叩くたびに、東山は静かに目を伏せた。教師として何が真実かを知りながら、何も言わずに教室に立つしかなかった。
全てを暴けるのは誰だったのか。封筒に息を吹き込んだのは誰だったのか。
沙織の死は一人の罪ではない。封筒の言葉は誰のものでもない。
春の埃が積もる机の奥に、まだ開けられなかった封筒が一通だけ眠っている。そこにはこう書かれていた。
《誰もがシクレ。誰もが災い。》
一年前。
諸星奏は誰よりも早く“火種”を見つけていた。掲示板に流れた匿名の噂。
「盗撮映像が売られているらしい。」
それを誰が流したのか、奏はすぐに知った。校内に潜む小さな欲望と恐怖。スマホ一つで誰でも汚れる世界。奏は何も告げずに、沙織に近づいた。
「沙織、これ、お前だろ。」
放課後の誰もいない教室で、奏はスマホの画面を開いて見せた。そこには、映像の断片があった。女子更衣室、制服の袖、下駄箱の影。沙織は何も言わなかった。言い訳も、弁解も、涙もない。ただ机の埃を指先で払って、黙って頷いた。
「俺にだけ話せ。」
奏はそう言った。沙織の唇が小さく震えた。声にならない言葉が、埃の奥に沈んでいった。
「私だけじゃない。」
その言葉を聞いたとき、奏は笑った。
封筒は、沙織が撒いたのか。それは半分正しく、半分は嘘だった。最初の封筒は沙織が書いた。
《私は、シクレ。》
けれど、その封筒を誰の下駄箱に忍ばせたのか。その封筒を誰が増やしたのか。それは奏だった。
「全部暴こう。全部。」
奏の声に、沙織は首を振った。
「全部はダメ。」
沙織は最初の一通で終わらせるつもりだった。映像の真相を、誰が売ったのか。誰が沙織に命じたのか。それを沙織自身の言葉で告発しようとしていた。だが、奏にとっては違った。
「お前一人で終わらせるな。」
封筒が撒かれた夜、奏は沙織にメールを送った。
《誰が一番汚れてるか、見てみようぜ》
返信はなかった。翌朝、沙織は屋上から消えた。奏はその夜、掲示板にスレを立てた。
【#シクレさんの逆鱗】
誰かが沙織を追い詰めたのか。それとも沙織自身が追い詰めたのか。誰も知らないまま、封筒はもう一度増えた。
一方、学校の奥で静かに監視していた人間がいた。轟大亜、生徒会の裏の“顔”は、奏の掲示板を黙って眺めていた。
「いいじゃないか。潰し合えば。」
轟にとって、封筒の混乱は都合がよかった。教師陣の汚職、8年前の鹿羽勝の事件、生徒会費の不正、全てを誰かの恐怖で塗り潰す。轟は沙織に封筒の“墨”を与えた。だが沙織は一度だけ書き、もう書くつもりはなかった。書き足したのは奏だった。
真菜が封筒を見つけるたびに、響平が机を叩くたびに、東山は静かに目を伏せた。教師として何が真実かを知りながら、何も言わずに教室に立つしかなかった。
全てを暴けるのは誰だったのか。封筒に息を吹き込んだのは誰だったのか。
沙織の死は一人の罪ではない。封筒の言葉は誰のものでもない。
春の埃が積もる机の奥に、まだ開けられなかった封筒が一通だけ眠っている。そこにはこう書かれていた。
《誰もがシクレ。誰もが災い。》
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