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一年目の春(2)
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「にしても、すっげえ山道。こんなところを王族が登るのかよ」
オリン山へと登り始めて、四時間。道は整備されていないのか獣道ばかりで嫌になる。もしかしたら迷子になっている可能性もなくはないが、上へは登れているだろうと楽観視していた。そもそも竜が住む場所すら王族以外知らないのだ。神聖な山ということもあり、人が来ることは皆無だろう。そろそろ見えてこないかなと思っていると拓けた土地が視界に映る。
「んだこれ、でかいな」
足を踏み入れるとそこには五メートルはあるであろう神殿のような建物が鎮座していた。柱や入り口には竜の模様が刻まれているので何かしら関わりがある建物なのだろう。これはラッキーと言うべきかとオスカーは思った。
「さて、目的のエルピス様とやらがいるのかなっと」
神殿に入ると清らかな空気と純度の高い魔素の多さにオスカーは静かに驚いた。この魔素量ならば魔石もいいものができることだろう。エルピスという竜はいるだけで、ブルノス共和国に経済的支援もしているのだろう。王族以外見せたくないのは取られたくない意思からだと推測される。大理石の廊下を歩いた先にいたのは黒き宝石だった。黒い鱗は光に当たると七色に反射し、邪悪なるものを引き付けない神聖さを持っている。水に濡れたカラスの羽のように、光沢があり、紫色がかった黒の爪は弱者を容易に切り裂く強さの象徴だ。
オスカーが圧倒され、こくりと唾を飲んだ音に反応してか閉じられていた瞳が開かれる。僅かに深みのある明るい空の色をしたセレストブルーの眼がオスカーを捉えた瞬間、オスカーに電流が迸る。
「人間なぜここにいる」
静かな湖に出来た波紋の美しさに似た穏やかでありながら、確かな存在感を感じる声が神殿に響いていく。下手なことを言えば殺すという殺意がビリビリと肌に伝わってくる。高まる心臓に、呼吸に、想いに、本能に従うままオスカーは胸を当てて高らかに答えた。
「最初はただ見るだけだいいやと思っていた。だけど、あんさんを見て確信した。おいら、あんさんを求めている。いや、宝とかは興味ないけどな。宝よりも魅力的なあんさんをもっと知りたい。友達になりたいんだ!」
夜明け前の空に似た瞳はキラキラと魂を輝かせながら、エルピスの瞳を真っすぐに貫く。エルピスにとってははるか大昔のリザードンを思い出す。ここに未だ国がなかった時代、自分を見つけたリザードンも同じ目をしていた。懐かしくって目を細めれば、だんだんと眠っていた感情がこみ上げてエルピスは笑い始める。
「くっはっはっはっ! この我と友にだと? 人間のくせに生意気な。……だが、嫌ではない。最近の王族は我を崇めるばかりでつまらんからな。よかろう。人間よ、友になろうではないか。貴様の名を明かすかよい」
「オスカーだ。旅人をしている。よろしくなエルピス」
「オスカーか。覚えたぞ。貴様旅人と言ったな。ならば、旅の話をするとよい。我は外の世界に興味がある」
「お安い御用だぜ。まずはエルフの森でのお話をしようか」
オスカーは歌うように雄弁に自分が旅をしてきた国や出来事を語り始めた。自然と共に生きていくエルフ達の勇敢さ。洞窟の中でひたすら鍛冶をするドワーフの真面目さ。それだけじゃなく世界には様々な種族や国があるのだと伝える姿は何処か楽しそうなオスカーを見て、エルピスはゆらゆらと尻尾を揺らし、静かに聞きながら楽しんでいた。
「と、もうこんな時間か。山を下るのを考えるともう帰らないとな」
「なんだオスカー。帰るのか」
「あぁ、流石にバレたら、おいら怒られちゃう。明日も来るから心配するなって」
「ふむ、約束を破るではないぞ」
「おう、また明日な!」
そう言いオスカー手を振って帰っていく。エルピスはその様子をただ眺めることしか出来なかった。エルピスはもう見えないオスカーを、いつまでも見守っていた。
「明日、か」
久しぶりに聞いた単語に冷えていたはずの心が温かくなる。早く明日が来たらいいのにとおもいながらエルピスは深い眠りについた。
オリン山へと登り始めて、四時間。道は整備されていないのか獣道ばかりで嫌になる。もしかしたら迷子になっている可能性もなくはないが、上へは登れているだろうと楽観視していた。そもそも竜が住む場所すら王族以外知らないのだ。神聖な山ということもあり、人が来ることは皆無だろう。そろそろ見えてこないかなと思っていると拓けた土地が視界に映る。
「んだこれ、でかいな」
足を踏み入れるとそこには五メートルはあるであろう神殿のような建物が鎮座していた。柱や入り口には竜の模様が刻まれているので何かしら関わりがある建物なのだろう。これはラッキーと言うべきかとオスカーは思った。
「さて、目的のエルピス様とやらがいるのかなっと」
神殿に入ると清らかな空気と純度の高い魔素の多さにオスカーは静かに驚いた。この魔素量ならば魔石もいいものができることだろう。エルピスという竜はいるだけで、ブルノス共和国に経済的支援もしているのだろう。王族以外見せたくないのは取られたくない意思からだと推測される。大理石の廊下を歩いた先にいたのは黒き宝石だった。黒い鱗は光に当たると七色に反射し、邪悪なるものを引き付けない神聖さを持っている。水に濡れたカラスの羽のように、光沢があり、紫色がかった黒の爪は弱者を容易に切り裂く強さの象徴だ。
オスカーが圧倒され、こくりと唾を飲んだ音に反応してか閉じられていた瞳が開かれる。僅かに深みのある明るい空の色をしたセレストブルーの眼がオスカーを捉えた瞬間、オスカーに電流が迸る。
「人間なぜここにいる」
静かな湖に出来た波紋の美しさに似た穏やかでありながら、確かな存在感を感じる声が神殿に響いていく。下手なことを言えば殺すという殺意がビリビリと肌に伝わってくる。高まる心臓に、呼吸に、想いに、本能に従うままオスカーは胸を当てて高らかに答えた。
「最初はただ見るだけだいいやと思っていた。だけど、あんさんを見て確信した。おいら、あんさんを求めている。いや、宝とかは興味ないけどな。宝よりも魅力的なあんさんをもっと知りたい。友達になりたいんだ!」
夜明け前の空に似た瞳はキラキラと魂を輝かせながら、エルピスの瞳を真っすぐに貫く。エルピスにとってははるか大昔のリザードンを思い出す。ここに未だ国がなかった時代、自分を見つけたリザードンも同じ目をしていた。懐かしくって目を細めれば、だんだんと眠っていた感情がこみ上げてエルピスは笑い始める。
「くっはっはっはっ! この我と友にだと? 人間のくせに生意気な。……だが、嫌ではない。最近の王族は我を崇めるばかりでつまらんからな。よかろう。人間よ、友になろうではないか。貴様の名を明かすかよい」
「オスカーだ。旅人をしている。よろしくなエルピス」
「オスカーか。覚えたぞ。貴様旅人と言ったな。ならば、旅の話をするとよい。我は外の世界に興味がある」
「お安い御用だぜ。まずはエルフの森でのお話をしようか」
オスカーは歌うように雄弁に自分が旅をしてきた国や出来事を語り始めた。自然と共に生きていくエルフ達の勇敢さ。洞窟の中でひたすら鍛冶をするドワーフの真面目さ。それだけじゃなく世界には様々な種族や国があるのだと伝える姿は何処か楽しそうなオスカーを見て、エルピスはゆらゆらと尻尾を揺らし、静かに聞きながら楽しんでいた。
「と、もうこんな時間か。山を下るのを考えるともう帰らないとな」
「なんだオスカー。帰るのか」
「あぁ、流石にバレたら、おいら怒られちゃう。明日も来るから心配するなって」
「ふむ、約束を破るではないぞ」
「おう、また明日な!」
そう言いオスカー手を振って帰っていく。エルピスはその様子をただ眺めることしか出来なかった。エルピスはもう見えないオスカーを、いつまでも見守っていた。
「明日、か」
久しぶりに聞いた単語に冷えていたはずの心が温かくなる。早く明日が来たらいいのにとおもいながらエルピスは深い眠りについた。
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