風花の竜

多田羅 和成

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二年目の夏(3)

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「ほう、これが街か」

 エルピスの格好は今まで会った王族の真似をしたのだろう。街に降りるにはあまりにも綺麗過ぎるので、オスカーは自分が使っている旅のマントをエルピスに羽織らせた。最初は薄汚いマントを物珍しそうにしてたが、慣れたのか今じゃ初めて見る街に惚れ惚れだ。初めての街や国に行けば見惚れてしまうから、仕方がないが隣に自分がいるのだから、ちょっとぐらい見てくれたらなとオスカーは拗ねていた。だから、悪戯のつもりで繋いでる手を引っ張り顔を近づけた。

「エル。手を繋いでるとはいえ、あまりキョロキョロしていると怪しまれるぜ」

 エルピスと言うと怪しまれるから、街ではエルと呼ぶと言ったのに、本人は自分が呼ばれた感覚がなかったのかキョトンとした後に反応をする。

「あぁ、そうか。街の者からしたら、この光景は当たり前なのか。にしても色んな種族がいるものだ」

 オスカーから注意されたから周りを見渡すことは辞めたが、浮かれ気味なのは変わらない。エルピスの様子に、やれやれと思いながらもオスカーもエルピスとのお出掛けに浮かれていた。

「オスカー。あの食べ物が気になる。買うのだ」

「あぁ、いいぞ。おいらも食べようかな。お姉ちゃんオレンジとビーフステーキ串二つな」

 エルピスが黒い手袋越しに指したのはブルノス共和国名物のオレンジとビーフステーキの串。初めてこの国に来た時に食べたが、美味しかったのを思い出し、売り子をしている女性に話しかける。

「あら、ありがとうございます。竜人の方がいられるなんて珍しいわね」

「おいらたち、二人で旅をしているのさ」

「あらあら、それは素敵なことね。貴方達の旅にエルピス様の加護を」

 女性は楽しそうに微笑みながら、オスカーからお代を貰うと串を二つ渡し手を振って見送った。一本を渡すと、エルピスは物珍しそうにしながら串を噛み砕かないように器用に食べ始める。オレンジの酸味が肉の脂身を緩和し、ジューシーでありながらもあっさりとした味わいに感動を覚える。

「美味いなこれは。貢物にして欲しい」

「あはは、エルが満足する量を作るのは大変なこった」

 偉く気に入ったらしく、貢物にしてほしいというエルピスにオスカーは笑った。今は自分より背が高いぐらいだが、本来は三メートル以上ある竜だ。満足するぐらいの量を用意するとなれば国の一大イベントとなるだろう。エルピスを崇めている国民や王族からしたら喜ばしいことかもしれない。見た感じエルピスが要求することはなさそうだし、頼られたと感じるのかなと思うが、今は自分だけが知っていたらいいなとオスカーは思ってしまう。子供じみた独占欲がどうかエルピスに伝わらないようにと願いながら、繋いだ手は離さなかった。

「街は色々と面白いな。定期的に行きたいものだ」

「気に入ったなら何よりだが、おいらがいる時しか行かないようにな」

 いつもの神殿へと戻り、ご満悦そうに元の姿に戻って尻尾をゆるく振っているエルピスを見て、オスカーは街を案内して良かったと感じていた。やはり、神殿ばかりにいてはつまらないのだろう。いつもより饒舌になっているエルピスを可愛いと思えば、更に喜ばしたくてある約束を持ちかける。

「そうだ。前は花火しか見えなかったけど、今年は街で祭りを見ようぜ」

「むっ、それはいいな。せっかく人型になれるようになったのだ。活用をしないとな」

 オスカーの提案にエルピスの浮かれた心は急上昇。早く夏にならないかなと思いながら、日々を重ねていくのだった。
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