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二年目の夏(6)
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感謝祭が終われば、実りの秋が来る。人々は収穫出来た喜びに満ちているが、エルピスにとって、秋とは別れの季節だからだ。冬眠さえなければオスカーは、ずっとこの国にいてくれるのだろうかと考えては、そんなことないかと落胆をする日々。そもそもオスカーは旅人なのだ。冬以外にも旅をするものを、自分の為に出かけていないだけだ。それだけでも感謝しないといけないのに、欲張りな自分はいっそ住めばいいのにと思ってしまう。
自由なオスカーが好きなのに、嫌いという矛盾が苦しくて、彼がいない時はため息が多くなってしまう.。こういう時、死んでしまった友はなんて言ってくれるのだろうか。雲がかかったように、心が晴れない時に限って、オスカーがいつもは抱えていない荷物を手にやってきた。
「よぉ、エルピス」
「……その荷物はもう行くというのか」
「おっ、察しがいいな。流石に二回目となれば分かるか」
エルピスの憂いなど知らないとばかりに、オスカーは笑みを浮かべているものだから、少し腹立ってむすっとした顔になる。それにはオスカーも流石に気付いたのか、エルピスの鼻頭を撫でる。
「拗ねるなよエルピス。一生のお別れという訳じゃないんだからさ」
「しかし、我が寝ている間に帰らなかったらどうする」
「心配性だな。うーん」
エルピスの駄々こねが始まったので困ったような表情をする。しかし、旅立たないという選択をしない辺り、オスカーは変える気がないのだろう。絶対言いくるめる気だなとジト目でエルピスは見ていた。すると、オスカーはいつも付けている耳飾りの右側を外して、エルピスに見せる。
「おいらがこの国にいない間は、この耳飾りをエルピスに預けるよ」
「耳飾りを?」
「あぁ、この耳飾りは死んだ母さんの形見なんだ。その耳飾りをエルピスに預ける。必ず帰るっていうお守りとしてな。それでもおいらを信じれないか?」
エルピスはそう言われてしまうとぐうの音も出なくなってしまった。代わりに人間の姿になると耳飾りを受け取る。
「……帰って来なかったら許さないからな」
「ははっ、おいらも流石にエルピスを怒らせたくはないからな。ちゃんと帰るさ」
「絶対だぞ」
「絶対さ。必ず帰ってくる。じゃあ、行ってくるよエルピス」
名残惜しそうにエルピスの手を離すと、オスカーは振り返らずに神殿から出て行った。手に残る温もりを、耳飾りを大事に握り締める。
「春になったら、必ず来い。オスカーよ」
今年も厳しい冬が訪れる。静かになった神殿でエルピスはオスカーの夢を見るのであった。
自由なオスカーが好きなのに、嫌いという矛盾が苦しくて、彼がいない時はため息が多くなってしまう.。こういう時、死んでしまった友はなんて言ってくれるのだろうか。雲がかかったように、心が晴れない時に限って、オスカーがいつもは抱えていない荷物を手にやってきた。
「よぉ、エルピス」
「……その荷物はもう行くというのか」
「おっ、察しがいいな。流石に二回目となれば分かるか」
エルピスの憂いなど知らないとばかりに、オスカーは笑みを浮かべているものだから、少し腹立ってむすっとした顔になる。それにはオスカーも流石に気付いたのか、エルピスの鼻頭を撫でる。
「拗ねるなよエルピス。一生のお別れという訳じゃないんだからさ」
「しかし、我が寝ている間に帰らなかったらどうする」
「心配性だな。うーん」
エルピスの駄々こねが始まったので困ったような表情をする。しかし、旅立たないという選択をしない辺り、オスカーは変える気がないのだろう。絶対言いくるめる気だなとジト目でエルピスは見ていた。すると、オスカーはいつも付けている耳飾りの右側を外して、エルピスに見せる。
「おいらがこの国にいない間は、この耳飾りをエルピスに預けるよ」
「耳飾りを?」
「あぁ、この耳飾りは死んだ母さんの形見なんだ。その耳飾りをエルピスに預ける。必ず帰るっていうお守りとしてな。それでもおいらを信じれないか?」
エルピスはそう言われてしまうとぐうの音も出なくなってしまった。代わりに人間の姿になると耳飾りを受け取る。
「……帰って来なかったら許さないからな」
「ははっ、おいらも流石にエルピスを怒らせたくはないからな。ちゃんと帰るさ」
「絶対だぞ」
「絶対さ。必ず帰ってくる。じゃあ、行ってくるよエルピス」
名残惜しそうにエルピスの手を離すと、オスカーは振り返らずに神殿から出て行った。手に残る温もりを、耳飾りを大事に握り締める。
「春になったら、必ず来い。オスカーよ」
今年も厳しい冬が訪れる。静かになった神殿でエルピスはオスカーの夢を見るのであった。
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