美丈夫から地味な俺に生まれ変わったけど、前世の恋人王子とまた恋に落ちる話

こぶじ

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泣いて縋る

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 夏の力強い太陽が空の真ん中から日を注ぐ暑い熱い真っ昼間。そろそろ昼飯時かという頃合い。今朝、学院の寮を出た時点で思い浮かべていた俺の予定では、今頃孤児院の食堂でチビたちと配膳の準備でもしているはずだった。

 しかし、そんな当初の予定など度外視だ。仕方がないのだ。「今直ぐ二人きりになりたい」だなんて、“婚約者”に甘い低音で囁かれたらもう、完全に心絆されてしまった俺は頷くしかない。

 訳知り顔で手を振るアレクス先輩に見送られつつ、俺は殿下によってローブのフードを深く被らされ、孤児院を足早に連れ出された。 


 向かう先は、市場の本通りから一本外れた色街通りの、見慣れた高級宿だ。傭兵然とした装いにも関わらず、傭兵等では容易く払えないだろう金額に更に色を付けて支払った殿下は、俺を姫君に対するかのようにエスコートし、いつもの最上階の部屋へ導いた。

 部屋の扉が閉まると、直ぐ様ローブを取られてきつく抱きすくめられる。殿下の広い背に腕を回してぎゅうとしがみつき、充足感にふう、と息をつく。
 恋しくて堪らなかった体温がここにある事が、未だに目眩がする程の奇跡に思える。しばらく言葉もなくお互いの存在を確認するように抱き締め合う。


「俺、殿下とは、いつか離れなきゃいけないと思っていたんです」

 逞しい胸板に頬を押し付け、愛おしい殿下の匂いに包まれながら、俺はぽつりと本音を漏らす。

「俺に嘘をついていたんだな。悪い子だ」

 そう言う声は、言葉に反して酷く楽しそうだ。自身の顎位置にある俺の頭に顔を埋めて、殿下がふふと控えめに笑う。

「殿下に泣いて縋る勇気が俺には無かったんです。貴方に疎まれたくなかった」

 そろりと顔を上げる。じわりと滲む涙が溢れるまでも無く、殿下の唇が瞼をなぞって雫を消していく。

「泣いて縋るのは俺の方だ。俺はトマスに置いて行かれる事が何よりも恐ろしい。君が手の届かない所に行ってしまう事があれば、俺はミラードと同じく真っ先に命を断つだろう」

 殿下の瞳は悲愴に僅かに揺らめいた。愛おしい人を亡くす絶望を、殿下は“知っている”のだ。

「殿下が望んでくださるのならば、俺が貴方から離れる理由など一つもありません」

 俺の言葉に、幸せそうにヘーゼルアイが蕩ける。

 どちらともなく甘やかに唇が重なった。





 恭しく手を取られ、導かれた先の広いベッドに優しく柔らかく押し倒される。覆いかぶさってくる猛々しい長躯に、飽きる事無く見惚れてしまう。
 柔い力で両の手を絡め取られてベッドに押し付けられる。降りてきた端正な顔貌にも改めて見惚れ、その唇に噛み付くように受け止める。
 するりと首筋に頬擦りされて、くすぐったさの中に僅かな官能が混じる。俺がふは、と息を吐くと官能を追わせるようと、殿下が首筋を、顎先を、耳の内を、舌で丹念に愛してくる。
 煽られた官能に追い立てられて、俺ばかりが羞恥に震えているのが悔しい。舌が離れた隙を逃さずに、殿下の下衣に手を伸ばし、前立てを解く。解きながら、わざと怒張を布越しに撫でるのも忘れない。下履きから取り出した長大なものを、両手で丁寧に扱く。左手で強く竿を、右手で優しく亀頭を。慣れた手仕草で捏ねて、思ったように膨張させる事に成功すると、先程の悔しさが霧散して誇らしい気持ちになる。殿下を仰ぎ見て、ふふんと得意ぶって笑う。

「俺の妃は何をさせても可愛いばかりで困るな」

 いつも通りの優しい声だが、ヘーゼルアイはいつものように蕩けておらず、恐ろしい程に情欲に濡れてギラギラと俺を射竦めた。
 あ、やばい。と思った時にはもう遅く、再び口付けられて上半身を起こせないまま、下衣を手際良く抜き取られた。唾液で微かに濡れ光る口の端を持ち上げて妖艶に笑う殿下に、両足を大きく開かされ、かの物と比べると小振りな勃起を思い切り凝視されて居た堪れない。「可愛い陰茎だ」と嬉しそうな声を伴った吐息が過敏な屹立に吹き掛けられ、そのまま口内に飲み込まれた。舌で裏筋を責められつつ、喉を使って締め付け根本まで咥え込まれては、ひとたまりもない。

「あっ。殿下、俺、すぐイっちゃう、あっ、ン!」

 俺の吐精したものを嚥下して、殿下は俺に挑戦的な視線を送りながら自身の唇を嘗めた。俺は射精したばかりなのに、脳味噌がバグってしまっているのか、頭の中が「抱かれたい」だけで一杯になってしまう。
 俺は閨事で良く使われる魔法術式を幾つも連続で展開する。全て、尻に男根を受け入れる為に必要なものだ。指先を自らの尻穴に埋めると、洗滌と弛緩、高粘稠の術式が働いたそこは元々男性器を埋める為の器官のように滑らかだ。人差し指と中指でくちりと拡げて見せると、殿下の目が獰猛さを帯びるのが嬉しくて堪らない。

「殿下、ここ、使って、抱いてください」

 お願いします、と言い切る前に一気に奥まで突き入れられて、悲鳴と紛うような嬌声が漏れた。

「煽るのが本当に上手いな。可愛過ぎて、怖くなる。ここ、だけじゃない。君の身体は全て、俺だけが使って良いんだろう?」

 快楽を帯びた吐息混じりの言葉を吐く殿下に、最奥を立派な亀頭で捏ねられ、俺は唸るように喘いで何度も頷く。

「ふぅぅんっ、殿下だけっ、使ってっ。俺で気持ち良くなって欲しいっ」

 俺の返事が大層お気に召したらしい。愛おしい人が男臭く喉で笑う。
 本能に忠実で激しい抽挿を受けて、無意識にびくびくと体が跳ねる。どんなに乱暴にされても、殿下によく慣らされた身体は快感しか拾わない。

「あっ、あうっ、でんかっ、ンンン!きもちいっ、ですか?」

「とてもいい。トマスは、肚の中も、上手だな。奥を開いて、俺の陰茎を、全て受け容れてくれるか?」

 再び結腸口を捏ねられて、吐息が鼻から抜けて情けない声が漏れる。最奥への導き方は身体が覚えている。

「来て、んんぅぅ、もっと奥」 

 霞む視界の中、愛おしい人が酷く残酷で嗜虐的に笑むのがわかったが、俺の頭の中には元からそれを全て受け入れるしか選択肢がない。

 ぐちゅん、と音がしそうな衝撃と痛みと悦楽が腹奥で爆ぜる。声も出せずに全身が細やかに痙攣する。
 殿下も感じてくれているのだろう。艶めかしい吐息が耳元にに流し込まれる。

「ああ、俺の白百合はなんて健気で愛らしいんだ。俺だけの白百合。一生俺だけのものだ。君だけを愛してる」

 俺も、と言葉を返したいのに、結腸口を貫いたまま、腰を揺らめかせて奥を捏ねられてはまともに話せやしない。俺の口からは、どんなに必死になっても悲鳴と唸り声しか出ない。

「トマス、俺が満足するまで付き合ってくれるだろう?俺の相手はトマスしかいないんだから」

 頷くしか出来ない俺をそれはそれは楽しそうに眺め、整わない息を喰らい尽くすように唇に噛み付いてくる。そのまま激しく穿たれて、嬌声すら封じられた俺は呼吸すらままならず、涙を流して縋り付くしか出来ない。苦しいけど、身体も心も思考も殿下で満たされてキモチイイ。



 えげつのない快感と多幸感で頭の中身ぶっ飛びつつも、いつも通り二、三度挑まれるだろうな、と覚悟はしていた。
 でもまさか、俺が眠るように気絶した後も“使われて”、一人で寮に帰れなくなる程足腰が立たなくなるなんて、その時の俺は思ってもみなかった。
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