74 / 241
籠城 前編
幼き栗栖③
しおりを挟む目は開かず意識もボンヤリとして来た。
「……眠たい」
だが眠れば終わりが来る、それは理解していた。
最後に想う光景……
母と過ごした何気ない日常、まだ人生始まった
ばかりだったが楽しい思い出が脳裏に浮かぶ……
裏切られた過去、そう言う奴らでさえも
こんな時は何故か楽しく過ごした日々だけが
思い出されていった。
「母さん……ごめんなさい、今日のご飯持って
帰れなかった……」
そう呟く……
だが同時に、彼の心に種の様な小さな違う感情も
生まれた。
「……」
友に見放され、食う物にも困る貧困、強き者は
弱き物を虐げる喜びを味わい、代わりに弱き者は
苦痛をたらふく食わせられる、
消化出来ない怒りや何に向けての憎しみかは
解らないが、その感情は行き場のない体を巡り脳を
掻き乱していく
このまま目を閉じ睡眠の怠惰を貪れば
この苦痛な生活から解放される甘い誘惑。
「……」
「……母さん」
行き着く最後の思い出は母だった。
「……」
「……いいのか」
「僕は……」
(このままでいいのか?俺は母を残して逝って
いいのか?)
「……」
「……」
「!」
「ダメだ!」
突然湧き上がる感情、それが何かは解らなかった
ただ俺が逝った後の母の顔が思い浮かんだ。
それだけだった。
「僕は……いや俺は……今逝く訳にはいかない!」
そう言うと飛び起き自分の体に積もった雪を
ガムシャラに振り払った。
一人空を見上げる景色は雪で視界が見づらい
黒い空に白い雪だけが見えた。
アカギレの手で拳を握り締め、呆然と空を見る
白と黒の世界
目が痛くなる程に瞬きもせず睨む様に空を凝視
したその先に星がある事に気付くクリス
「……黒と白だけじゃないんだ」
一層強く握る拳に彼の目は輝き
と同時に暗闇をも持ち合わせた目をしていた。
「誰も頼っちゃいけないんだ……」
「自分でするしか無いんだ……」
呟く瞬間地面へと四つん這いになり懸命に
積もる雪を手で固めていった。
手に寒さという激痛が走る。
だが今の彼は激痛よりも苦痛な顔の母の表情の方が
遥かに痛かった。
『手より心が痛かった』
時間は掛かった、懸命に全身の力を使い雪を
押し固める、身体が動く事により温められ
生を繋ぐ……止まれば終わり
『進むしか無い……』
無我夢中で雪を固める、彼が後内戦でのスナイパー
の腕を買われたのはこの時の精神力と集中力、
何より生きる強さに冷静さを買われたのだろう。
「止まれば待つのは……」
「考えるな!」
「身体を動かし体温を上げるんだ!
そして……その時間を、体力を生きる為に使え!」
「懸命に固め雪を押し固め坂を作る、足場を所々に
作り、階段の様に!」
固められた足場に今度は四角くブロック状に雪を
固め摩る様に表面を磨く、更に作ったブロックに
磨いたブロックをくっつけ土台を高くする
ブロック状のモノを重ねて物を作る建設ゲームで
よく有る手法を使った。
押し固められた雪は硬く足場になる。
降り注ぐ雪は材料となり高さを増して行く
材料が足りなくなれば足で穴が崩落する恐怖にも
駆られながらも足で蹴り、穴付近の雪を落とす。
子供の体力とは思えない過酷な状況に生への渇望と
母への想いに止まれない崖っ淵の状況
「止まれば汗が急速に冷え俺は終わる……
止まる事は許されない!」
念仏を唱える様に呟きを繰り返し、踠きあがらう
恐怖、体力、希望、冷えに痛み、手の感覚が消え
痛みに鈍感になった指はいつしか何本か折れていた
時は経ち朝が来た……ロシアの朝は日がまだ出ない
暗闇に発見される僅かな希望も捨てた。
『自分の力』それだけが唯一生きる希望
迷いの無い思いに行動は止まらない。
そして時間は経った……
朝日がようやく顔を出し始めた頃、穴付近にも
日差しが差し込む。
「……」
穴の縁は何事も無かったかの様に静かに、
存在していた、人が此処に居ようが居まいが自然は
常に一定だ、自然は人間の為に存在している訳では
無いのだから……
自然に合わせ人がいる。
当たり前の環境は人の命など干渉はしない。
残酷、そして慈悲な存在……
穴の縁にやがて血だらけの手が出る
渾身の力で片腕を縁に置き彼は這い出た。
地獄から、絶望から、虚無から
大地を背に空を見た。
「……へっ生きてるじゃねーか俺」
まだ仕送りがあった時に買ってもらったゲームを
思い出す。
苦しい修行で得た力で敵を倒す。
その過程はほんの数行で表現される。
「……そうか、大変だったんだあの勇者」
そんな事を考えていたクリス10歳の頃である。
0
あなたにおすすめの小説
異世界宇宙SFの建艦記 ――最強の宇宙戦艦を建造せよ――
黒鯛の刺身♪
SF
主人公の飯富晴信(16)はしがない高校生。
ある朝目覚めると、そこは見たことのない工場の中だった。
この工場は宇宙船を作るための設備であり、材料さえあれば巨大な宇宙船を造ることもできた。
未知の世界を開拓しながら、主人公は現地の生物達とも交流。
そして時には、戦乱にも巻き込まれ……。
オッサン齢50過ぎにしてダンジョンデビューする【なろう100万PV、カクヨム20万PV突破】
山親爺大将
ファンタジー
剣崎鉄也、4年前にダンジョンが現れた現代日本で暮らす53歳のおっさんだ。
失われた20年世代で職を転々とし今は介護職に就いている。
そんな彼が交通事故にあった。
ファンタジーの世界ならここで転生出来るのだろうが、現実はそんなに甘く無い。
「どうしたものかな」
入院先の個室のベッドの上で、俺は途方に暮れていた。
今回の事故で腕に怪我をしてしまい、元の仕事には戻れなかった。
たまたま保険で個室代も出るというので個室にしてもらったけど、たいして蓄えもなく、退院したらすぐにでも働かないとならない。
そんな俺は交通事故で死を覚悟した時にひとつ強烈に後悔をした事があった。
『こんな事ならダンジョンに潜っておけばよかった』
である。
50過ぎのオッサンが何を言ってると思うかもしれないが、その年代はちょうど中学生くらいにファンタジーが流行り、高校生くらいにRPGやライトノベルが流行った世代である。
ファンタジー系ヲタクの先駆者のような年代だ。
俺もそちら側の人間だった。
年齢で完全に諦めていたが、今回のことで自分がどれくらい未練があったか理解した。
「冒険者、いや、探索者っていうんだっけ、やってみるか」
これは体力も衰え、知力も怪しくなってきて、ついでに運にも見放されたオッサンが無い知恵絞ってなんとか探索者としてやっていく物語である。
注意事項
50過ぎのオッサンが子供ほどに歳の離れた女の子に惚れたり、悶々としたりするシーンが出てきます。
あらかじめご了承の上読み進めてください。
注意事項2 作者はメンタル豆腐なので、耐えられないと思った感想の場合はブロック、削除等をして見ないという行動を起こします。お気を悪くする方もおるかと思います。予め謝罪しておきます。
注意事項3 お話と表紙はなんの関係もありません。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
魔王の息子に転生したら、いきなり魔王が討伐された
ふぉ
ファンタジー
魔王の息子に転生したら、生後三ヶ月で魔王が討伐される。
魔領の山で、幼くして他の魔族から隠れ住む生活。
逃亡の果て、気が付けば魔王の息子のはずなのに、辺境で豆スープをすする極貧の暮らし。
魔族や人間の陰謀に巻き込まれつつ、
いつも美味しいところを持って行くのはジイイ、ババア。
いつか強くなって無双できる日が来るんだろうか?
1章 辺境極貧生活編
2章 都会発明探偵編
3章 魔術師冒険者編
4章 似非魔法剣士編
5章 内政全知賢者編
6章 無双暗黒魔王編
7章 時操新代魔王編
終章 無双者一般人編
サブタイを駄洒落にしつつ、全261話まで突き進みます。
---------
《異界の国に召喚されたら、いきなり魔王に攻め滅ぼされた》
http://www.alphapolis.co.jp/content/cover/952068299/
同じ世界の別の場所での話になります。
オキス君が生まれる少し前から始まります。
病弱少年が怪我した小鳥を偶然テイムして、冒険者ギルドの採取系クエストをやらせていたら、知らないうちにLV99になってました。
もう書かないって言ったよね?
ファンタジー
ベッドで寝たきりだった少年が、ある日、家の外で怪我している青い小鳥『ピーちゃん』を助けたことから二人の大冒険の日々が始まった。
【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。
木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。
しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。
そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。
【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました
雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。
気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。
剣も魔法も使えないユウにできるのは、
子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。
……のはずが、なぜか料理や家事といった
日常のことだけが、やたらとうまくいく。
無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。
個性豊かな子供たちに囲まれて、
ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。
やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、
孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。
戦わない、争わない。
ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。
ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、
やさしい異世界孤児院ファンタジー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる