24 / 29
第5章
最終決戦⑦
しおりを挟むネロとリアムの側に複数の血人形が哀しげな表情で集まる。
それは言葉を発する事は出来ないが、その表情から湧き上がる
感情はハッキリと理解出来た。
彼等は憎い彼奴を倒す術がない、囲い石の力で増幅された
力を用いても、その数を用いても……
奴の強さは尋常ではない事を物語っていた。
寂しげで……
哀しげで……
口惜しいその姿を
ネロの姿が徐々に薄れ、怨念の中に世界に融け行った……
彼は彼の役割を
彼は彼の戦い方を
その姿を見送り、リアムは背後から疾風の如く
モズに忍び駆ける。
モズは繰り返す殺戮に酔いしれ、自我が崩壊しているかの様に
血人形をなぎ倒し悦に浸ってはいたが、
背後から忍び寄るリアムの存在に気付いていた。
首が180度くるりと周り、その裂けた口から伸びるヒルの舌で
血人形を舐めながらリアムを愛おしい目で見た。
モズ「血湧き肉躍るとは……この事ですなぁぁあ!
無駄な話合いで生気が戻った様ですね、わたくし、貴方が
希望を抱くのをお待ちして……おりましたよぉぉお!」
「つつつ次、先程を上回る拷問をどうしようかかかと、
悩み悩んでおりましたよぉぉお!希望を絶望に変え、次こそ
美味しく臓物と心をいただきまぁぁぁす!」
リアム「お前は何か勘違いをしているな」
「今、俺は1人では無い、お前は俺だけを相手に戦って
いるわけでは無い」
モズ「カスが何体現れようと、私に勝てるとでも思って
いるのか!美味そうだが、その口は私をイライラさせるわ!」
モズもリアムに駆ける。
その素早さは尋常ではない。蜘蛛の脚の動きと獣の動きを
足した様な走りで突進する。そのスピードにモズ自身の
首も耐えれなく、その長く伸びる舌と首をユラユラなびかせ
ていた。
体当たり攻撃と共にリアムが弾け飛ぶ、
凄まじい衝撃に人形の如く転げ弾けるリアム
「あら?口だけですか、弱い……そんなもので、よく私に
説教しましたね、強き者のみが正義なのですよ、いくら
口で講釈を垂れた所で逝ってしまえば最早、其処に
存在する意思も肉体もないのですから」
倒れた体に痙攣が走るリアム
踠きながら無様な姿に映る彼は、それでも立ち上がる。
繰り返される弄ぶ様な追撃が繰り返される。
だが彼は、その自由の効かぬ体で再び立ち上がる。
何度も何度も何度も……同じ攻撃を受けボロボロになりながらも
彼は何度でも立ち上がる。
勝利の為に、友情の為に、信じる者の為に
ーー
スピードも力も数段勝るモズの攻撃に彼は願う。
(武器だ……力を増幅する為に奴を倒す武器が必要だ……
奴を倒す力が欲しい……)
容赦無く繰り返される追撃を弾く様に
リアムの前に1人の男が立ちはだかった。
?「リアム!待たせたな……」
その姿は行方不明だったドルフ・アルドルアだった。
アルは素早く己の魔石をとりだし魔人に向かい発動させた
「光縄石よ、盟約により我の指示に従え!」
その光で出来た投網状の帯は広範囲からモズを捉え、
形状を伸縮させモズの動きを止めた。
アル「長くは持たない、そして我々には彼奴に致命傷を
与えられる手段がない」
アル「そして、すまない、遅くなった、
魔人の力がこれ程とは……
予測はある程度していた段階で勝てぬと判断した俺は、一旦
戦場を離れ、俺の持つ《渡り石》で持ち主の居ない
魔石の世界を渡り歩いていた。奴を倒す力を探しに……」
「そして可能性のあるモノを1つ見つけた。暗殺者には
到底につかわない代物だが……お前に託そう」
そして出来るかは判らぬが唯一できる可能性がある
この囲い石の世界でそれを合成させるんだ。
アルはこう信じた、そしてリアム、ネロもそれを信じることが
出来た。言葉をかわす暇も無かったがこの場にいる3人の思う
所は同じであった。
ーー何故ーー
彼等の居る世界にはこの手のモノを改造出来る技術は無い。
この世界は我等の世界に有りて無き世界、想像と異世界の
中なら……出来るかもしれぬ。
確証は無かったアルではあったが、囲い石の世界が術者の
想像で建設されるこの世界ならば、その想いと、
マナの影響下、更に宿る武器の相性と思いが繋がれば……
という曖昧なモノであった。
しかしリアムもそれが可能な気はした。
彼もこの戦闘でネロとの戦闘があったあの時も
求めるものと、求めるものが合致した時、
求める力が共通した時のみ不思議な力が湧いた事を
人の人生もしかり、片方が求めても、其の物はあるだけの
力にしかならない、しかし、求めるものと、求めるもの、
互いの思いが合致し、出来るものは、この世で言う愛や友情、
ではなかろうか。
その力は1つの力が1つ重なる単純計算では無く、
何倍にも、思いの強さで、力は増幅される。
そして、その力は悪が最も相反する弱点属性である。
悪は己の力のみを上げる。その力は簡単に手には入るが、
己の為のみに使う力の限界は浅い。
簡単に手に入る力は心の強さが伴なわない。
その限界は狂気へと走らせ、己の心の限界が終わりの時
だからである。
逆に弱点を多く持つ正の力は一度、その力を発揮することで
2つの……そして関わる力の数だけ何倍にも増幅しさらに繋ぐ
事で無限の力へと変貌する。
最初の弱点は枷として重く、のしかかる。
その枷は心を強く鍛え上げ、やがて枷は羽へと進化する。
己の限界を超え、己の心1つが挫けようとも、その心の強さは
背負う人の数だけ存在する。
更に、それは繋ぎ、紡がれ、更に大きく力強く成長する可能性
を無限に広める力こそが、悪に……
負に勝つ唯一無二の力であると……
ーー
リアムに渡された武器は大きく柄も無い。
長剣の太さも、かなり大きい物であった。
その武器に刃らしきものは無く、代わりに複数の歯車が
ついた様なものだった。
アル「これは俺が秘密裏に制作していたものだ。
歯車に磁力のように反発させる力を更に回転する力に上乗せし
増幅させる為の歯車に付加させる属性の石を、反発しあう力を
持つ石を、渡り石を使い、探していた」
2日目にようやく見つけ出しアジトに戻り、
作り変えていた。
実は俺も落ち人でな……俺の居た世界ではチエーンソーという
代物だ、中にエネルギーの様なものを原料とし、その力を
歯車の回転に伝え、物を切断するというものだ。
単体で切り裂く刃物とは違って、武器自体が切断する力
を持つものだ。まぁ音はうるさいが、元々、俺はこれを
作る会社に……いやまぁ仕事だったわけだ。
それを剣の形にするつもりだったが柄が膨大な衝撃に
耐えられる素材がない、今はその部分だけだ。
そして、そのエネルギーの振動を抑え、扱う事ができるのは
お前以外に居ないと判断した。
最大の難点は……その回転を起こす原料となる
適合するエネルギーだ……
これだけは……探しきれなかった……
元々、この世界はまマナ(魔力)と呼ぶ自然の力とは相反する
物理社会に依存し、その力を信じる者自体が少なく、
マナに寄り添われてはいない、しかし、どの世界も構成する
マナの量は、どの世界も一定だ。
行き場の無い、そのマナは自然に存在する鉱物などに
その身を寄せていると考えられる。
それが囲い石や怨石となるわけだ。俺が今使った光縄石も
それに該当する、囲い石はだが少し違う。
他と違うのは、その鉱石に閉じ込められた世界を作れる
この囲い石ならば、マナ自体の中に存在する我等は
その適合するエネルギーを入れる事が出来るかも知れない。
ただ……その方法が解らない……
リアム、悪いが扱える者はお前だけだ、あの少年のように
俺は自分の役割を果たす。
お前は、お前の役割を果たせ。
ミシミシ……
モズ「ふふふ……会合は終わりましたか……さぁ……宴の再開
ですぞぉぉお!」
アルが放った光の縄は勢いよく引き千切られた。
モズはアルに向け、ヒル状に変化した舌先を尖らせ
アルに襲いかかった。
パシュー
鋭い空気の切り裂き音と共に一撃がアルを襲う。
当たる寸前に足元の血の海から四角い形状の壁が出現、
その攻撃を弾いた。
アル「ふう……助かったぜ、少年……いや騎士さんよ、
俺は騎士が嫌いだが、お前は俺らの嫌う騎士では無いな……
ふふ、お前こそ本物の騎士だ、俺もお前を信じるぜ」
ネロ「ありがとう、僕もおじさんの事好きだよ」
同時にネロの意思がリアムとアルに注がれる。
アル「ててて照れるじゃねーか……くそいい奴だなお前、
おじさんは余計だがな」
ネロ「お兄さん!僕やったよ!みんな僕に協力してくれるって!
今からサポートに入る」
リアム「良し、これで全て揃った。行くぞ!」
リアム 「おう!」
ネロ 「おう!」
アル 「おう!」
3人が同時に声をかける
リアム、、ネロ、アルさえもこの絶望なる状況下
少年の如く目を輝かせ、想いを1つにしたのであった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
神は激怒した
まる
ファンタジー
おのれえええぇえぇぇぇ……人間どもめぇ。
めっちゃ面倒な事ばっかりして余計な仕事を増やしてくる人間に神様がキレました。
ふわっとした設定ですのでご了承下さいm(_ _)m
世界の設定やら背景はふわふわですので、ん?と思う部分が出てくるかもしれませんがいい感じに個人で補完していただけると幸いです。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる