貴方が呼んでくれるから

ツナコ

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 早速次の日にハーブティーをいくつか買いに行くことにした。

 記憶を失ったから初めての1人での外出なので、颯真さんが店を探してくれそこまでの地図、地下鉄の乗り方も丁寧に教えてくれる。

 自分の金で買うと頑張ったのだが、銀行で下ろすのも面倒だろうとカードと何枚か紙幣を渡された。

 ううーん、俺、完全ヒモ状態だな…。

 松本さんに見送られ、地下鉄で銀座に行きスムーズに目的の店に到着した。

 カモミール、アーティチョーク、スペアミント…いろいろなものを買ってみよう。

 遅くまで仕事してる颯真さんにも体に良いものを…。

 女性ばかりの客の中で俺はチラチラと視線を感じながら何種類か購入し、少し銀座を散歩してみるか、と歩き出すと

 「りっくん?」と声をかけられる。

 振り向くと背の高い白髪のイケおじが俺を見ていた。

 彼を見た途端、思い出す、俺は、施設を出てから…。

 「…石原さん」

 「久しぶりだね…。6年ぶり?くらいかな? もう、あの店は辞めたの?」

 そう言いながら俺を上から下まで眺めて、

 「凄い、ブランド物着て。これは、いい出会いがあったかな?」

 「あ、あの…」

 「僕はね、君にフラれてからあの店には行かなくなったでしよ?
 後は、…まあ、たまに遊びでね、他の男の子と遊ぶ時はあるけど。
 …やっぱり、君が一番だったな」

 「……」俺達は一瞬見つめ合う。

 彼は遠くを見やり、

 「あ、奥さんが来ちゃった。…君の言った通り、僕は妻と別れることは出来なかったよ。…じゃあ、元気でね。
 また、会えるかな?」

 そう言って店から出て来た女の人と通りへ消えていった。

 考えなければ。

 俺は近くにあった喫茶店に入りブレンドを注文した。

 ふーっと深呼吸して、思い出した記憶を辿る。

 施設を出て、俺は高校でバイトしたなけなしの貯金を持ってはいたがアパートを借りる事ができず、インターネットカフェでその日暮らしをしながらできるバイトを探していた。

 そんな時、新宿でバイトを終えた帰り、今日はどこに泊まろうかとうろうろしていたら、スカウトに声をかけられたんだ。

 ウリ専。

 俺は女に興味はなかったから男性相手のほうが気が楽だと思った。

 俺の顔なら月100万イケる、と言われてその気になった。

 体を売る事に抵抗はなかった。

 だってもう俺は汚れてるし。

 親の顔も知らない俺が体を売っても誰も何も言わないもんな。

 ただ男との経験がなかった俺は、スタッフに最初から最後まで教えてもらった。

 マッサージからフェラチオやら、本番も。

 俺のバックバージンの相手はオーナーだった。

 慣れてる人のおかげで痛みもなく男の世界を知る事ができた。

 18歳っていう若さもありその世界にデビューした俺には次々に指名が入った。

 金もそこそこ入ってオーナーに保証人になってもらってアパートも借りれた。

 いろんな客がいた。
  
 タチでもネコでもどっちでも俺はイケたけど俺はネコが多かった。

 俺みたいな華奢な奴にやられるよりはマッチョの方がいいもんな。

 一番嫌だったのは入ってすぐに複数にやられたこと。

 暴力っぽかったし体が痛くてちょっと泣いた。 

 ウリ専始めて3ヶ月くらいの時、石原さんが客として来た。

 石原さんは俺をすごく気に入ってくれて、週一回はロングで予約を入れてくれた。

 石原さんはバイで奥さんも子供もいたけど、本当は男の方が好きらしい。

 とても優しく俺を抱いた。

 経験値が高いのが分かるテクニックで俺は何回もイってしまった。

 じっくりと俺を抱いて、あとは美味しいレストランに行ったりいろいろ買ってもらったり。チップも弾んでくれた。

 「お金は大丈夫なの?」と聞いたら

 「まあ医者だから少しは稼ぎはいいからね」

 と微笑む。俺の周り金持ちが多いな。。

 石原さんは俺の生い立ちを聞いて

 「かわいそうに」

 と涙ぐんで抱きしめてくれて、俺のいろんなバカ話を笑いながら聞いてくれる。

 優しい、お父さんみたいな存在だった。  

 石原さんの存在もあったし、俺の予約はだんだん取りにくくなって、店に入って半年後くらいには店のNo.1になってしまった。

 常連が増えて一見さんは俺が判断してから相手をすることになり、嫌な客には当たらなくなった。

 この女みたいな顔が人気なのかな。

 俺は髪を伸ばして結べるみたいにしたり、身なりに気を使うようになった。

 それから…、それから…?  

 そこから先が思い出せない。

 石原さんと何かあった?

 そして、俺、店を辞めたのか?
 
 そして、22歳の俺は颯真さんとエリアルコーヒーで出会ったのか? 

  颯真さんは俺の前職を知らない…?

  これは、颯真さんに言った方がいいのか?

  いや、引くだろ、これは…。

  俺はコーヒーを飲みながらずっと考えていた。

  結局その日夜遅く帰って来た颯真さんには記憶のことは触れず、疲れがとれるようにローズヒップのブレンドティーを淹れてあげて他愛もない話ばかりした。

 昨日までの何も知らなかった俺に戻れたら、なんて颯真さんの顔を見ながら俺は少し考えた。

 
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