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翌朝、暖くんとホテルの朝食を食べていると、
「律、記憶が戻るまで俺と一緒にいたら?
そいつの事記憶にないんだろ。
何だか怖いし」
「んー、もうその人の家は出ようかなと思ったけど、俺賃貸探すよ。
暖くん求職中なのに悪いし」
「全然悪くない。
もう、仕事も見つかりそうなんだ」
「そなの?すごい」
「もうマンションも探すし、そこで暮らそうよ。
…俺、律とより戻したくて戻ってきたんだから」
「暖くん…」
「律の記憶がちゃんと戻って、俺の事好きだと思ってくれるなら、また恋人になってくれる?」
「…まあ、…うん…その時は」
「じゃあさ、それまで同居人としていよう。もちろん、手は出さないから」
カラッと笑う暖くんに俺も笑ってしまった。
「…じゃあ、甘えさせてもらおうかな。
…いったん戻って、俺の荷物取ってくる。
荷物っていってもほとんどないけどね」
通帳と印鑑だけだな。
買ってくれた服とかゲームとかは…うん、置いていこう。
「分かった。待ってる。
…そういえばその服、凄いブランド物だね。
なんか…律に合わないというか、見慣れない」
昨日から俺は白のハイゲージニットにテーパードパンツ、そうだよな、上品過ぎるかも。俺、そんな上品な人間じゃないし。
「だよね?戻った時に着替えてくるわ」
「うん…合わない訳じゃないけど、なんか、貴公子、みたい。目立つというか」
「貴公子って…ふふっ」
そうだよな、暖くん、目立つのも嫌がるしな。
朝食を終えてから俺はまたこのホテルに戻るのを約束して、一度颯真の家へ戻ったのだった。
今日は金曜日、颯真は仕事だけど、松本さんはいるよな。
マンションへ着いて俺は松本さんを驚かそうと企み、そーっと玄関を開ける。
靴は2足…ん?
キッチンにいるだろう松本さんに、わっ!と声をかけるつもりだった。
すると、しーんと静かな室内。
あれ?松本さん、休みかな?
あの靴はもしかして?と思い室内に入ると、颯真の部屋からボソボソと声が聞こえてきた。
颯真…?やっぱり今日いるのかな、そう思い部屋に向かうと少しドアが開いている。
「…俺はもう大丈夫だから、優希、戻って」
「そんな…こんな顔色の先輩を放って置けません」
颯真と秘書の八乙女だ。
颯真はベッドから起き上がり、着替えようとしていた。
体調が悪いのか少し青い顔をしながらも、シャツに着替えようとした颯真に
「先輩!」と八乙女が縋り付く。
「僕は…僕はずっと側にいます。
好きなんです、ずっと前から。
僕なら、貴方を絶対悲しませない」
颯真はそんな八乙女に驚き目を丸くしていたが、
「…ありがとう、優希。
お前は、いい男だよ」
と、ぽんと八乙女の頭に手を置いた。
八乙女は、自分より頭一つ分くらい高い颯真を支えるように懐に入り、顔を近づける。
二人は、キスしているように見えた。
……。
俺は音を立てないように静かに外に出て、ずっと息を殺してた分大きく深呼吸する。
「…なんだよ、家、入れないじゃん…」
ぽつんと呟きながら、近くの公園に行きベンチに腰を下ろす。
良かったじゃないか、二人はこれからもうまくやっていくだろ。
最初から颯真がなんで俺の面倒なんてみたのか、本当に俺の事が好きだったのかな。
ウリ専の俺を可哀想に思ったのかもな。。
何となく胸の痛みを感じながら、俺は午後まで時間をつぶし、もう一度家に戻ってみた。
そろーっと鍵を開けて入ると、靴は一足に減っていた。
するとパタパタとこちらに向かってくる足音が聞こえ、颯真が顔を出した。
「律…戻ったのか」
ほっとしたような表情の颯真に、
「うん」と返事して自分の部屋に向かう。
「何で今日いるの?仕事は?」
「少し…体調を崩して、在宅で仕事してた。…律?何してる?」
服を脱ぎ捨て、今までのパーカーとパンツに着替えていると颯真に詰め寄られる。
「…好きな人に会えたんだ。
向こうも俺を探しててくれて、その人のところに行こうと思う」
「な…」
引き出しを開けて通帳と印鑑を取り出す。
バッグがないので、危ないけどパーカーのポケットにしまった。
「…1ヶ月くらいかな?
面倒みてくれて、ありがとう。
…服とか、スマホとか、置いていくね」
颯真は手で顔を覆っている。
「…体は?記憶は?どうなんだ?」
「あー、うん、戻った」
俺はもう颯真に面倒をかけたくないので、嘘をついた。
「思い出した…?俺の事は?」
「あー、お客さんでしょ?
…ほんと、迷惑かけて、すみませんでした」
ペコリと頭を下げると
「やめろ」と颯真が静かな声で止める。
「…服も、スマホも、お前のものだ。
持っていってくれ」
「…いや、いいよ。
なんか、やっぱ俺には合わないわ、こんな高いもの…」
俺は手ぶらで颯真の前を通り過ぎて、靴箱から履き古したスニーカーを出した。
「あ、松本さんは?」
「…今日はお休みにしてもらった」
「…そっか。最後に挨拶したかったけど…。
しょうがないか…。
じゃあ、よろしく言っておいて。
…それじゃ、ありがとう、颯真。
お大事に…、あと、お幸せに」
「律!」玄関で後ろから抱きしめられる。
「なんだ…幸せに、って、どういう事だ」
「……言葉通りだけど」
俺はさっきの八乙女さんと颯真の姿を思い出していた。
「…スマホもないなら、もうお前とは会えないのか?」
「…shock、また来たら?
俺は結局そこでまた働いてそうだし」
「律!もう、ウリはやめろよ…、お前、店やってみたいとか言ってたじゃないか」
「…言ってみただけ。
俺には、そういうの似合わないし」
「似合うとか似合わないとかどうでもいい。
お前がやりたい事を逃げずに、目指してみろよ。…大丈夫、お前なら、できる」
「……」
お前ならできる、なんて言われたことなくてなんか胸が熱くなった。
「えっと…ありがとう。…もう行くよ。
…ありがとう」
二度もお礼を言いながら俺は颯真の家を出た。
少し歩いて、振り返る。
記憶をなくしてこの家で過ごしたとき、なんだかんだ、楽しかった。
松本さんや、颯真にハーブティー淹れて他愛もない話をして。
でも、俺にはそんな優しいところ、やっぱり似合わない。だって俺は汚いもの。
施設にいた頃から、汚くてドロドロしたものが纏わりついて、離れない。
ずっとそうだったんだから。
「…さて、行くか」
俺は一息ついて暖くんのもとへと向かった
「律、記憶が戻るまで俺と一緒にいたら?
そいつの事記憶にないんだろ。
何だか怖いし」
「んー、もうその人の家は出ようかなと思ったけど、俺賃貸探すよ。
暖くん求職中なのに悪いし」
「全然悪くない。
もう、仕事も見つかりそうなんだ」
「そなの?すごい」
「もうマンションも探すし、そこで暮らそうよ。
…俺、律とより戻したくて戻ってきたんだから」
「暖くん…」
「律の記憶がちゃんと戻って、俺の事好きだと思ってくれるなら、また恋人になってくれる?」
「…まあ、…うん…その時は」
「じゃあさ、それまで同居人としていよう。もちろん、手は出さないから」
カラッと笑う暖くんに俺も笑ってしまった。
「…じゃあ、甘えさせてもらおうかな。
…いったん戻って、俺の荷物取ってくる。
荷物っていってもほとんどないけどね」
通帳と印鑑だけだな。
買ってくれた服とかゲームとかは…うん、置いていこう。
「分かった。待ってる。
…そういえばその服、凄いブランド物だね。
なんか…律に合わないというか、見慣れない」
昨日から俺は白のハイゲージニットにテーパードパンツ、そうだよな、上品過ぎるかも。俺、そんな上品な人間じゃないし。
「だよね?戻った時に着替えてくるわ」
「うん…合わない訳じゃないけど、なんか、貴公子、みたい。目立つというか」
「貴公子って…ふふっ」
そうだよな、暖くん、目立つのも嫌がるしな。
朝食を終えてから俺はまたこのホテルに戻るのを約束して、一度颯真の家へ戻ったのだった。
今日は金曜日、颯真は仕事だけど、松本さんはいるよな。
マンションへ着いて俺は松本さんを驚かそうと企み、そーっと玄関を開ける。
靴は2足…ん?
キッチンにいるだろう松本さんに、わっ!と声をかけるつもりだった。
すると、しーんと静かな室内。
あれ?松本さん、休みかな?
あの靴はもしかして?と思い室内に入ると、颯真の部屋からボソボソと声が聞こえてきた。
颯真…?やっぱり今日いるのかな、そう思い部屋に向かうと少しドアが開いている。
「…俺はもう大丈夫だから、優希、戻って」
「そんな…こんな顔色の先輩を放って置けません」
颯真と秘書の八乙女だ。
颯真はベッドから起き上がり、着替えようとしていた。
体調が悪いのか少し青い顔をしながらも、シャツに着替えようとした颯真に
「先輩!」と八乙女が縋り付く。
「僕は…僕はずっと側にいます。
好きなんです、ずっと前から。
僕なら、貴方を絶対悲しませない」
颯真はそんな八乙女に驚き目を丸くしていたが、
「…ありがとう、優希。
お前は、いい男だよ」
と、ぽんと八乙女の頭に手を置いた。
八乙女は、自分より頭一つ分くらい高い颯真を支えるように懐に入り、顔を近づける。
二人は、キスしているように見えた。
……。
俺は音を立てないように静かに外に出て、ずっと息を殺してた分大きく深呼吸する。
「…なんだよ、家、入れないじゃん…」
ぽつんと呟きながら、近くの公園に行きベンチに腰を下ろす。
良かったじゃないか、二人はこれからもうまくやっていくだろ。
最初から颯真がなんで俺の面倒なんてみたのか、本当に俺の事が好きだったのかな。
ウリ専の俺を可哀想に思ったのかもな。。
何となく胸の痛みを感じながら、俺は午後まで時間をつぶし、もう一度家に戻ってみた。
そろーっと鍵を開けて入ると、靴は一足に減っていた。
するとパタパタとこちらに向かってくる足音が聞こえ、颯真が顔を出した。
「律…戻ったのか」
ほっとしたような表情の颯真に、
「うん」と返事して自分の部屋に向かう。
「何で今日いるの?仕事は?」
「少し…体調を崩して、在宅で仕事してた。…律?何してる?」
服を脱ぎ捨て、今までのパーカーとパンツに着替えていると颯真に詰め寄られる。
「…好きな人に会えたんだ。
向こうも俺を探しててくれて、その人のところに行こうと思う」
「な…」
引き出しを開けて通帳と印鑑を取り出す。
バッグがないので、危ないけどパーカーのポケットにしまった。
「…1ヶ月くらいかな?
面倒みてくれて、ありがとう。
…服とか、スマホとか、置いていくね」
颯真は手で顔を覆っている。
「…体は?記憶は?どうなんだ?」
「あー、うん、戻った」
俺はもう颯真に面倒をかけたくないので、嘘をついた。
「思い出した…?俺の事は?」
「あー、お客さんでしょ?
…ほんと、迷惑かけて、すみませんでした」
ペコリと頭を下げると
「やめろ」と颯真が静かな声で止める。
「…服も、スマホも、お前のものだ。
持っていってくれ」
「…いや、いいよ。
なんか、やっぱ俺には合わないわ、こんな高いもの…」
俺は手ぶらで颯真の前を通り過ぎて、靴箱から履き古したスニーカーを出した。
「あ、松本さんは?」
「…今日はお休みにしてもらった」
「…そっか。最後に挨拶したかったけど…。
しょうがないか…。
じゃあ、よろしく言っておいて。
…それじゃ、ありがとう、颯真。
お大事に…、あと、お幸せに」
「律!」玄関で後ろから抱きしめられる。
「なんだ…幸せに、って、どういう事だ」
「……言葉通りだけど」
俺はさっきの八乙女さんと颯真の姿を思い出していた。
「…スマホもないなら、もうお前とは会えないのか?」
「…shock、また来たら?
俺は結局そこでまた働いてそうだし」
「律!もう、ウリはやめろよ…、お前、店やってみたいとか言ってたじゃないか」
「…言ってみただけ。
俺には、そういうの似合わないし」
「似合うとか似合わないとかどうでもいい。
お前がやりたい事を逃げずに、目指してみろよ。…大丈夫、お前なら、できる」
「……」
お前ならできる、なんて言われたことなくてなんか胸が熱くなった。
「えっと…ありがとう。…もう行くよ。
…ありがとう」
二度もお礼を言いながら俺は颯真の家を出た。
少し歩いて、振り返る。
記憶をなくしてこの家で過ごしたとき、なんだかんだ、楽しかった。
松本さんや、颯真にハーブティー淹れて他愛もない話をして。
でも、俺にはそんな優しいところ、やっぱり似合わない。だって俺は汚いもの。
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