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第一章 王子と神獣のたまご

011 レナーテの部屋にて(レナーテ視点)

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 レナーテの部屋にて、アレクとレナーテはお茶を嗜んでいた。

「機嫌……。悪いよな?」
「そう? 別に」

 レナーテはアレクの質問に素っ気なく答えると、紅茶を一気に飲み干した。

「やっぱ、機嫌悪いじゃないか」
「だって。性格変わり過ぎじゃありませんこと? 今までずっと、我が国の不遇は巫女のせいだ。巫女は処刑だって言い続けてきたのは、お姉様なのに」
「そうだけど。いいじゃないか。五十年前と同じ人間が巫女として召喚されることはないんだろうから」

 アレクの言葉には一理ある。
 しかし、それをあの姉に言われるのは理解不能だ。
 それに、こちらに不利益が生じる可能性は否めないままである。

「……そうね。――じゃあ、私は巫女を探して見つけたら保護してあげればいいのよね。その後は、どうするつもりなの?」
「そうだな。神獣の巫女に据え置けば、力を得て何をし始めるか分からないからな。人でも足りていない事だし、畑仕事でも手伝ってもらうか」
「それを拒否されたら? また、裏切られたら?」
「……逆に、受け入れられたら? 国の為に尽力してくれるかもしれない。相手の事を何も知らずに、こっちが勝手に呼んだのに即刻処分なんて、身勝手だろ?」 

 そんな事、今まで一度も口にしたことがなかったのに。
 神獣が生まれてから、アレクがおかしい。

「誰かの受け売りかしら?」
「姉様だよ。信じられないよな。多分だけど、召喚の儀を通して世界の真理に触れて、淀みきった心は全て洗い流されたんじゃないかな」
「世界の真理?……そう。アレクの意向は良く分かったわ。私も先入観に囚われ過ぎずに、相手を見るようにしてみるわ」
「ああ。巫女の方はレナーテに任せた。記憶喪失の姉様と神獣の護衛は任せてくれ」
「ええ」

 アレクは満足そうに微笑むと部屋を出て行く。
 レナーテは椅子に腰掛けたままアレクの背中を見送り、扉が閉まると同時にため息を漏らした。

「なぁにが心が洗い流されたよ。馬鹿じゃないの」

 自分勝手で傲慢な姉が、そうそう変わる筈がない。
 きっと何か企んでいるのだろう。しかし裏があるような女に神獣まで騙されるものだろうか。

「もしかしたら、神獣様が自らを成長させる為に、姉様やアレクを洗脳しているのかしら。アレクは友好のペンダントを持っているし……。でも、もしその洗脳が解けたら、アレクは良いとしても、お姉様は危険分子だわ。私が……トルシュの秩序を守らなくちゃ」


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