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第五章 巫女と隣国の王子
017 囚われの神獣(?)
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「アカリ。これは二人だけの秘密だよ」
神獣様はそう言って私の唇に人差し指をそっと差し出し、それは今にも触れそうな場所で止まり離れていった。
「さて、お客様が来そうだね。私は囚われの神獣でも演じますか」
神獣様から眩い光が発せられたかと思うと、着ていた衣服と共に白銀の羽がヒラリと舞い落ち、神獣様は鳥型へと変化していた。そして神獣様は衣服を咥えて本棚の奥へと飛んでいくと、二重扉の廊下側の扉が開いた音がした。
ノックの後、入室してきたのは山盛りのお菓子を盆に乗せたロベールだった。神獣様は、いつの間にか足枷を付けて床に寝そべっていて、ロベールは横目でそれを確認すると、テーブルに盆を置いた。
「やぁ。身代わり姫。食事の追加だよ」
「お菓子ばかりですね」
「ふぅーん。顔は一緒でも好みは違うのだな。今度はハムでも持ってこようか?」
「え? あ、大丈夫です」
「そうか。指輪、外せたかい?」
「いえ」
「まぁ、そのままでもいいよ。じゃぁ、ごきげんよう」
私への関心なんて何もないのだろう。ロベールは用だけ済ますとさっさと部屋を出て行った。
でも、指輪に関してもあっさりしていたことに違和感がある。もしかしたら、指輪を外せても意味のない状況へと変化したのではないだろうか。
「アカリ。お客様」
振り返ると本棚の隙間から人型の神獣様が現れて、その後ろにはノエルがいた。
「の、ノエルっ!? どうやってここまで?」
「ロベールの後をつけてきたんだ」
「何か呪われてるね。解いてあげようか?」
「だ、駄目ですっ。これがあるからここまで来れたので、それに、呪いを解けばゼクスが俺の居場所を探せなくなる」
ゼクスもノエルも、私達を探してくれていたのだ。
ノエルは呪いを受けてまで探しに来てくれたようだ。
「ここからはいつでも出られるから、探されなくても大丈夫だったんだけど」
「は?」
「でも、こうして探されてるってことは、クラルテは、もうアレク達に見破られてしまったんだね。全く、何がしたいんだか」
「そのことですが、さっきあいつらの話を聞いたんです」
◇◇
ノエルの話によると、クラルテは陛下の生誕祭の余興として私を差し出しすようだ。私が雅さんの立場に置き替わったと考えればよいみたい。
ノエルは私の方をあまり見ようとせず、酷く落ち着かない様子ではあるけれど、神獣様は涼しい顔をしていた。
「そうか。それも良いかもしれないな。その大舞台で、アカリは元の世界に帰ればいいから」
「へ?」
ノエルは驚いた顔で私と神獣様を交互に見やり、平然とした私を見ると更に困惑していた。
でも、私と神獣様は、これからの事を心に決めていたのだ。
「そうですね。でも、友好の証がまだ……」
「リシャールなら、これを取りに来る時に会えるだろう」
「いやいや。ちょっと待て。お、お前、本当にその異世界ってところに帰るのか?」
「え、ええ。色々と考えたのだけれど、帰れるのなら帰りたいの」
「……弟のことか?」
「え? カインさんから聞いたの?」
そう尋ねると、ノエルは口ごもった後に神獣様へ視線を向けた。
「いや。でも……神獣様は大丈夫なのですか?」
「ああ。私の本望でもあるからな」
「また、卵に戻ることもあるのですか? 兄者は卵に戻ったのは巫女ではなく誰かこの世界の者のせいじゃないかって。そうなのですか?」
「そうだね。……巫女のせいではない」
笑ってそれ以上は口を噤んだ神獣様。
私に話したことは言わないつもりらしい。
「ノエルには話しても良いのではないでしょうか?」
「でも、それで邪魔されたら? また繰り返されたら?」
「繰り返す?……もしかして、テニエのせいなのですか? 神獣様が、卵になってしまったのは」
神獣様の言葉にノエルが食い気味で尋ねると、神獣様もその言葉を遮るようにして言葉を返した。
「テニエのっていうか――。ノエルに、昔話をひとつ、してあげるよ」
神獣様はそう言って私の唇に人差し指をそっと差し出し、それは今にも触れそうな場所で止まり離れていった。
「さて、お客様が来そうだね。私は囚われの神獣でも演じますか」
神獣様から眩い光が発せられたかと思うと、着ていた衣服と共に白銀の羽がヒラリと舞い落ち、神獣様は鳥型へと変化していた。そして神獣様は衣服を咥えて本棚の奥へと飛んでいくと、二重扉の廊下側の扉が開いた音がした。
ノックの後、入室してきたのは山盛りのお菓子を盆に乗せたロベールだった。神獣様は、いつの間にか足枷を付けて床に寝そべっていて、ロベールは横目でそれを確認すると、テーブルに盆を置いた。
「やぁ。身代わり姫。食事の追加だよ」
「お菓子ばかりですね」
「ふぅーん。顔は一緒でも好みは違うのだな。今度はハムでも持ってこようか?」
「え? あ、大丈夫です」
「そうか。指輪、外せたかい?」
「いえ」
「まぁ、そのままでもいいよ。じゃぁ、ごきげんよう」
私への関心なんて何もないのだろう。ロベールは用だけ済ますとさっさと部屋を出て行った。
でも、指輪に関してもあっさりしていたことに違和感がある。もしかしたら、指輪を外せても意味のない状況へと変化したのではないだろうか。
「アカリ。お客様」
振り返ると本棚の隙間から人型の神獣様が現れて、その後ろにはノエルがいた。
「の、ノエルっ!? どうやってここまで?」
「ロベールの後をつけてきたんだ」
「何か呪われてるね。解いてあげようか?」
「だ、駄目ですっ。これがあるからここまで来れたので、それに、呪いを解けばゼクスが俺の居場所を探せなくなる」
ゼクスもノエルも、私達を探してくれていたのだ。
ノエルは呪いを受けてまで探しに来てくれたようだ。
「ここからはいつでも出られるから、探されなくても大丈夫だったんだけど」
「は?」
「でも、こうして探されてるってことは、クラルテは、もうアレク達に見破られてしまったんだね。全く、何がしたいんだか」
「そのことですが、さっきあいつらの話を聞いたんです」
◇◇
ノエルの話によると、クラルテは陛下の生誕祭の余興として私を差し出しすようだ。私が雅さんの立場に置き替わったと考えればよいみたい。
ノエルは私の方をあまり見ようとせず、酷く落ち着かない様子ではあるけれど、神獣様は涼しい顔をしていた。
「そうか。それも良いかもしれないな。その大舞台で、アカリは元の世界に帰ればいいから」
「へ?」
ノエルは驚いた顔で私と神獣様を交互に見やり、平然とした私を見ると更に困惑していた。
でも、私と神獣様は、これからの事を心に決めていたのだ。
「そうですね。でも、友好の証がまだ……」
「リシャールなら、これを取りに来る時に会えるだろう」
「いやいや。ちょっと待て。お、お前、本当にその異世界ってところに帰るのか?」
「え、ええ。色々と考えたのだけれど、帰れるのなら帰りたいの」
「……弟のことか?」
「え? カインさんから聞いたの?」
そう尋ねると、ノエルは口ごもった後に神獣様へ視線を向けた。
「いや。でも……神獣様は大丈夫なのですか?」
「ああ。私の本望でもあるからな」
「また、卵に戻ることもあるのですか? 兄者は卵に戻ったのは巫女ではなく誰かこの世界の者のせいじゃないかって。そうなのですか?」
「そうだね。……巫女のせいではない」
笑ってそれ以上は口を噤んだ神獣様。
私に話したことは言わないつもりらしい。
「ノエルには話しても良いのではないでしょうか?」
「でも、それで邪魔されたら? また繰り返されたら?」
「繰り返す?……もしかして、テニエのせいなのですか? 神獣様が、卵になってしまったのは」
神獣様の言葉にノエルが食い気味で尋ねると、神獣様もその言葉を遮るようにして言葉を返した。
「テニエのっていうか――。ノエルに、昔話をひとつ、してあげるよ」
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