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第六章 王子と指輪と誕生日
004 薔薇の種
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「セシル?」
「……ん~?」
名前を呼ばれて目覚めるとエメラルド色の瞳が見えた。
ああ。憧れの女の子だ。
「また。教会に来ていたんですね~」
「寝ぼけてるのか?」
「へ……。あ、アルベリク様でしたか!」
セシルはガバッとベッドから飛び起きた。
ベッドに腰かけたままのセシルに、アルベリクは小さな紙袋を渡した。中には小さな種がいくつか入っている。
「それは薔薇の種、父が遺したものだ。種からは育ちにくいが、お前なら出きるだろ。それで苗を幾つか作って、クロエに渡しておいてくれ」
「青い薔薇の種ですか?」
「やはり……クロエから聞いたのか?」
「はい。クロエ様、喜ぶと思います」
「ああ。頼んだ。それから……少し屋敷を空ける事が多くなる。婆やと常に一緒に過ごすんだぞ?」
「メアリさんと……ですか?」
「そうだ。お前を野放しにしておくと、不安だからな。レオン達にもしばらくこちらには来ないように言ってある」
「えっ。そうなんですか……」
それは寂しい。でも、良い機会だと思って、薬作りに専念するのもアリかもしれない。
「もう少し我慢していてくれ。北の件が落ち着いたら、また馬車に乗ってどこか遠くに行こう」
「へ? それって……」
シュナイト領の訓練所に、セシルも行っていいということだろうか。そういえば、今日はアルベリクが大人しい気がする。
「お前がいないと道中つまらん」
アルベリクはそう言うとセシルを抱きしめ、肩に頭を預けてきた。
今日はどうしたのだろうか。
訓練所で酔った日の事を想起させる。
「お酒でも飲みましたか?」
「いや。少し寝不足なだけだ。あと、セシル不足だ……」
「はい!?」
なぜかアルベリクが弱っている。
いつもこれぐらいだったら子猫みたいで可愛いのに。
セシルはアルベリクの頭にそっと手を乗せた。
髪を撫でるとサラサラで良い香りがする。
「このまま寝たい」
「だ、駄目ですよ。元気になりますように~」
セシルはアルベリクの頭をゆっくり撫でた。
するとアルベリクが急に身体を突き放した。
「お前。魔法を使っただろ?」
「えっ。使ってません!?」
「いや。俺は元気になった。眠気も吹っ飛んだ。お前の無自覚な魔法のせいだ」
「ええ~」
さっきまで可愛かったのに。もう可愛くない。
私の馬鹿。魔法の馬鹿!?
「ええ~。じゃない。絶対に俺がいない間にフラフラするなよ」
「はい」
「それから、ディルク達が、セシルの薬がよく効くと喜んでいた。また頼むぞ」
ボンッと頭にアルベリクの手が乗せられた。
ん? これは褒められた?
「明日からまた向こうに行く。大人しく待っていろよ」
「はい」
アルベリクはそれだけ言うと部屋を出ていった。
アルベリクが言うように、無意識で魔法を使わないように気を付けなくてはいけない。誰かに知られてしまったら、異端者扱いされてしまうのだから。
でも、アルベリクは、少し弱っているぐらいが丁度いいということも分かったことは収穫だった。しかし、何で寝不足だったんだろうか。
「まぁ。いっか」
◇◇
翌朝、アルベリクとレクトは馬でシュナイト領へと出発する。レオンとクロエも見送りに来ていた。セシルは昨日貰った種で苗を作ったので、それをクロエに渡すことにした。
「セシル。昨日用意したのか?」
「はい。アルベリク様がお見舞いに来てくださって、私もすっかり良くなったので」
そう。アルベリクを治した時に、自分も治していたようなのだ。あの後元気すぎて、苗の作成をした。クロエ達とも当分会えないのだろうし、今日がチャンスだと思ったのだ。
「わぁ。薔薇の苗? 私、毎日お世話するね」
「僕も一緒に育てるよ」
「よろしくお願いいたしますね」
レオンは薔薇の苗とセシルを見比べて、首をかしげた。
「でも兄様。セシルはお留守番なのに、どうして遊びにいっちゃ行けないの?」
「セシルは風邪で寝込んでいたのだ。それに、薬作りも頼んでいるから、邪魔しては駄目だぞ」
「「はぁ~い」」
こんな素直で可愛い双子と会えないのは残念だが、今朝、レクトはセシルに、こんなことを言っていた。
「二人が遊びに来ると、リリアーヌ様とか俺の父さんも来るかもしれないだろ? だから、アル様は来ないように言ったんだよ。──セシルを守るために」
そこまで考えてくれているとは。
だったら言えばいいのに。
そう言えば、あの一度きりしかリリアーヌに会っていないのも、アルベリクのお陰なのかもしれない。
「……ん~?」
名前を呼ばれて目覚めるとエメラルド色の瞳が見えた。
ああ。憧れの女の子だ。
「また。教会に来ていたんですね~」
「寝ぼけてるのか?」
「へ……。あ、アルベリク様でしたか!」
セシルはガバッとベッドから飛び起きた。
ベッドに腰かけたままのセシルに、アルベリクは小さな紙袋を渡した。中には小さな種がいくつか入っている。
「それは薔薇の種、父が遺したものだ。種からは育ちにくいが、お前なら出きるだろ。それで苗を幾つか作って、クロエに渡しておいてくれ」
「青い薔薇の種ですか?」
「やはり……クロエから聞いたのか?」
「はい。クロエ様、喜ぶと思います」
「ああ。頼んだ。それから……少し屋敷を空ける事が多くなる。婆やと常に一緒に過ごすんだぞ?」
「メアリさんと……ですか?」
「そうだ。お前を野放しにしておくと、不安だからな。レオン達にもしばらくこちらには来ないように言ってある」
「えっ。そうなんですか……」
それは寂しい。でも、良い機会だと思って、薬作りに専念するのもアリかもしれない。
「もう少し我慢していてくれ。北の件が落ち着いたら、また馬車に乗ってどこか遠くに行こう」
「へ? それって……」
シュナイト領の訓練所に、セシルも行っていいということだろうか。そういえば、今日はアルベリクが大人しい気がする。
「お前がいないと道中つまらん」
アルベリクはそう言うとセシルを抱きしめ、肩に頭を預けてきた。
今日はどうしたのだろうか。
訓練所で酔った日の事を想起させる。
「お酒でも飲みましたか?」
「いや。少し寝不足なだけだ。あと、セシル不足だ……」
「はい!?」
なぜかアルベリクが弱っている。
いつもこれぐらいだったら子猫みたいで可愛いのに。
セシルはアルベリクの頭にそっと手を乗せた。
髪を撫でるとサラサラで良い香りがする。
「このまま寝たい」
「だ、駄目ですよ。元気になりますように~」
セシルはアルベリクの頭をゆっくり撫でた。
するとアルベリクが急に身体を突き放した。
「お前。魔法を使っただろ?」
「えっ。使ってません!?」
「いや。俺は元気になった。眠気も吹っ飛んだ。お前の無自覚な魔法のせいだ」
「ええ~」
さっきまで可愛かったのに。もう可愛くない。
私の馬鹿。魔法の馬鹿!?
「ええ~。じゃない。絶対に俺がいない間にフラフラするなよ」
「はい」
「それから、ディルク達が、セシルの薬がよく効くと喜んでいた。また頼むぞ」
ボンッと頭にアルベリクの手が乗せられた。
ん? これは褒められた?
「明日からまた向こうに行く。大人しく待っていろよ」
「はい」
アルベリクはそれだけ言うと部屋を出ていった。
アルベリクが言うように、無意識で魔法を使わないように気を付けなくてはいけない。誰かに知られてしまったら、異端者扱いされてしまうのだから。
でも、アルベリクは、少し弱っているぐらいが丁度いいということも分かったことは収穫だった。しかし、何で寝不足だったんだろうか。
「まぁ。いっか」
◇◇
翌朝、アルベリクとレクトは馬でシュナイト領へと出発する。レオンとクロエも見送りに来ていた。セシルは昨日貰った種で苗を作ったので、それをクロエに渡すことにした。
「セシル。昨日用意したのか?」
「はい。アルベリク様がお見舞いに来てくださって、私もすっかり良くなったので」
そう。アルベリクを治した時に、自分も治していたようなのだ。あの後元気すぎて、苗の作成をした。クロエ達とも当分会えないのだろうし、今日がチャンスだと思ったのだ。
「わぁ。薔薇の苗? 私、毎日お世話するね」
「僕も一緒に育てるよ」
「よろしくお願いいたしますね」
レオンは薔薇の苗とセシルを見比べて、首をかしげた。
「でも兄様。セシルはお留守番なのに、どうして遊びにいっちゃ行けないの?」
「セシルは風邪で寝込んでいたのだ。それに、薬作りも頼んでいるから、邪魔しては駄目だぞ」
「「はぁ~い」」
こんな素直で可愛い双子と会えないのは残念だが、今朝、レクトはセシルに、こんなことを言っていた。
「二人が遊びに来ると、リリアーヌ様とか俺の父さんも来るかもしれないだろ? だから、アル様は来ないように言ったんだよ。──セシルを守るために」
そこまで考えてくれているとは。
だったら言えばいいのに。
そう言えば、あの一度きりしかリリアーヌに会っていないのも、アルベリクのお陰なのかもしれない。
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