聖女は死に戻り、約束の彼に愛される

春乃紅葉@コミカライズ2作品公開中〜

文字の大きさ
60 / 102
第六章 王子と指輪と誕生日

004 薔薇の種

しおりを挟む
「セシル?」
「……ん~?」

 名前を呼ばれて目覚めるとエメラルド色の瞳が見えた。
 ああ。憧れの女の子だ。

「また。教会に来ていたんですね~」
「寝ぼけてるのか?」
「へ……。あ、アルベリク様でしたか!」

 セシルはガバッとベッドから飛び起きた。

 ベッドに腰かけたままのセシルに、アルベリクは小さな紙袋を渡した。中には小さな種がいくつか入っている。

「それは薔薇の種、父が遺したものだ。種からは育ちにくいが、お前なら出きるだろ。それで苗を幾つか作って、クロエに渡しておいてくれ」
「青い薔薇の種ですか?」
「やはり……クロエから聞いたのか?」
「はい。クロエ様、喜ぶと思います」
「ああ。頼んだ。それから……少し屋敷を空ける事が多くなる。婆やと常に一緒に過ごすんだぞ?」
「メアリさんと……ですか?」
「そうだ。お前を野放しにしておくと、不安だからな。レオン達にもしばらくこちらには来ないように言ってある」
「えっ。そうなんですか……」

 それは寂しい。でも、良い機会だと思って、薬作りに専念するのもアリかもしれない。

「もう少し我慢していてくれ。北の件が落ち着いたら、また馬車に乗ってどこか遠くに行こう」
「へ? それって……」

 シュナイト領の訓練所に、セシルも行っていいということだろうか。そういえば、今日はアルベリクが大人しい気がする。

「お前がいないと道中つまらん」

 アルベリクはそう言うとセシルを抱きしめ、肩に頭を預けてきた。

 今日はどうしたのだろうか。
 訓練所で酔った日の事を想起させる。

「お酒でも飲みましたか?」
「いや。少し寝不足なだけだ。あと、セシル不足だ……」
「はい!?」

 なぜかアルベリクが弱っている。
 いつもこれぐらいだったら子猫みたいで可愛いのに。
 セシルはアルベリクの頭にそっと手を乗せた。
 髪を撫でるとサラサラで良い香りがする。

「このまま寝たい」
「だ、駄目ですよ。元気になりますように~」

 セシルはアルベリクの頭をゆっくり撫でた。
 するとアルベリクが急に身体を突き放した。

「お前。魔法を使っただろ?」
「えっ。使ってません!?」
「いや。俺は元気になった。眠気も吹っ飛んだ。お前の無自覚な魔法のせいだ」
「ええ~」

 さっきまで可愛かったのに。もう可愛くない。
 私の馬鹿。魔法の馬鹿!?

「ええ~。じゃない。絶対に俺がいない間にフラフラするなよ」
「はい」
「それから、ディルク達が、セシルの薬がよく効くと喜んでいた。また頼むぞ」

 ボンッと頭にアルベリクの手が乗せられた。
 ん? これは褒められた?

「明日からまた向こうに行く。大人しく待っていろよ」
「はい」

 アルベリクはそれだけ言うと部屋を出ていった。

 アルベリクが言うように、無意識で魔法を使わないように気を付けなくてはいけない。誰かに知られてしまったら、異端者扱いされてしまうのだから。

 でも、アルベリクは、少し弱っているぐらいが丁度いいということも分かったことは収穫だった。しかし、何で寝不足だったんだろうか。

「まぁ。いっか」

 ◇◇ 

 翌朝、アルベリクとレクトは馬でシュナイト領へと出発する。レオンとクロエも見送りに来ていた。セシルは昨日貰った種で苗を作ったので、それをクロエに渡すことにした。

「セシル。昨日用意したのか?」
「はい。アルベリク様がお見舞いに来てくださって、私もすっかり良くなったので」

 そう。アルベリクを治した時に、自分も治していたようなのだ。あの後元気すぎて、苗の作成をした。クロエ達とも当分会えないのだろうし、今日がチャンスだと思ったのだ。

「わぁ。薔薇の苗? 私、毎日お世話するね」
「僕も一緒に育てるよ」
「よろしくお願いいたしますね」

 レオンは薔薇の苗とセシルを見比べて、首をかしげた。

「でも兄様。セシルはお留守番なのに、どうして遊びにいっちゃ行けないの?」
「セシルは風邪で寝込んでいたのだ。それに、薬作りも頼んでいるから、邪魔しては駄目だぞ」
「「はぁ~い」」

 こんな素直で可愛い双子と会えないのは残念だが、今朝、レクトはセシルに、こんなことを言っていた。

「二人が遊びに来ると、リリアーヌ様とか俺の父さんも来るかもしれないだろ? だから、アル様は来ないように言ったんだよ。──セシルを守るために」

 そこまで考えてくれているとは。
 だったら言えばいいのに。

 そう言えば、あの一度きりしかリリアーヌに会っていないのも、アルベリクのお陰なのかもしれない。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

偽聖女として私を処刑したこの世界を救おうと思うはずがなくて

奏千歌
恋愛
【とある大陸の話①:月と星の大陸】 ※ヒロインがアンハッピーエンドです。  痛めつけられた足がもつれて、前には進まない。  爪を剥がされた足に、力など入るはずもなく、その足取りは重い。  執行官は、苛立たしげに私の首に繋がれた縄を引いた。  だから前のめりに倒れても、後ろ手に拘束されているから、手で庇うこともできずに、処刑台の床板に顔を打ち付けるだけだ。  ドッと、群衆が笑い声を上げ、それが地鳴りのように響いていた。  広場を埋め尽くす、人。  ギラギラとした視線をこちらに向けて、惨たらしく殺される私を待ち望んでいる。  この中には、誰も、私の死を嘆く者はいない。  そして、高みの見物を決め込むかのような、貴族達。  わずかに視線を上に向けると、城のテラスから私を見下ろす王太子。  国王夫妻もいるけど、王太子の隣には、王太子妃となったあの人はいない。  今日は、二人の婚姻の日だったはず。  婚姻の禍を祓う為に、私の処刑が今日になったと聞かされた。  王太子と彼女の最も幸せな日が、私が死ぬ日であり、この大陸に破滅が決定づけられる日だ。 『ごめんなさい』  歓声をあげたはずの群衆の声が掻き消え、誰かの声が聞こえた気がした。  無機質で無感情な斧が無慈悲に振り下ろされ、私の首が落とされた時、大きく地面が揺れた。

捨てられた聖女、自棄になって誘拐されてみたら、なぜか皇太子に溺愛されています

h.h
恋愛
「偽物の聖女であるお前に用はない!」婚約者である王子は、隣に新しい聖女だという女を侍らせてリゼットを睨みつけた。呆然として何も言えず、着の身着のまま放り出されたリゼットは、その夜、謎の男に誘拐される。 自棄なって自ら誘拐犯の青年についていくことを決めたリゼットだったが。連れて行かれたのは、隣国の帝国だった。 しかもなぜか誘拐犯はやけに慕われていて、そのまま皇帝の元へ連れて行かれ━━? 「おかえりなさいませ、皇太子殿下」 「は? 皇太子? 誰が?」 「俺と婚約してほしいんだが」 「はい?」 なぜか皇太子に溺愛されることなったリゼットの運命は……。

婚約破棄された私は、処刑台へ送られるそうです

秋月乃衣
恋愛
ある日システィーナは婚約者であるイデオンの王子クロードから、王宮敷地内に存在する聖堂へと呼び出される。 そこで聖女への非道な行いを咎められ、婚約破棄を言い渡された挙句投獄されることとなる。 いわれの無い罪を否定する機会すら与えられず、寒く冷たい牢の中で断頭台に登るその時を待つシスティーナだったが── 他サイト様でも掲載しております。

〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】毒を飲めと言われたので飲みました。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃シャリゼは、稀代の毒婦、と呼ばれている。 国中から批判された嫌われ者の王妃が、やっと処刑された。 悪は倒れ、国には平和が戻る……はずだった。

義母の企みで王子との婚約は破棄され、辺境の老貴族と結婚せよと追放されたけど、結婚したのは孫息子だし、思いっきり歌も歌えて言うことありません!

もーりんもも
恋愛
義妹の聖女の証を奪って聖女になり代わろうとした罪で、辺境の地を治める老貴族と結婚しろと王に命じられ、王都から追放されてしまったアデリーン。 ところが、結婚相手の領主アドルフ・ジャンポール侯爵は、結婚式当日に老衰で死んでしまった。 王様の命令は、「ジャンポール家の当主と結婚せよ」ということで、急遽ジャンポール家の当主となった孫息子ユリウスと結婚することに。 ユリウスの結婚の誓いの言葉は「ふん。ゲス女め」。 それでもアデリーンにとっては、緑豊かなジャンポール領は楽園だった。 誰にも遠慮することなく、美しい森の中で、大好きな歌を思いっきり歌えるから! アデリーンの歌には不思議な力があった。その歌声は万物を癒し、ユリウスの心までをも溶かしていく……。 ※AI学習禁止・無断転載禁止・無断翻訳禁止・無断朗読禁止

婚約を奪った義妹は王太子妃になりましたが、王子が廃嫡され“廃嫡王子の妻”になりました

鷹 綾
恋愛
「お姉様には、こちらの方がお似合いですわ」 そう言って私の婚約者を奪ったのは、可憐で愛らしい義妹でした。 王子に見初められ、王太子妃となり、誰もが彼女の勝利を疑わなかった――あの日までは。 私は“代わり”の婚約者を押し付けられ、笑いものにされ、社交界の端に追いやられました。 けれど、選ばれなかったことは、終わりではありませんでした。 華やかな王宮。 厳しい王妃許育。 揺らぐ王家の威信。 そして――王子の重大な過ち。 王太子の座は失われ、運命は静かに反転していく。 離縁を望んでも叶わない義妹。 肩書きを失ってなお歩き直す王子。 そして、奪われたはずの私が最後に選び取った人生。 ざまあは、怒鳴り声ではなく、選択の積み重ねで訪れる。 婚約を奪われた姉が、静かに価値を積み上げていく王宮逆転劇。

処理中です...