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第七章 争乱と奇跡の力
010 クリスの来訪
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翌日、アルベリクとディルクはエドワールに呼ばれて本館の広間でクリスを迎えていた。
クリスはエドワールに向かい微笑みながら述べた。
「アルベリク=ファビウス、そしてディルク=シュナイトに、国王より勲章を授与することとなった。一週間後に王都にて授与式を行う。それから、僕の婚約者もそこで発表する予定だ。リリアーヌ、準備をしておいてくれるかい?」
「は、はい。クリス様!」
リリアーヌはクリスに視線に力強く言葉を返す。
クリスは微笑み、続けてある条件をエドワールに提示した。
「それで、前に話していた付き人の件だけど……」
「クリストファ王子。それでしたら手配しております。婆や……失礼。メアリのクッキーを気に入っていてだけたそうで。リリアーヌと共にメアリを行かせます」
「うーんと。ちょっと勘違いさせちゃったみたいで申し訳ないんだけど。僕が言った使用人はその人じゃなくてセシルが――」
「兄上。何のお話ですか?」
セシルの名が出るとアルベリクがいち早く反応した。
しかし、エドワールはそれを笑顔で受け流す。
「アルは、少し黙っていてくれるか?」
アルベリクは怒りで震える拳を握りしめ、唇を噛んだ。
隣のディルクも殺伐としたファビウス家の空気に完全に飲まれ、気配を消し、身体を強張らせた。
クリスは怒りを露にしたアルベリクを見て嘲笑した。
「ははは。アルベリクには言っていないのですか? リリアーヌと婚約する為の条件を」
「はい。リリアーヌから、婚約するにはアルベリクの使用人を一人付けて欲しいと伺っております。ですがそれは、メアリのことですよね?」
「だから、それは勘違いだってっ……」
「では、レクトですか?」
「誰それ?」
エドワールの態度にクリスが苛立ちを見せ始める。
アルベリクもエドワールの意図をはかりかねていた。
「じゃあ、やはりクリストファ王子が言う使用人はメアリです。それ以外に、アルベリクに使用人はいないので」
「あ、兄上。何を言っているのですか?」
「……えっと。どういうことかな? セシルに何かしたの?」
アルベリクも戸惑いの色を見せ、クリスは剣に手を添え、リリアーヌとエドワールを威圧的な瞳でにらみ返した。
エドワールはそれを涼しい笑顔で受けるものの、リリアーヌは恐怖のあまり、胸を押さえてその場にたじろいだ。
「セシルはおりますよ。でも、もう使用人ではないのです。爺や──」
エドワールの掛け声と同時に、広間の扉が開いた。その先にいたのは、はち切れんばかりの筋骨隆々とした執事と、白い修道服を身に纏ったセシルだった。
◇◇◇◇
数十分前。
セシルはレクトと共に書庫の整理をしていた。
「レクト。この本読んだことある?」
「ないよ。んな字ばっかりの本なんか読んでられるかよ」
「えー。面白いのに……」
セシルは口を尖らせ本の表紙を眺めた。
「そういうのはアル様に言えよ。本好きだぞ」
「そっか……」
アルベリクはよく本を読んでいる。カバーが付いていて、いつも何の本を読んでいるのか分からないけれど、今度聞いてみようと思った。
「セシル。ほら、さぼってないで……あれ?」
レクトはセシルの後ろを見て首をかしげた。
一体何を見たのか、セシルが振り向くと──真後ろに爺やが立っていた。
全く気配を感じなかった。
視界に入れば、これでもかというほどの存在感があるのに。
恐るべし、爺や。
「び、びっくりしましたぁ!?」
「君がセシルで間違いないね?」
「は、はい」
「レクト。後の掃除は任せたよ」
「へ? 爺様?」
「エドワール様のご命令だ。セシル。急いで本館に来ておくれ」
爺やに手を引かれ、セシルは咄嗟にそれを振りほどこうとした。
「い、嫌です。本館って……」
本館にはクリスが来ている。
そんな所に行くなんて、絶対に嫌だ。
「大丈夫だよ。エドワール様は君を悪いようにはしない」
「爺様、アル様はこのこと知っているのですか?」
「……見てのお楽しみだとおっしゃっていたな」
「それって。知らないってことじゃないですか!?」
「細かいことは気にするな。さあ、セシル」
「きゃぁぁぁっ」
セシルは爺やの肩に担がれ悲鳴を上げた。
必死でレクトに手を伸ばすが届かなかった。
レクトも手を伸ばすか、爺やに片手で頭を押さえつけられ、手も足も出せずにいる。
「れ、レクト!?」
「セシルっ」
「大丈夫だ。後でちゃんと返すからな。では」
爺やはレクトを弾き飛ばし、そのまま本館へと走り去っていった。
「あらあら。どうしたのかしら?」
「婆様。セシルが連れていかれて……」
「あら。どうしましょう……。でも、あの人が大丈夫というなら。きっと大丈夫なのだと思うわ」
「そ、そうですかね」
「少し、待ちましょう……」
◇◇
そして本館のとある一室にて、セシルは着替えを渡された。
「あの。これは?」
「衣装だよ」
「……えっと。何のですか?」
セシルは白い服を手に取り持ち上げてみた。それはシルクのような優しい肌触りの、真っ白な修道服だった。
「セシル。君は聖女になるのだ」
「せ、聖……女?」
何で、急にこんなことに?
誰が何のために?
いくら考えてもこの状況が理解できなかった。
「さ、エドワール様がお待ちだ。早く着替えなさい。嫌がった場合は無理やりにでもと言われているのだが……」
爺やは指をポキポキと鳴らした。
「じ、自分で出来ます」
流れでつい受諾してしまい、セシルはカーテン越しに爺やの圧をヒシヒシと感じる中、聖女の衣装を身に纏った。
クリスはエドワールに向かい微笑みながら述べた。
「アルベリク=ファビウス、そしてディルク=シュナイトに、国王より勲章を授与することとなった。一週間後に王都にて授与式を行う。それから、僕の婚約者もそこで発表する予定だ。リリアーヌ、準備をしておいてくれるかい?」
「は、はい。クリス様!」
リリアーヌはクリスに視線に力強く言葉を返す。
クリスは微笑み、続けてある条件をエドワールに提示した。
「それで、前に話していた付き人の件だけど……」
「クリストファ王子。それでしたら手配しております。婆や……失礼。メアリのクッキーを気に入っていてだけたそうで。リリアーヌと共にメアリを行かせます」
「うーんと。ちょっと勘違いさせちゃったみたいで申し訳ないんだけど。僕が言った使用人はその人じゃなくてセシルが――」
「兄上。何のお話ですか?」
セシルの名が出るとアルベリクがいち早く反応した。
しかし、エドワールはそれを笑顔で受け流す。
「アルは、少し黙っていてくれるか?」
アルベリクは怒りで震える拳を握りしめ、唇を噛んだ。
隣のディルクも殺伐としたファビウス家の空気に完全に飲まれ、気配を消し、身体を強張らせた。
クリスは怒りを露にしたアルベリクを見て嘲笑した。
「ははは。アルベリクには言っていないのですか? リリアーヌと婚約する為の条件を」
「はい。リリアーヌから、婚約するにはアルベリクの使用人を一人付けて欲しいと伺っております。ですがそれは、メアリのことですよね?」
「だから、それは勘違いだってっ……」
「では、レクトですか?」
「誰それ?」
エドワールの態度にクリスが苛立ちを見せ始める。
アルベリクもエドワールの意図をはかりかねていた。
「じゃあ、やはりクリストファ王子が言う使用人はメアリです。それ以外に、アルベリクに使用人はいないので」
「あ、兄上。何を言っているのですか?」
「……えっと。どういうことかな? セシルに何かしたの?」
アルベリクも戸惑いの色を見せ、クリスは剣に手を添え、リリアーヌとエドワールを威圧的な瞳でにらみ返した。
エドワールはそれを涼しい笑顔で受けるものの、リリアーヌは恐怖のあまり、胸を押さえてその場にたじろいだ。
「セシルはおりますよ。でも、もう使用人ではないのです。爺や──」
エドワールの掛け声と同時に、広間の扉が開いた。その先にいたのは、はち切れんばかりの筋骨隆々とした執事と、白い修道服を身に纏ったセシルだった。
◇◇◇◇
数十分前。
セシルはレクトと共に書庫の整理をしていた。
「レクト。この本読んだことある?」
「ないよ。んな字ばっかりの本なんか読んでられるかよ」
「えー。面白いのに……」
セシルは口を尖らせ本の表紙を眺めた。
「そういうのはアル様に言えよ。本好きだぞ」
「そっか……」
アルベリクはよく本を読んでいる。カバーが付いていて、いつも何の本を読んでいるのか分からないけれど、今度聞いてみようと思った。
「セシル。ほら、さぼってないで……あれ?」
レクトはセシルの後ろを見て首をかしげた。
一体何を見たのか、セシルが振り向くと──真後ろに爺やが立っていた。
全く気配を感じなかった。
視界に入れば、これでもかというほどの存在感があるのに。
恐るべし、爺や。
「び、びっくりしましたぁ!?」
「君がセシルで間違いないね?」
「は、はい」
「レクト。後の掃除は任せたよ」
「へ? 爺様?」
「エドワール様のご命令だ。セシル。急いで本館に来ておくれ」
爺やに手を引かれ、セシルは咄嗟にそれを振りほどこうとした。
「い、嫌です。本館って……」
本館にはクリスが来ている。
そんな所に行くなんて、絶対に嫌だ。
「大丈夫だよ。エドワール様は君を悪いようにはしない」
「爺様、アル様はこのこと知っているのですか?」
「……見てのお楽しみだとおっしゃっていたな」
「それって。知らないってことじゃないですか!?」
「細かいことは気にするな。さあ、セシル」
「きゃぁぁぁっ」
セシルは爺やの肩に担がれ悲鳴を上げた。
必死でレクトに手を伸ばすが届かなかった。
レクトも手を伸ばすか、爺やに片手で頭を押さえつけられ、手も足も出せずにいる。
「れ、レクト!?」
「セシルっ」
「大丈夫だ。後でちゃんと返すからな。では」
爺やはレクトを弾き飛ばし、そのまま本館へと走り去っていった。
「あらあら。どうしたのかしら?」
「婆様。セシルが連れていかれて……」
「あら。どうしましょう……。でも、あの人が大丈夫というなら。きっと大丈夫なのだと思うわ」
「そ、そうですかね」
「少し、待ちましょう……」
◇◇
そして本館のとある一室にて、セシルは着替えを渡された。
「あの。これは?」
「衣装だよ」
「……えっと。何のですか?」
セシルは白い服を手に取り持ち上げてみた。それはシルクのような優しい肌触りの、真っ白な修道服だった。
「セシル。君は聖女になるのだ」
「せ、聖……女?」
何で、急にこんなことに?
誰が何のために?
いくら考えてもこの状況が理解できなかった。
「さ、エドワール様がお待ちだ。早く着替えなさい。嫌がった場合は無理やりにでもと言われているのだが……」
爺やは指をポキポキと鳴らした。
「じ、自分で出来ます」
流れでつい受諾してしまい、セシルはカーテン越しに爺やの圧をヒシヒシと感じる中、聖女の衣装を身に纏った。
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