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第八章 終焉と死に戻りの秘密
006 回想・1
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俺はずっと、父の背中を遠くから見てきた。
母が死んでから。いや。母が病にかかってから、父はずっと、何かに取り憑かれたように書物を読み漁っていた。
そんな父を理解できないまま、父は病で死に、死に際に兄と俺にある本を遺した。
魔法と魔術についての本だった。兄と二人でその本を読み、父がしたかったことをようやく理解した。
兄は父を嘲笑し、俺も父を尊敬することはなかった。遺された子供達より、亡くなった母しか見ていなかった父を、可哀想な人だな。としか思わなかった。
一緒に剣の訓練をしていた兄は当主となり、俺はシュナイト領へ行くことが増え、剣に没頭した。たまに寄付金を手に教会へ行き、セシルの様子を伺いながら。
◇◇
時は流れ、北で争乱が起こった。
そこで俺は、目の前で親友を失った。
俺を庇って、俺のせいでディルクは死んだ。
ディルクは俺の唯一の友だった。
ディルクの死は、俺の心にぽっかりと大きな穴を空けた。
父が死んだ時とは違う。
共に分かり合える者の死は辛かった。
母が死んだ時と同じように。
それでもその悲しさを埋めるため。
もう誰も失いたくなくて、剣の技を磨いた。
国の剣術大会で優勝するほどに。
でも、なぜだろう。
優勝したら余計に虚しくなった。
ディルクがいたらディルクが優勝していたはずだ。
何で俺が、俺なんかが生きて、今ここにいるのか。
分からなくなった。
そんな時思い出したのは、セシルの顔だった。
「泣いていいよ。――」
そう言って微笑むセシルに無性に会いたくなった。
どうしても流せなかった涙が、セシルの前なら許される気がした。
セシルは自分を覚えているだろうか。
時折見かけるセシルはいつも笑顔だった。
仲の良い子が出来たのか、金髪の少年と楽しそうに話している姿を見かけたこともある。
きっとセシルの笑顔を見たら、また俺は立ち直れる。
そう思って、久しぶりに教会へ足を向けた。
◇◇
その日はやけに騒がしかった。
教会前の広場で異端者の処刑が行われたのだ。
広場に残る人々のざわめきと、何かが焼けたような異臭が鼻をついた。
話しに聞くと、女の子を庇って大怪我をした少年を、その女の子が魔法で治したそうだ。皆の前で魔法を使った少女──いや、魔女は、その場にいた皆に恐れられ罵られ、広場で火炙りの刑に処せられたらしい。
灰と化した魔女の前で一人の青年が泣いていた。金髪で青い目をした青年は、悲しみと憎しみを、その灰へと向けた。
「君を愛していたのに。君がただの村娘でも。……でも、魔女だったなんて……僕を騙していたなんて。酷いよ――セシル」
自分の耳を疑った。
この青年は今、セシルと言ったのか?
セシルが魔女?
セシルが死んだ?
しかも、誰かを救ったのに……殺された?
ディルクもそうだ。
俺を救ったのに死んだ。
セシルだって、俺の事を救ってくれたのに。
俺は教会へ急いだ。
セシルはいなかった。どこにもいなかった。
広場へ戻ると、処刑台が片付けられていた。
魔女の灰は遺留品と共に雑に麻の袋に入れられていた。
不吉な物だから、国の外へと捨てるそうだ。
俺は領主の弟と名乗りその灰と遺品を預かった。
袋の中には白い粉とロザリオとアクアマリンの指輪が入っていた。
俺はその指輪を見て思い出した。
父の研究を、父がやろうとしていた蘇生術を。
◇◇
屋敷に戻り古い木箱を開いた。
兄と試しに集めていた魔術の媒体を取り出す。
青い薔薇、光蝶の鱗粉。遊び半分で集めてみたのだが、使う日が来るとは思っていなかった。
後、必要なのは、アクアマリンの指輪、蘇らせたい者の身体。
それから――術者の血と、その命だ。
兄と初めてこの本を読んだ時、命を投げうってまで救いたいものなど考えられなかった。
それに、こんな本に書いてある、まやかしの様なものを信じて命を捨てることなど出来ないと思っていた。
でも、今の俺は、それを試してみようと思った。
その結果を、自分は知らずに死ぬのだろうけれど。
でも、未練はない。
親友を自分の身代わりに失い。
過去の想い出の少女も失った。
迎えに行く約束すら果たせぬままに。
誰かの為になにも出来ていないのに。誰かを救って消えていった人々の代わりに、生かされている自分。
そんな自分が、君の役に立てるのなら……。
成功するかは分からない。
でも、この命と引き換えに――。
「君がまた、笑ってくれるなら。それが俺の本望だ」
俺は黒い短剣を、自分の胸に突き立てた。
母が死んでから。いや。母が病にかかってから、父はずっと、何かに取り憑かれたように書物を読み漁っていた。
そんな父を理解できないまま、父は病で死に、死に際に兄と俺にある本を遺した。
魔法と魔術についての本だった。兄と二人でその本を読み、父がしたかったことをようやく理解した。
兄は父を嘲笑し、俺も父を尊敬することはなかった。遺された子供達より、亡くなった母しか見ていなかった父を、可哀想な人だな。としか思わなかった。
一緒に剣の訓練をしていた兄は当主となり、俺はシュナイト領へ行くことが増え、剣に没頭した。たまに寄付金を手に教会へ行き、セシルの様子を伺いながら。
◇◇
時は流れ、北で争乱が起こった。
そこで俺は、目の前で親友を失った。
俺を庇って、俺のせいでディルクは死んだ。
ディルクは俺の唯一の友だった。
ディルクの死は、俺の心にぽっかりと大きな穴を空けた。
父が死んだ時とは違う。
共に分かり合える者の死は辛かった。
母が死んだ時と同じように。
それでもその悲しさを埋めるため。
もう誰も失いたくなくて、剣の技を磨いた。
国の剣術大会で優勝するほどに。
でも、なぜだろう。
優勝したら余計に虚しくなった。
ディルクがいたらディルクが優勝していたはずだ。
何で俺が、俺なんかが生きて、今ここにいるのか。
分からなくなった。
そんな時思い出したのは、セシルの顔だった。
「泣いていいよ。――」
そう言って微笑むセシルに無性に会いたくなった。
どうしても流せなかった涙が、セシルの前なら許される気がした。
セシルは自分を覚えているだろうか。
時折見かけるセシルはいつも笑顔だった。
仲の良い子が出来たのか、金髪の少年と楽しそうに話している姿を見かけたこともある。
きっとセシルの笑顔を見たら、また俺は立ち直れる。
そう思って、久しぶりに教会へ足を向けた。
◇◇
その日はやけに騒がしかった。
教会前の広場で異端者の処刑が行われたのだ。
広場に残る人々のざわめきと、何かが焼けたような異臭が鼻をついた。
話しに聞くと、女の子を庇って大怪我をした少年を、その女の子が魔法で治したそうだ。皆の前で魔法を使った少女──いや、魔女は、その場にいた皆に恐れられ罵られ、広場で火炙りの刑に処せられたらしい。
灰と化した魔女の前で一人の青年が泣いていた。金髪で青い目をした青年は、悲しみと憎しみを、その灰へと向けた。
「君を愛していたのに。君がただの村娘でも。……でも、魔女だったなんて……僕を騙していたなんて。酷いよ――セシル」
自分の耳を疑った。
この青年は今、セシルと言ったのか?
セシルが魔女?
セシルが死んだ?
しかも、誰かを救ったのに……殺された?
ディルクもそうだ。
俺を救ったのに死んだ。
セシルだって、俺の事を救ってくれたのに。
俺は教会へ急いだ。
セシルはいなかった。どこにもいなかった。
広場へ戻ると、処刑台が片付けられていた。
魔女の灰は遺留品と共に雑に麻の袋に入れられていた。
不吉な物だから、国の外へと捨てるそうだ。
俺は領主の弟と名乗りその灰と遺品を預かった。
袋の中には白い粉とロザリオとアクアマリンの指輪が入っていた。
俺はその指輪を見て思い出した。
父の研究を、父がやろうとしていた蘇生術を。
◇◇
屋敷に戻り古い木箱を開いた。
兄と試しに集めていた魔術の媒体を取り出す。
青い薔薇、光蝶の鱗粉。遊び半分で集めてみたのだが、使う日が来るとは思っていなかった。
後、必要なのは、アクアマリンの指輪、蘇らせたい者の身体。
それから――術者の血と、その命だ。
兄と初めてこの本を読んだ時、命を投げうってまで救いたいものなど考えられなかった。
それに、こんな本に書いてある、まやかしの様なものを信じて命を捨てることなど出来ないと思っていた。
でも、今の俺は、それを試してみようと思った。
その結果を、自分は知らずに死ぬのだろうけれど。
でも、未練はない。
親友を自分の身代わりに失い。
過去の想い出の少女も失った。
迎えに行く約束すら果たせぬままに。
誰かの為になにも出来ていないのに。誰かを救って消えていった人々の代わりに、生かされている自分。
そんな自分が、君の役に立てるのなら……。
成功するかは分からない。
でも、この命と引き換えに――。
「君がまた、笑ってくれるなら。それが俺の本望だ」
俺は黒い短剣を、自分の胸に突き立てた。
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