聖女は死に戻り、約束の彼に愛される

春乃紅葉@コミカライズ2作品公開中〜

文字の大きさ
86 / 102
第八章 終焉と死に戻りの秘密

005 古びた木箱

しおりを挟む
 アルベリクはセシルを抱きしめ咽び泣いた。

「何でっ!? いつもこうなるんだ。セシル。どうして自分を治さないんだよ……。もう、お前が死ぬ姿なんか見たくなかったのに――そのために俺はっ」

 レクトはセシルを抱きしめて泣いて叫ぶアルベリクの背中を呆然と眺めていた。

「アル様。どうしてセシルが……」

 アルベリクはその言葉に答えなかった。
 言葉にするには、辛すぎる現実だった。

「レクト。それから婆や。最後に頼みがある」
「アル様。最後って……何言ってるんですか?」

 レクトは持っていた木箱を地面に下ろし、アルベリクの腕を掴んだ。何処か遠くへ消えてしまいそうなアルベリクを繋ぎ止めたくて。

「俺を殺したのはクリストファ王子だ。兄上に頼んで断罪してくれ」
「あ、アル様は生きているじゃないですか。何でそんなこと……」
「それから、書斎の――……何故これがここに?」

 アルベリクが地面におかれた木箱に気付くと、メアリがそれを拾い上げアルベリクに渡した。

「必要かと思ってお持ちしました。ですが……」
「婆やは知っていたのか?」
「前当主オズワルド様がされていた研究は存じております。エドワール様もそれはご存じでしょう。アル様がその研究を続けていたことも……」

 古びた木箱を見つめるアルベリクとメアリに、レクトは話の意味が分からず困惑していた。

「婆様。さっきから何の話をしているんですか?」
「レクト。下がりましょう」
「えっ、なんで……」

 メアリに腕を捕まれ、レクトはアルベリクから引き離された。アルベリクは木箱を胸にセシルを見下ろした。

「レクト。俺がいなくなったら、俺の剣はお前にやる」
「いなくなったらって……」
「大丈夫だ。俺はセシルとまた旅に出るだけだ。何も悲しむ必要はない。いや、セシルがどうなるのかは、俺には分からないが……」

 アルベリクはそう言うと、セシルを芝生の上に寝かせ、ロザリオを握らせた。左手の薬指にはアクアマリンの指輪が輝いている。

 そして木箱を開き一冊の本を取り出した。

 魔方陣が書かれたページを開き、その上に金色の粉が付いた枯れ葉と青い薔薇の花を一輪乗せる。

 何の迷いもなく何かの準備を進めるアルベリクを、レクトは不思議そうに眺めていた。

「婆様。アル様は何をしているのですか?」
「蘇生術よ」
「……はい? アル様は魔法使いなのですか?」
「違うわ。あれは黒魔術の一種よ。前当主オズワルド様は、奥様を亡くされてから、ずっと黒魔術の研究をされていたの。亡き奥様ともう一度会いたいが為に……」

 蘇生。黒魔術。
 初めて聞く言葉ばかりで、レクトには理解しきれなかった。

 でも――。

「……それって。セシルが生き返るってことですか?」
「分からないわ。でも、アル様ご自身は助からないのだと思うわ……」
「えっ……。な、何で止めないんですか?」
「分からないけれど、止めてはいけない気がするの」
「……婆様。俺、嫌です」
「レクト。駄目よ。アル様の最後のお願いを聞いてあげなくては…… 」
「アル様に死ねって言われたら死ねますけど。アル様が死ぬって言われたら、見過ごせないです」

 アルベリクを止めに入ろうとしたレクトをメアリは引き留めた。

「駄目よっ。きっと、アル様は分かっているの。これから自分がどうなるのか。何が起きるのか」
「それって、どういう意味ですか!?」
「今回が初めてじゃないのよ。きっと……。アル様は、ずっと何かを後悔していらした。セシルを連れてきたあの日から……」

 メアリは感じていた。アルベリクの些細な変化を。



しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

婚約破棄された私は、処刑台へ送られるそうです

秋月乃衣
恋愛
ある日システィーナは婚約者であるイデオンの王子クロードから、王宮敷地内に存在する聖堂へと呼び出される。 そこで聖女への非道な行いを咎められ、婚約破棄を言い渡された挙句投獄されることとなる。 いわれの無い罪を否定する機会すら与えられず、寒く冷たい牢の中で断頭台に登るその時を待つシスティーナだったが── 他サイト様でも掲載しております。

偽聖女として私を処刑したこの世界を救おうと思うはずがなくて

奏千歌
恋愛
【とある大陸の話①:月と星の大陸】 ※ヒロインがアンハッピーエンドです。  痛めつけられた足がもつれて、前には進まない。  爪を剥がされた足に、力など入るはずもなく、その足取りは重い。  執行官は、苛立たしげに私の首に繋がれた縄を引いた。  だから前のめりに倒れても、後ろ手に拘束されているから、手で庇うこともできずに、処刑台の床板に顔を打ち付けるだけだ。  ドッと、群衆が笑い声を上げ、それが地鳴りのように響いていた。  広場を埋め尽くす、人。  ギラギラとした視線をこちらに向けて、惨たらしく殺される私を待ち望んでいる。  この中には、誰も、私の死を嘆く者はいない。  そして、高みの見物を決め込むかのような、貴族達。  わずかに視線を上に向けると、城のテラスから私を見下ろす王太子。  国王夫妻もいるけど、王太子の隣には、王太子妃となったあの人はいない。  今日は、二人の婚姻の日だったはず。  婚姻の禍を祓う為に、私の処刑が今日になったと聞かされた。  王太子と彼女の最も幸せな日が、私が死ぬ日であり、この大陸に破滅が決定づけられる日だ。 『ごめんなさい』  歓声をあげたはずの群衆の声が掻き消え、誰かの声が聞こえた気がした。  無機質で無感情な斧が無慈悲に振り下ろされ、私の首が落とされた時、大きく地面が揺れた。

聖女解任ですか?畏まりました(はい、喜んでっ!)

ゆきりん(安室 雪)
恋愛
私はマリア、職業は大聖女。ダグラス王国の聖女のトップだ。そんな私にある日災難(婚約者)が災難(難癖を付け)を呼び、聖女を解任された。やった〜っ!悩み事が全て無くなったから、2度と聖女の職には戻らないわよっ!? 元聖女がやっと手に入れた自由を満喫するお話しです。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

ゴースト聖女は今日までです〜お父様お義母さま、そして偽聖女の妹様、さようなら。私は魔神の妻になります〜

嘉神かろ
恋愛
 魔神を封じる一族の娘として幸せに暮していたアリシアの生活は、母が死に、継母が妹を産んだことで一変する。  妹は聖女と呼ばれ、もてはやされる一方で、アリシアは周囲に気付かれないよう、妹の影となって魔神の眷属を屠りつづける。  これから先も続くと思われたこの、妹に功績を譲る生活は、魔神の封印を補強する封魔の神儀をきっかけに思いもよらなかった方へ動き出す。

【長編版】この戦いが終わったら一緒になろうと約束していた勇者は、私の目の前で皇女様との結婚を選んだ

・めぐめぐ・
恋愛
神官アウラは、勇者で幼馴染であるダグと将来を誓い合った仲だったが、彼は魔王討伐の褒美としてイリス皇女との結婚を打診され、それをアウラの目の前で快諾する。 アウラと交わした結婚の約束は、神聖魔法の使い手である彼女を魔王討伐パーティーに引き入れるためにダグがついた嘘だったのだ。 『お前みたいな、ヤれば魔法を使えなくなる女となんて、誰が結婚するんだよ。神聖魔法を使うことしか取り柄のない役立たずのくせに』 そう書かれた手紙によって捨てらたアウラ。 傷心する彼女に、同じパーティー仲間の盾役マーヴィが、自分の故郷にやってこないかと声をかける。 アウラは心の傷を癒すため、マーヴィとともに彼の故郷へと向かうのだった。 捨てられた主人公がパーティー仲間の盾役と幸せになる、ちょいざまぁありの恋愛ファンタジー長編版。 --注意-- こちらは、以前アップした同タイトル短編作品の長編版です。 一部設定が変更になっていますが、短編版の文章を流用してる部分が多分にあります。 二人の関わりを短編版よりも増しましたので(当社比)、ご興味あれば是非♪ ※色々とガバガバです。頭空っぽにしてお読みください。 ※力があれば平民が皇帝になれるような世界観です。

素顔を知らない

基本二度寝
恋愛
王太子はたいして美しくもない聖女に婚約破棄を突きつけた。 聖女より多少力の劣る、聖女補佐の貴族令嬢の方が、見目もよく気もきく。 ならば、美しくもない聖女より、美しい聖女補佐のほうが良い。 王太子は考え、国王夫妻の居ぬ間に聖女との婚約破棄を企て、国外に放り出した。 王太子はすぐ様、聖女補佐の令嬢を部屋に呼び、新たな婚約者だと皆に紹介して回った。 国王たちが戻った頃には、地鳴りと水害で、国が半壊していた。

処理中です...