31 / 128
お前の仕事はお前のもの、俺の仕事も実はお前のもの 6
しおりを挟む
行政改革ギルドには多くの業務がある。
例えば、街の人々の要望を聞いてそれを解決する仕事、他ギルドから受けた改善の依頼を実施する仕事、各地方貴族が治めている土地について不正が行われていないか監視する仕事、公共事業を斡旋して市街を整備すること等挙げればキリがない。
はっきり言って、何でも屋という言葉が近いくらいだ。しかし、ザザはそれを良しとしなかった。
「この『冒険者の装備品の買取について違法性をチェックする仕事』というのは?」
「冒険者同士のいざこざみたいなものはやっぱり多くてね。例えば盗品を買取に出す連中もいるし、適正な品でも買い取る側がふっかけることもある。そういった問題事項がないか、監査を入れるんだ。立会をするとかね。行くのは専らギルド長の僕だよ」
と、カイリキはぽやんとした顔で告げた。一方のザザはため息一つ。
「これは商人ギルドの案件だから向こうに返しましょう。うちがやる必要はないです」
「え?で、でも、これは代々僕たち行政改革ギルドがやっていることで……」
「大方、口の上手い商人ギルドの連中に言い負かされて以来、厄介ごとを押し付け続けられているだけです。次のギルド長会議の時に提案して下さい。別に商人ギルドにやらせなくてもいいですが、その時は『うちだけじゃ、この仕事はやり切れない』とでも言って、この業務をやることを放棄すればいいです」
「そんな無責任な」
「そう思うなら、この仕事の適任な部署をもう一度考えてみましょう。商人ギルドしかないですよ、他の方も満場一致なはずです。味方をつけてボコボコにすればいいんです」
「……物騒な話だ」
わかったよ、とカイリキもため息一つ。交渉するのはザザではなく自分なので、矢面に立たされるのが嫌らしい。だが仕方ないのだ。それが管理職というものなのだから。
「こっちの『水道設備の改良工事』というのは?」
「私の担当分ですわ。街の水道設備が老朽化している部分について調査し、経年劣化や災害等による破損の状況に応じて修理・改良を行っているんですの」
「お嬢さんの仕事ですか、なるほど。うーん……調査までは分かります。この洗い出しによれば、その後の打合せ、施工、施工管理、アフターケアまで実施されているようですが」
「私は昔建築ギルドで働いていたこともございましたから、アフターケアまでやるのは当然でございます」
「全く当然じゃないですね、信じられません」
「何が信じられないのよおおおおおおおおおおおお!!!!」
「ひいいいいいいいいいいい!!!」
お嬢、ブチギレ。
しかし、お嬢のためにもザザは貧乏くじを引かねばなるまい。
「し、失礼ですが、責任分解点を理解していないから、うちでやらなくていい業務が溜まって仕事が終わらないんです。行政改革ギルドでやる仕事は調査と改良方針の提案であって、施工・施工管理・アフターケアは建築ギルドの仕事です」
「でも!!私は昔建築ギルドに所属してて!!」
「今は所属してないでしょう?お嬢さんの居場所は行政改革ギルドなんですよ。確かに、お嬢さんはアフターケアまで出来る優秀な人材なのかもしれません。ですが、優秀な人材だからといって、ここまでやる必要はないです。むしろ、お嬢さんが手を出したことによって問題が発生することだってあります」
「え?」
きょとん、と。お嬢はくりくりの瞳をぱちくりさせる。くっそ可愛い。
「ギルドの規定によれば、改良計画に伴う調査、計画の立案までがうちの仕事だと明記されています。ところが、現状では全てうちがやっている。この場合、仮に施工後に問題が見付かったなら、本来なら建築ギルドが責任を負うべきなのに、話がややこしくなります。互いに責任のなすりつけ合いです。ホントはお前の所の仕事を引き受けてやってるんだから責任はお前らがとれ、うちは実際に仕事してないからお前らが責任を取れ……。これで一番割を食うのはお客様だっていうのに」
「……」
しょぼん、と。ご自慢の巻き髪もしおしおとストレートヘアーと化し、そのまま部屋のすみっこに行ってしまった。角でしゃがんで人差し指を地面に付け、くるくると『の』の字を書き始める。小さく、『私悪くないもん』と聞こえる。いや、マジで可愛い。
だが、別に凹む必要はないのだ。
「お嬢さんが悪い訳じゃありません。むしろ効率化を考えるならば、計画から施工までをすべて一貫して同じギルドがやるべきなんです。この場合はすべて建築ギルドに投げるべきだと思います。行政改革なんて大層な名前が付いているせいか、改善・改良関係はうちのギルドという風に見られているのが原因かもしれませんね」
適切なギルドが適切な業務を行う。その辺りの業務体系の考え方が、どうやら異世界は不十分らしい。と思ったが、転生前も考え方が不十分な企業はいくらでもあったなと思い返す。
頭の悪い経営者は、自分の承認した決まり事さえも碌に覚えていないのだろう。その結果が、下で働く現場の人間への大きな負担になっているとも気付かないという有様だ。
ザザは直感的に感じ取っていた。腐敗は上層から進んでいるに違いない、と。
そうやってアタリを付けたものの、そこを改革するには時期尚早であることも知っている。
抜本的見直しには、まだまだ時間がかかるのだ。
例えば、街の人々の要望を聞いてそれを解決する仕事、他ギルドから受けた改善の依頼を実施する仕事、各地方貴族が治めている土地について不正が行われていないか監視する仕事、公共事業を斡旋して市街を整備すること等挙げればキリがない。
はっきり言って、何でも屋という言葉が近いくらいだ。しかし、ザザはそれを良しとしなかった。
「この『冒険者の装備品の買取について違法性をチェックする仕事』というのは?」
「冒険者同士のいざこざみたいなものはやっぱり多くてね。例えば盗品を買取に出す連中もいるし、適正な品でも買い取る側がふっかけることもある。そういった問題事項がないか、監査を入れるんだ。立会をするとかね。行くのは専らギルド長の僕だよ」
と、カイリキはぽやんとした顔で告げた。一方のザザはため息一つ。
「これは商人ギルドの案件だから向こうに返しましょう。うちがやる必要はないです」
「え?で、でも、これは代々僕たち行政改革ギルドがやっていることで……」
「大方、口の上手い商人ギルドの連中に言い負かされて以来、厄介ごとを押し付け続けられているだけです。次のギルド長会議の時に提案して下さい。別に商人ギルドにやらせなくてもいいですが、その時は『うちだけじゃ、この仕事はやり切れない』とでも言って、この業務をやることを放棄すればいいです」
「そんな無責任な」
「そう思うなら、この仕事の適任な部署をもう一度考えてみましょう。商人ギルドしかないですよ、他の方も満場一致なはずです。味方をつけてボコボコにすればいいんです」
「……物騒な話だ」
わかったよ、とカイリキもため息一つ。交渉するのはザザではなく自分なので、矢面に立たされるのが嫌らしい。だが仕方ないのだ。それが管理職というものなのだから。
「こっちの『水道設備の改良工事』というのは?」
「私の担当分ですわ。街の水道設備が老朽化している部分について調査し、経年劣化や災害等による破損の状況に応じて修理・改良を行っているんですの」
「お嬢さんの仕事ですか、なるほど。うーん……調査までは分かります。この洗い出しによれば、その後の打合せ、施工、施工管理、アフターケアまで実施されているようですが」
「私は昔建築ギルドで働いていたこともございましたから、アフターケアまでやるのは当然でございます」
「全く当然じゃないですね、信じられません」
「何が信じられないのよおおおおおおおおおおおお!!!!」
「ひいいいいいいいいいいい!!!」
お嬢、ブチギレ。
しかし、お嬢のためにもザザは貧乏くじを引かねばなるまい。
「し、失礼ですが、責任分解点を理解していないから、うちでやらなくていい業務が溜まって仕事が終わらないんです。行政改革ギルドでやる仕事は調査と改良方針の提案であって、施工・施工管理・アフターケアは建築ギルドの仕事です」
「でも!!私は昔建築ギルドに所属してて!!」
「今は所属してないでしょう?お嬢さんの居場所は行政改革ギルドなんですよ。確かに、お嬢さんはアフターケアまで出来る優秀な人材なのかもしれません。ですが、優秀な人材だからといって、ここまでやる必要はないです。むしろ、お嬢さんが手を出したことによって問題が発生することだってあります」
「え?」
きょとん、と。お嬢はくりくりの瞳をぱちくりさせる。くっそ可愛い。
「ギルドの規定によれば、改良計画に伴う調査、計画の立案までがうちの仕事だと明記されています。ところが、現状では全てうちがやっている。この場合、仮に施工後に問題が見付かったなら、本来なら建築ギルドが責任を負うべきなのに、話がややこしくなります。互いに責任のなすりつけ合いです。ホントはお前の所の仕事を引き受けてやってるんだから責任はお前らがとれ、うちは実際に仕事してないからお前らが責任を取れ……。これで一番割を食うのはお客様だっていうのに」
「……」
しょぼん、と。ご自慢の巻き髪もしおしおとストレートヘアーと化し、そのまま部屋のすみっこに行ってしまった。角でしゃがんで人差し指を地面に付け、くるくると『の』の字を書き始める。小さく、『私悪くないもん』と聞こえる。いや、マジで可愛い。
だが、別に凹む必要はないのだ。
「お嬢さんが悪い訳じゃありません。むしろ効率化を考えるならば、計画から施工までをすべて一貫して同じギルドがやるべきなんです。この場合はすべて建築ギルドに投げるべきだと思います。行政改革なんて大層な名前が付いているせいか、改善・改良関係はうちのギルドという風に見られているのが原因かもしれませんね」
適切なギルドが適切な業務を行う。その辺りの業務体系の考え方が、どうやら異世界は不十分らしい。と思ったが、転生前も考え方が不十分な企業はいくらでもあったなと思い返す。
頭の悪い経営者は、自分の承認した決まり事さえも碌に覚えていないのだろう。その結果が、下で働く現場の人間への大きな負担になっているとも気付かないという有様だ。
ザザは直感的に感じ取っていた。腐敗は上層から進んでいるに違いない、と。
そうやってアタリを付けたものの、そこを改革するには時期尚早であることも知っている。
抜本的見直しには、まだまだ時間がかかるのだ。
0
あなたにおすすめの小説
スキル買います
モモん
ファンタジー
「お前との婚約を破棄する!」
ローズ聖国の国立学園第139期卒業記念パーティーの日、第3王子シュナル=ローズレアは婚約者であるレイミ・ベルナール子爵家息女に宣言した。
見習い聖女であるレイミは、実は対価と引き換えにスキルを買い取ることのできる特殊な能力を有していた。
婚約破棄を受け入れる事を対価に、王子と聖女から特殊なスキルを受け取ったレイミは、そのまま姿を消した。
レイミと王妃の一族には、数年前から続く確執があり、いずれ王子と聖女のスキル消失が判明すれば、原因がレイミとの婚約破棄にあると疑われるのは明白だ。
そして、レイミを鑑定すれば消えたスキルをレイミがもっている事は明確になってしまうからだ。
かくして、子爵令嬢の逃走劇が幕を開ける。
出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜
シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。
起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。
その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。
絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。
役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
戦国転生・内政英雄譚 ― 豊臣秀長の息子として天下を創る
丸三(まるぞう)
ファンタジー
戦国時代に転生した先は、豊臣秀吉の弟にして名宰相――豊臣秀長の息子だった。
現代では中世近世史を研究する大学講師。
史実では、秀長は早逝し、豊臣政権は崩壊、徳川の時代と鎖国が訪れる。
ならば変える。
剣でも戦でもない。
政治と制度、国家設計によって。
秀長を生かし、秀吉を支え、徳川の台頭を防ぎ、
戦国の終わりを「戦勝」ではなく「国家の完成」にする。
これは、武将ではなく制度設計者として天下を取る男の物語。
戦国転生×内政改革×豊臣政権完成譚。
(2月15日記)
連載をより良い形で続けるため、更新頻度を週5回とさせていただきます。
一話ごとの完成度を高めてお届けしますので、今後ともよろしくお願いいたします。
(当面、月、水、金、土、日の更新)
異世界転生したおっさんが普通に生きる
カジキカジキ
ファンタジー
第18回 ファンタジー小説大賞 読者投票93位
応援頂きありがとうございました!
異世界転生したおっさんが唯一のチートだけで生き抜く世界
主人公のゴウは異世界転生した元冒険者
引退して狩をして過ごしていたが、ある日、ギルドで雇った子どもに出会い思い出す。
知識チートで町の食と環境を改善します!! ユルくのんびり過ごしたいのに、何故にこんなに忙しい!?
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。
転生貴族の領地経営〜現代日本の知識で異世界を豊かにする
初
ファンタジー
ローラシア王国の北のエルラント辺境伯家には天才的な少年、リーゼンしかしその少年は現代日本から転生してきた転生者だった。
リーゼンが洗礼をしたさい、圧倒的な量の加護やスキルが与えられた。その力を見込んだ父の辺境伯は12歳のリーゼンを辺境伯家の領地の北を治める代官とした。
これはそんなリーゼンが異世界の領地を経営し、豊かにしていく物語である。
魔力0の貴族次男に転生しましたが、気功スキルで補った魔力で強い魔法を使い無双します
burazu
ファンタジー
事故で命を落とした青年はジュン・ラオールという貴族の次男として生まれ変わるが魔力0という鑑定を受け次男であるにもかかわらず継承権最下位へと降格してしまう。事実上継承権を失ったジュンは騎士団長メイルより剣の指導を受け、剣に気を込める気功スキルを学ぶ。
その気功スキルの才能が開花し、自然界より魔力を吸収し強力な魔法のような力を次から次へと使用し父達を驚愕させる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる