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事故は起きるさ、仕方ない 6

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「ざ、ザザ君!君はまたそうやって変なことを言い始める!」
「いや、この会議って本当に無意味で全く価値がないんで、さっさとやめて仕事に戻りたいんですが」
「君ってやつはああああ!!!!」
「いでででで!!カイリキさん、パワハラ!!パワハラです!!!」



「で、どうして無意味で全く価値がないなんて言うんだい」

2人のじゃれあいはいつものこと。一呼吸置いてザザは口を開いた。

「いや、そりゃあ無意味で全く価値がないからですよ。――って言っても言葉足らずか。
 俺の意見をちゃんと説明しましょう。さっきカイリキさんは仰ってましたよね。『事故は起きる、仕方ない。一生事故なく生きていくなんて、なかなか出来ることじゃない』『次に事故を起こさないためにはどうしたらいいのかを考えよう』と」
「言ったよ。だからこそ、僕は再発防止のために会議を――」
「そうじゃないんですって。いや、いくら俺だって再発防止策は考えるべきだと思いますよ。さっきのお嬢の話じゃないですが、出発前に車両の周囲を確認しようとか、そういう基本的なところはギルドメンバー全員で周知徹底しましょうって言いたいのも分かります。でも、それで終わりでいいじゃないですか。だって『事故は起きる、仕方ない』んですよ?我々がどれだけ注意しても、何かの要因で事故は起きるんです。それを再発防止だなんだって大騒ぎしたところで、結局また事故は起きるし、それを100%防ぐことなんて出来ません。
 だったら、再発防止対策会議なんて無意味で全く価値がないじゃないですか」

と、吐き捨てるようにザザは言った。

「もっと簡単でこんな会議なんてしなくてもいい、抜本的な解決方法を提案しますよ。『追突防止機能付きの自動車を購入する』、これだけで大体の問題は解決します」
「いや、ザザ君、そういうことじゃないんだよ」
「そういうことですよ。ヒューマンエラーは起こるべくして起こるんです。それを減らすために努力することは当然必要です。ですが、こんな会議を何回開いたところでまた事故は起きますし、その度に対策を立ててもやっぱり事故は起きるっていう事実は覆りません。俺たちは人間であって、完全にプログラムされた動きが出来るわけじゃないんですから。
 だから。何度でも俺は提案しますよ。追突防止機能付きの自動車を購入するのがベストです。風魔法による反発機構、水魔法で水泡を出す衝撃緩和機構、土魔法による衝撃吸収ジェル発生機構、方法は何でもいいと思います。最近は魔法技術を車に活かした製品が出てきていますし、メーカーだってどんどん安全性を追求しています」
「……言わんとしたいことは分かった。でも、その提案だって必ず事故を防げるわけじゃないだろう」
「事故は起きる、仕方ない。でしょう。
追突防止機能付きの自動車があれば、例えば今日の内輪差による接触事故は防げますし、交差点での巻き込み事故だって減らせるでしょう。アクセル・ブレーキの踏み間違えだってなくなるし、最新型は光魔法で先行車との距離を測定して、車間距離も自動調整してくれるらしいじゃないですか。運転者の負担が減れば、それだけ安全に気を回して運転する余裕ができます。それでも事故が起きるのは、それはもう仕方ないです。
でも、これだけは言えます。今の現状より、1万倍問題は解決される、と」
「……」
「自動車は高いですよ。上級国民の乗り物だなんて呼ばれてるくらいですし。だけど、俺たちの会議の人件費だって高いんです。会議して、対策考えて、書類作って、それを中央ギルドに提出して、今後は気を付けますって謝って、それでもまた事故を起こして、また会議をして、そして書類を作って……。一体何回同じことを繰り返すんですか。俺たち4人が集まって1時間会議したら2万バルク、書類作って修正するのに1万バルク、中央ギルドに持っていって謝って帰ってくるのに2万バルク、これを事故を起こす度にやるって言ってるんですよ」
「……」
「もっと根本的な話をしましょうか。ギルド員の安全すらも守らないなら、こんなギルド潰れてなくなってしまえばいい、って俺は思いますけどね」
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