異世界ギルドで業務効率化 ―残業なし、年間休日130日、有給消化率100%の職場です―

のちのちザウルス

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幕間 ―今日が最後のタバコ部屋 2―

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「本当だ、また戻ってこない……!」

時刻は14時20分。カイリキ、本日3回目の離席である。1回目は9時30分、2回目は11時10分、そして3回目は14時ちょうど。1回目は30分、2回目は40分戻って来なかった。一体どこに行っているのか。ザザはカイリキの後をつけて確認すると――。

「またタバコ部屋だ……!!」

複数のギルドが密集する区画、その程なく道路に近い小さな平屋。そここそが、カイリキ行きつけのタバコ部屋、喫煙室であった。
ザザが通勤する際、ギルドとは別方向に向かう他のギルドの職員の姿を何度か見かけていたが、なるほど彼らは喫煙室に向かっていたのか。それにしても、随分人が多いとザザは思った。およそ10人くらいの中年の男が、窓ガラスを全開にしてプカプカと煙を浮かべている。そして、その様子は外からよぉぉぉおおおおく見える。

そんなに窓を開けたら、歩道に程近いその場所は通行人の迷惑じゃないか!一体何のために換気装置が歩道と反対側を向いてると思ってるんだ!っていうかここは通学路だろうに、そんなこともお構いなしだな。あのおっさんなんかスマフォンゲームしながら煙草吸いまくってるわ。ああ!道路を挟んだ反対側の歩道で近所のマダムたちが指を指してひそひそ話合っている!まずい、このままではウチだけじゃなく、ギルド全体の評判が落ち――。

「あ、閃いた」



それからカイリキが戻ってきたのは、およそ30分後の14時50分頃であった。休憩も入れたことだし、リフレッシュして仕事に取り組めるぞとカイリキが思ったその時、ザザが走り寄ってきて机の上に1つの書類を差し出した。そこには、見る者が見ればあまりの恐れ多さに発狂しかねない文字が躍っている。

『喫煙室の解体について』



「――ということで、ギルド区画内の喫煙室は、多くの近隣住民から苦情のお手紙が寄せられています。どれもこれも、ひっじょおおおおおおおにマナーが悪いと大不評です!!」

再び会議室。せっかくの休憩後のリフレッシュ気分もどこへやら、カイリキは絶望した気持ちで被告人席に座らされていた。

「先程も奥様2人から直接当ギルドへ通報がありました。『喫煙室にテレビでよく見る行政改革ギルド長がたむろしている』『いつ見ても窓から行政改革ギルド長の姿が見える』『本当に仕事をしているのか』とね」
「ギクリ」

嘘である。この男、密かに奥様方に根回しをしに行った。
あの喫煙室、通学路の脇にあって迷惑ですよね!私は行政改革ギルドの職員なんですが、いっそあの喫煙室をなくしたいって思ってて!ほら見て下さいよ、スマフォン片手にゲームしてますよ!……え?15分前も?じゃあずっとゲームしてるんですね!税金泥棒ですよね!いやー、私も上席者がタバコ部屋から帰ってこなくて仕事進まないんですよー。
などなど。

「これは“俺が”密かに収集した、カイリキさんがタバコ休憩に行っている時間を表したデータです。これを見ると、1日平均でおよそ2時間程度はタバコ部屋で過ごしているようですね。そんなに休憩が必要ですか?」

嘘である。昨日気付いたザザは、お嬢とマカオから概算のデータだけもらって、良い感じに言いくるめている。しかし、ほぼほぼ内容が合致しているカイリキは青い顔だ。

「い、いやあ、あそこでも仕事をしているんだよ。ほら、喫煙室には他のギルド長もよく来るからね。他のギルドの仕事の状況を聞いたり、中央ギルドの計画を仕入れたりして、今後の改革が上手くいくようにしているんだよ」
「近所のマダムの話によれば『いつも奥様の愚痴を話している』『ずっと喫煙室でスマフォンゲームをしている』という意見がありますね!!ほら、これなんか写真付きで密告されてますよ!!」
「そ、それは……」
「先日は行政改革ギルドからTmitterで情報発信をしようなんて言いましたけど、このご時世SNSがもっと流行れば、こういう写真が世間に一斉に拡散されますよ。そうしたら行政改革ギルドは袋叩きの刑に処されるでしょう。奥さんにも迷惑がかかるし、もう家に帰れなくなりますよ」
「うぐ……」
「確かにパソコン等のVDT作業と呼ばれるものは、1時間に5分程度の休憩を挟むべきとされています。それにしたって毎回30分もいなくなられると仕事になりませんよ!!1日2時間タバコ吸ってる人間よりも俺の給料が低いんですか!?仕事舐めるんじゃないよ!!」
「は、はい……」

全身筋肉のカイリキの巨躯が、塩をかけたなめくじの如くしおしおと小さくなっていく。だがここで攻勢を止めるわけにはいかない。すべては快適な禁煙空間のために。

「これから行政改革ギルドは、すべてのギルドに対して同様の話を通知します」
「え?」
「他のギルドマスターも、同じくタバコ部屋から全然出てこないと聞いています。っていうか、同期の他のギルドのやつが言ってました。そしてここには、他のギルドマスターがタバコ部屋でカイリキさんとスマフォンゲームに興じる“写真”があります。生きた証拠です」
「え?」

噓である。この男、禁煙のためなら何でもする外道だ。それ故に、先程のマダムに許可を得て、マダムが写真を撮ってギルドへ報告したことにしてもらった。

「こんだけ各ギルドのトップがサボっていたんです。中央ギルドに書類を提出すれば減給は免れないでしょう」
「!?ざ、ザザ君!それはちょっと酷いんじゃないかな!!」
「確かにそうですね。カイリキさんのキャリアにも傷が付きますし、俺たちが仲良く風通しの良い職場を作っていくためにも、職場内でわだかまりが生まれてはいけません」
「そ、そうだろうそうだろう!」
「ですが!!これは市民の声でもあります。市民が『あそこのギルドマスターたち、みんなサボってスマフォンゲームしているよ』と写真付きで教えてくれたんです」
「う……」
「対策無しでは済まされません。世間ではこれだけ禁煙が進んでいるのに、よりにもよって国の中枢機関が、未だにタバコ部屋で仕事をサボる現状があるなんて……。よって俺は提案します」

ザザの口が三日月に歪む。それはまるで、これまでやりたくてやりたくて仕方がなかったことを、どうしようもなく楽しんで遊ぶ子供のように。

「タバコ部屋の、解体を」
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