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第10話
しおりを挟むようやくオッドが帰ってきました。
よかった、ケガなどなさそう。
「まただよ。まったくひどいやり口だ」
オッドが珍しく苛立たしげに呟きます。
「……高利貸しが殺されたの?」
思わず聞いてしまった私。
オッドは目を丸くしました。
「えっ? 何で知ってるの?」
やっぱり。夢の通りになるんだ。
「いえ、あの、外を通っていった人達が大声で話しているのが聞こえてきたの」
私はとっさに嘘をついてごまかしました。
「そうか。もう噂になってるんだね」
オッドは悔しそうに唇を噛む。
「最近は賊に狙われそうな家を隊員達に毎晩巡回させてるんだけどね。今夜の被害者の家に行った時にはもう事件が起こった後だったんだ」
私は少し驚きました。
あの時もたもた時間をかけていたら警ら隊と鉢合わせしていたかもしれないんだ……。
あの時?
あれは夢の話。
何をごっちゃにしているの、私は。
「盗賊団はどんな手口で?」
それでも気になって私はさらに質問しました。
「使用人を買収して扉の鍵を開けさせておき、侵入したようだね。使用人の態度がおかしかったので問い詰めたら白状したよ」
使用人? 夢の中では殺された人かな?
別人かもしれないけど、とにかく何もかもが夢と同じってわけじゃないんだ。
少なくともカロンの盗賊団に『私』はいない。
「使用人に話を持ちかけた男は変装していたようだし、犯行時には彼は部屋にこもっていたという。結局犯人達の姿も人数も分からない。手掛かりなしだ」
オッドは力無くため息をつきました。
「せめて被害に遭いそうな家をもっと絞り込んで効率的に警備できればいいんだけどね。難しいよ」
憔悴したオッドの顔を見るのはつらい。
胸が締めつけられます。
責任を感じてるんだね……。あなたのせいじゃないのに。
私はもはや確信していました。
夢の意味は分からないけど、この先の未来もきっと大筋では夢の通りになっていくでしょう。
つまり……。
次に襲われるのは私の家族。ヒリング家。
「どうしたの? 最近思い詰めたように考え込んでることが多くなったね?」
夕食をとりながらオッドが言いました。
私から見たらオッドこそ思い詰めたようにしていることが増えたのですが。
盗賊団の手掛かりが得られず、さらなる犠牲者が出ることが心配で仕方がないのです。
でもオッドの指摘もその通りなのでしょう。
私はヒリング家が襲撃されるであろう日が近づいてくるにつれ、胃が痛むほど考え悩むようになっていったのですから。
私はどうすればいいのか。
いま手を打てば、きっと家族を救える。
「何か困ってることがあったら遠慮なく言って? 今の僕は君の笑顔だけが心のよりどころなんだ」
オッドのセリフに私は赤面しました。
本人は素で本心をそのまま口にしただけなんでしょうけど。
食事を私が調理していることに気づいたオッドは、毎食毎食おおげさに味を褒めたたえてくれます。
その優しい笑顔こそ、私の心のよりどころ。
私は決心しました。
オッドに話そう。
「オッド。次に盗賊団が狙うのは貿易商のヒリングさんの家だと思う」
「えっ? どうしたの、いきなり。なぜそう思うの?」
「えっと、そんな夢を見たから。たぶん六日後に襲われるよ」
「夢? 夢なんだ」
「オッド。ヒリングさんに問い合わせてみて。そして、もし使用人頭さんが行方不明になってたら私の言うことを信じて」
「う、うん……??」
翌日、仕事から帰ってきたオッドは言いました。
「君の夢、正夢かもしれない。ヒリング家の警備を固めるつもりだ」
そして、ちょっと苦笑。
「部下には夢を信じるなんてズレてるって言われたけどね。でも、他にあてがあるわけじゃないし」
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