はい、こちら黄泉国立図書館地獄分館です。

日野 祐希

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最終話 ~冬~ え? 神様方が地獄分館を取り潰そうとしている? ウフフ……。ならば私が、彼らに身の程というものを教えてあげるとしましょう。

凱旋しましょう。

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「――い……よっしゃああああっ! 勝ったああああっ!」

 待ちに待っていた、この瞬間。
 私が心内で勝利を噛み締めていると、静まり返った大会議室内に聖良布夢せらふぃむさんの雄叫びが響きました。
 聖良布夢さんの雄叫びに触発され、子鬼三兄弟を始めとする子鬼さん達も『わ~い!』と諸手を上げて万歳三唱を始めます。

 この人達、閉鎖云々がなくなったことより単純に勝ったことに対して喜んでいるだけな気がしますけどね。
 まあ、めでたいことには変わりありませんし、よしとしましょう。

「オレ達の勝ちだぜ、ヒャッハーッ!」

「「びくとり~!」」」

「「「いえ~い!」」」

 一度堰を切ってしまえば、後は雪崩式。大会議室は図書館内とは思えないような歓声交じりの喧騒に包まれました。
 とは言っても、騒いでいるのは地獄分館側(主に聖良布夢さんと子鬼さん達)だけですけどね。勝敗を聞き届けた久延毘古くえびこ氏は何も言わずにさっさと立ち去り、残った商議員達と切腹パフォーマンスを言い渡された閻魔様は、お通夜のようなテンションで隅っこに固まっています。

 ウフフ……。本当に良い眺めですね。
 これぞ、勝者のみが見ることを許される光景です。

 ――と、その時です。

「おい、宏美」

 歌えや騒げのお祭りムードの中で、伊邪那美いざなみ様が私の袖を引きました。
 どうでもいいですが、この喧騒の中でもよく通る声ですね。見た感じでは普通にしゃべっているみたいなのですけど、これも神様マジックでしょうか。

「まずはおめでとうと言っておこうかのう。だが、お主ならきっと何かやらかすと思っておったよ」

「ご期待に沿えた様で何よりです。伊邪那美様こそ、見事なスルーパスでしたよ」

「ぬふふ。はて、何のことやら。わらわは両陣営に勝利の機会があるよう、ルールを調整しただけじゃよ」

 素知らぬ顔ですっとぼける伊邪那美様。この方がそう言うなら、そういうことにしておきましょう。
 ですが、私達が勝てたのは伊邪那美様のお膳立てがあったからだと言っても過言ではありません。そういう意味では、私達は商議員達も含めて、伊邪那美様の掌で踊っていたに過ぎないのかもしれませんね。
 さすがは日本のあの世で最も偉い神様といったところです。

「それはそうと、これからは目をつけられぬように、もっとうまく立ち回ることじゃな」

「ええ、肝に銘じておきます。次は目をつけられる前に、ちゃんと火消しに取り掛かるようにします。――何を消すとは言いませんが……」

「カッカッカ! それでこそわらわが見込んだ娘じゃ。この程度のことで丸くなられては、お主にわざわざチャンスを与えた意味がないからのう」

 私の答えに、伊邪那美様は高笑いを始めました。
 うれしそうで何よりです。

「さて、わらわはそろそろ行くよ。お主の今後を期待しておるぞ。お主の力で、この黄泉国立図書館をもっともっと面白くしてくれ。努々、わらわを退屈させるなよ?」

 最後に私を見て「ぬふふ!」と笑った伊邪那美様は、さっさと踵を返して大会議室から去っていきました。
 やれやれ。あの人もなかなか筋金入りの享楽主義者ですね。

(ですが……いいでしょう。そこまで仰るなら精々楽しませてあげますよ。なにせ私の司書生活は、まだまだ始まったばかりなのですから)

 立ち去る伊邪那美様の背中に、『覚悟しておけ』という視線を送ります。
 退屈する暇なんて与えませんよ。私にはまだ、やりたいことが山ほどあるのですから。

「ちょっと姐さん、そんなところで何やってんスか! オレ達勝ったんスよ。もっと喜びましょうよ!」

「「「ししょー、ぼくら、かった~!」」」

 伊邪那美様を見送っていると、騒ぎの中心にいた聖良布夢さんと子鬼三兄弟が私を迎えに来ました。
 いつまでも主役なしでは、彼らも盛り上がりに欠けるのでしょう。
 やれやれ、仕方ないですね。これも主役の宿命です。

「ええ。今日は地獄分館の自由を勝ち取った記念日です。幸い、あそこに『分館長』という名の財布もいますしね。思う存分、歌って踊って騒ぎましょう!」

「えっ!? この人数で支払い全部儂なの?」

 財布が何か言っていますが、残念ながら私は財布語を介しません。
 というわけで、無視しましょう。

「さすが姐さん! そうこなくちゃ!」

「「「わ~い、おいわいぱーてぃー!」」」

 聖良布夢さんや子鬼三兄弟と共に、戦友達が待つ輪の中心へ歩みを進めます。

「さあ皆さん、帰って祝勝会ですよ。行きましょう!」

「「「「「オーッ(お~)!」」」」」

 共に戦った仲間達を引き連れ、私は晴れ晴れとした気分で地獄分館への帰路に付いたのでした。
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