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最終話 ~冬~ え? 神様方が地獄分館を取り潰そうとしている? ウフフ……。ならば私が、彼らに身の程というものを教えてあげるとしましょう。
舞台裏:閻魔様と兼定さんの会話 その4
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新年度も差し迫った三月下旬。
アメリカ天国謝罪ツアーから返ってきた儂は、懐かしの執務室で人心地ついていた。
「ふぃ~……。やっぱり自分の執務室は落ち着くね~」
「お帰りなさい、閻魔様。すぐにお茶の用意をいたします」
一週間ぶりに座った自分の椅子にもたれていると、すかさず秘書官の兼定君がお茶を出してくれた。
儂がすぐ飲めるように、適度に冷ましたお茶。性癖的なことはともかく、能力的にはできた部下を持って、儂はうれしいよ。
「アメリカ天国議会図書館への往訪はいかがでしたか?」
「ああ、うん。儂と道真館長が揃って頭を下げに来たってことで、あちらさんも今回の件は大目に見てくれた。すんなりと話がまとまったおかげで、儂も切腹パフォーマンスなんてしなくて済んだよ。……いや、本当に助かった」
お茶で口を潤しながら、兼定君にアメリカ出張のことを話して聞かせる。
伊邪那美様に「切腹して来い!」と言われた時は、どうなることかと思ったけどね。本当にもう、痛い思いをしないで済んで良かったよ。
ともあれ、これにて今回の閉鎖&解雇騒動の後始末もすべて終わり。地獄分館も晴れて通常運営に戻せるということだ。
「閉鎖騒ぎなんて大事は、これっきりにしてほしいね。この数カ月は、本当に胃に穴が開くかと思ったよ。儂の心の平穏のためにも、宏美君にはぜひこれに懲りて大人しくなってほしいものだ」
「そうですか? 私は宏美さんが来てから毎日の生活に張りが出ましたよ。私、この一年間で肌と髪の艶が猛烈に良くなりまして、もうストレスフリーな毎日をエンジョイしています!」
「そう……。その……良かったね」
それってつまり、毎日宏美君に蹴られ殴られ罵られ放置されているってことだよね。
まあ、彼がそれでいいって言うなら止めはしないけど……。
「閻魔様はどうですか? 何だかんだ言いつつ、宏美さんが来てからの生活を楽しんでいるのではないですか?」
「……へ? 儂も?」
ふむ。考えたこともなかったが、どうだっただろうか?
彼女は毎日のように飽きもせず騒動を起こして、儂らはそれに巻き込まれて……。
当然ながら苦労は絶えないけど、それはそれで充実した日々だったわけで……。
「言われてみれば、そうかもしれないね。この一年は近年稀に見るくらい中身の詰まった一年だった。楽しくなかったと言えば、嘘になるだろうね」
「ハハハ。閻魔様なら、必ずそう仰って下さると思っていましたよ。――ようこそ、めくるめく快楽の世界へ!」
「いや、それはない! 儂をそっちの世界へ引き込もうとしないで!」
「おや、これは手厳しい。実に残念です」
全力で拒否する儂を、兼定君がカラカラと笑い飛ばす。
まったくこの男は、どこまで本気なのかわかったものではない。
あと、隙あらば儂を蛇の道に引き込もうとするのは是非ともやめてほしい。
「それと閻魔様、宏美さんが大人しくなるなんて、それこそありえないことですよ。あの方は、このくらいのことでへこたれるタマではありません」
「ああ~、やっぱり君もそう思うか」
あの子はこれからも儂らをいろんなことに巻き込んでいくのだろうね。これはもう、儂らも覚悟を決めて付き合っていくしかないか。それが、あの子を地獄分館の司書に据えた儂らの果たすべき役目なのだろう。
「これからも苦労の絶えない日々になりそうだね」
「ハハハ! 同時に刺激に満ちた楽しい日々でもありますよ、きっと」
「そうであるとうれしいね」
兼定君の言うように楽しく過ごせるのなら万々歳だけど、一体どうなることやら。
さてはて、地獄と地獄分館の明日はどっちかな?
アメリカ天国謝罪ツアーから返ってきた儂は、懐かしの執務室で人心地ついていた。
「ふぃ~……。やっぱり自分の執務室は落ち着くね~」
「お帰りなさい、閻魔様。すぐにお茶の用意をいたします」
一週間ぶりに座った自分の椅子にもたれていると、すかさず秘書官の兼定君がお茶を出してくれた。
儂がすぐ飲めるように、適度に冷ましたお茶。性癖的なことはともかく、能力的にはできた部下を持って、儂はうれしいよ。
「アメリカ天国議会図書館への往訪はいかがでしたか?」
「ああ、うん。儂と道真館長が揃って頭を下げに来たってことで、あちらさんも今回の件は大目に見てくれた。すんなりと話がまとまったおかげで、儂も切腹パフォーマンスなんてしなくて済んだよ。……いや、本当に助かった」
お茶で口を潤しながら、兼定君にアメリカ出張のことを話して聞かせる。
伊邪那美様に「切腹して来い!」と言われた時は、どうなることかと思ったけどね。本当にもう、痛い思いをしないで済んで良かったよ。
ともあれ、これにて今回の閉鎖&解雇騒動の後始末もすべて終わり。地獄分館も晴れて通常運営に戻せるということだ。
「閉鎖騒ぎなんて大事は、これっきりにしてほしいね。この数カ月は、本当に胃に穴が開くかと思ったよ。儂の心の平穏のためにも、宏美君にはぜひこれに懲りて大人しくなってほしいものだ」
「そうですか? 私は宏美さんが来てから毎日の生活に張りが出ましたよ。私、この一年間で肌と髪の艶が猛烈に良くなりまして、もうストレスフリーな毎日をエンジョイしています!」
「そう……。その……良かったね」
それってつまり、毎日宏美君に蹴られ殴られ罵られ放置されているってことだよね。
まあ、彼がそれでいいって言うなら止めはしないけど……。
「閻魔様はどうですか? 何だかんだ言いつつ、宏美さんが来てからの生活を楽しんでいるのではないですか?」
「……へ? 儂も?」
ふむ。考えたこともなかったが、どうだっただろうか?
彼女は毎日のように飽きもせず騒動を起こして、儂らはそれに巻き込まれて……。
当然ながら苦労は絶えないけど、それはそれで充実した日々だったわけで……。
「言われてみれば、そうかもしれないね。この一年は近年稀に見るくらい中身の詰まった一年だった。楽しくなかったと言えば、嘘になるだろうね」
「ハハハ。閻魔様なら、必ずそう仰って下さると思っていましたよ。――ようこそ、めくるめく快楽の世界へ!」
「いや、それはない! 儂をそっちの世界へ引き込もうとしないで!」
「おや、これは手厳しい。実に残念です」
全力で拒否する儂を、兼定君がカラカラと笑い飛ばす。
まったくこの男は、どこまで本気なのかわかったものではない。
あと、隙あらば儂を蛇の道に引き込もうとするのは是非ともやめてほしい。
「それと閻魔様、宏美さんが大人しくなるなんて、それこそありえないことですよ。あの方は、このくらいのことでへこたれるタマではありません」
「ああ~、やっぱり君もそう思うか」
あの子はこれからも儂らをいろんなことに巻き込んでいくのだろうね。これはもう、儂らも覚悟を決めて付き合っていくしかないか。それが、あの子を地獄分館の司書に据えた儂らの果たすべき役目なのだろう。
「これからも苦労の絶えない日々になりそうだね」
「ハハハ! 同時に刺激に満ちた楽しい日々でもありますよ、きっと」
「そうであるとうれしいね」
兼定君の言うように楽しく過ごせるのなら万々歳だけど、一体どうなることやら。
さてはて、地獄と地獄分館の明日はどっちかな?
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