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第一章 浅場南高校書籍部
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「ようこそ、浅場南高校書籍部へ。私は、あなたを歓迎するわ!」
「……はい?」
校門の前、唐突に歓迎されてしまった僕は、呆気に取られた声を上げていた。
けれど、それも仕方がないことだと、僕は自分を弁護したい。だって、いきなり現れた見ず知らずの二年生に、いきなり入部を認められてしまったのだ。しかも、僕の意思とは関係なく……。
これで動じないほど、僕は精神が強くも鈍くもない。それに、こんな状況に放りこまれたら、大抵の人間は僕と似たような反応をすると思う。
ちなみに、僕を混乱の渦に落とし込んだ張本人は、手を差し伸べたまま悦に入った顔をしていた。感情が表に出やすい人のようで、「決まった!」と顔に書いてあった。
何だか目の前の先輩のやり切った感が無性にイラッときて、僕の頭が急速に回り始める。
一方、自己満足を終えたらしいその二年生は、差し出していた手で校舎の方を指さした。
「さあ、悠里君! 部長も待っているはずだから、早速、書籍部の部室へ行きましょう。案内するわ」
「いいえ、それには及びません」
昇降口へ向かって歩き出そうとした二年の先輩へ、僕は拒否の意を込めて首を横に振った。
二年生は不思議そうに立ち止まり、僕の顔を見る。きょとんとした顔は、あどけない感じでなかなかかわいらしい。
ただ、何をどう勘違いしたのか、その顔はすぐに喜色満面に輝き始めた。
嫌な予感がして僕が一歩下がると、彼女はそれを上回る勢いで詰め寄ってきた。
「すごいわ、悠里君! もう書籍部がどこにあるか知っていたのね。やっぱり私の目に間違いはなかったわ。あなたこそ、書籍部のエースになれる逸材よ!」
興奮した様子で、早口に「すごい、すごい!」と連呼する二年生。彼女の斜め上を行く超理解に、僕は思わずずっこけた。
「部室を知っているなら話は早いわ。さあ、このまま顧問の先生のところへ、入部届を出しに行きましょう!」
「ああもう、違いますよ! さっきのは、『書籍部には入らない』って意味で言ったんです!」
勝手に盛り上がって話を大きくする二年生へ、僕は負けずに声を大にして主張した。
このままでは、僕の意思を完全無視したまま入部させられかねない。なので、はっきりと言葉にして拒絶する。
すると、喜び飛び跳ねていた二年生は、一転してショックを受けた表情のまま固まってしまった。これが漫画なら、背後に「ガーン!」というオノマトペが表示されていることだろう。
「じゃあ、僕はこれで失礼します」
若干の罪悪感を覚えつつも、茫然自失とした二年生を残し、その場から立ち去る。
疲れているのに、さらに疲れることをしてしまった。深いため息をつきながら校門を出ようとする。
その時、腰の辺りに何かがぶつかって来たような強い衝撃を受けた。
「……って、何やってんですか!」
腰の衝撃の正体は、さっきの二年生だ。あろうことか彼女は、僕の腰にギュッとしがみついていた。抱きつかれた感触と温かさに、自然と頬が熱くなる。
「お、落ち着くのよ、悠里君! 早まってはいけないわ!」
「落ち着くのはあなたの方です! いいから、さっさと離れてください!」
「書籍部の初代部長は、現役の図書館司書よ。それに、他にも古典籍や書画の修復を行う会社に就職したOGもいるの。この人は私の知り合いだから、紹介してあげることもできるわ! 書籍部に入れば、きっとあなたの夢のプラスにもなるわよ!」
「人の話を聞けーっ!!」
僕の言葉なんかこれっぽっちも聞かず、腰に抱きついたまま喚き立てる二年生。この人、もはや先輩然とした余裕やら何やらを色々かなぐり捨てて、手段を選ばず実力行使に出やがった。何が何でも逃がさないつもりなのか、より一層腕に力を込めてくる。
何なんだよ、この人は!
彼女を引き離そうと四苦八苦しつつ、思わず心の中で泣き言を漏らしてしまう。相手が女子とはいえ、腰に全力でしがみつかれたら、腕を外すのは難しい。ついでに言えば、僕は完全に文化系で腕力には自信がないんだ。ホント、誰か助けてくれ!
救いを求め、勧誘街道の方へと目を向ける。
けれど、これが更なる不幸の始まりだった。騒ぎを聞きつけ、近くの生徒たちも集まってきたのだ。それも、僕を助けるためではなく、おもしろそうな見世物を見物するために……。「なんだ、痴話喧嘩か?」「修羅場よ、修羅場!」という期待に満ちた声が聞こえてきて、僕は頬どころか全身が真っ赤になった。入学早々、公開処刑された気分だ。
ともあれ、このままでは埒が明かない。僕は降参するように息を吐き、くっつき虫状態の二年生へ声を掛けた。
「わかりました。とりあえず逃げませんから、先輩も離れてください」
「……本当に? 本当に逃げない?」
「逃げません。逃げませんから離れてください。僕もいい加減、この視線に心が折れそうです」
「視線……?」
抱きついた姿勢のまま、彼女は首を回して周囲の状況を確認する。そして、トマトのように顔を赤くして、ボンッと頭から湯気を吹いた。
「ご、ごごごごめんなさい! 私、つい……」
パッと手を離し、彼女はササッと僕から距離を置いた。ようやく自分が如何にはしたないことをしていたか、察してくれたらしい。
彼女が僕から離れると、興味を失ったのか、生徒たちは瞬く間に散っていった。
これでやっと、人心地つける……と思ったのだが、そうは問屋が卸さなかった。
「……はい?」
校門の前、唐突に歓迎されてしまった僕は、呆気に取られた声を上げていた。
けれど、それも仕方がないことだと、僕は自分を弁護したい。だって、いきなり現れた見ず知らずの二年生に、いきなり入部を認められてしまったのだ。しかも、僕の意思とは関係なく……。
これで動じないほど、僕は精神が強くも鈍くもない。それに、こんな状況に放りこまれたら、大抵の人間は僕と似たような反応をすると思う。
ちなみに、僕を混乱の渦に落とし込んだ張本人は、手を差し伸べたまま悦に入った顔をしていた。感情が表に出やすい人のようで、「決まった!」と顔に書いてあった。
何だか目の前の先輩のやり切った感が無性にイラッときて、僕の頭が急速に回り始める。
一方、自己満足を終えたらしいその二年生は、差し出していた手で校舎の方を指さした。
「さあ、悠里君! 部長も待っているはずだから、早速、書籍部の部室へ行きましょう。案内するわ」
「いいえ、それには及びません」
昇降口へ向かって歩き出そうとした二年の先輩へ、僕は拒否の意を込めて首を横に振った。
二年生は不思議そうに立ち止まり、僕の顔を見る。きょとんとした顔は、あどけない感じでなかなかかわいらしい。
ただ、何をどう勘違いしたのか、その顔はすぐに喜色満面に輝き始めた。
嫌な予感がして僕が一歩下がると、彼女はそれを上回る勢いで詰め寄ってきた。
「すごいわ、悠里君! もう書籍部がどこにあるか知っていたのね。やっぱり私の目に間違いはなかったわ。あなたこそ、書籍部のエースになれる逸材よ!」
興奮した様子で、早口に「すごい、すごい!」と連呼する二年生。彼女の斜め上を行く超理解に、僕は思わずずっこけた。
「部室を知っているなら話は早いわ。さあ、このまま顧問の先生のところへ、入部届を出しに行きましょう!」
「ああもう、違いますよ! さっきのは、『書籍部には入らない』って意味で言ったんです!」
勝手に盛り上がって話を大きくする二年生へ、僕は負けずに声を大にして主張した。
このままでは、僕の意思を完全無視したまま入部させられかねない。なので、はっきりと言葉にして拒絶する。
すると、喜び飛び跳ねていた二年生は、一転してショックを受けた表情のまま固まってしまった。これが漫画なら、背後に「ガーン!」というオノマトペが表示されていることだろう。
「じゃあ、僕はこれで失礼します」
若干の罪悪感を覚えつつも、茫然自失とした二年生を残し、その場から立ち去る。
疲れているのに、さらに疲れることをしてしまった。深いため息をつきながら校門を出ようとする。
その時、腰の辺りに何かがぶつかって来たような強い衝撃を受けた。
「……って、何やってんですか!」
腰の衝撃の正体は、さっきの二年生だ。あろうことか彼女は、僕の腰にギュッとしがみついていた。抱きつかれた感触と温かさに、自然と頬が熱くなる。
「お、落ち着くのよ、悠里君! 早まってはいけないわ!」
「落ち着くのはあなたの方です! いいから、さっさと離れてください!」
「書籍部の初代部長は、現役の図書館司書よ。それに、他にも古典籍や書画の修復を行う会社に就職したOGもいるの。この人は私の知り合いだから、紹介してあげることもできるわ! 書籍部に入れば、きっとあなたの夢のプラスにもなるわよ!」
「人の話を聞けーっ!!」
僕の言葉なんかこれっぽっちも聞かず、腰に抱きついたまま喚き立てる二年生。この人、もはや先輩然とした余裕やら何やらを色々かなぐり捨てて、手段を選ばず実力行使に出やがった。何が何でも逃がさないつもりなのか、より一層腕に力を込めてくる。
何なんだよ、この人は!
彼女を引き離そうと四苦八苦しつつ、思わず心の中で泣き言を漏らしてしまう。相手が女子とはいえ、腰に全力でしがみつかれたら、腕を外すのは難しい。ついでに言えば、僕は完全に文化系で腕力には自信がないんだ。ホント、誰か助けてくれ!
救いを求め、勧誘街道の方へと目を向ける。
けれど、これが更なる不幸の始まりだった。騒ぎを聞きつけ、近くの生徒たちも集まってきたのだ。それも、僕を助けるためではなく、おもしろそうな見世物を見物するために……。「なんだ、痴話喧嘩か?」「修羅場よ、修羅場!」という期待に満ちた声が聞こえてきて、僕は頬どころか全身が真っ赤になった。入学早々、公開処刑された気分だ。
ともあれ、このままでは埒が明かない。僕は降参するように息を吐き、くっつき虫状態の二年生へ声を掛けた。
「わかりました。とりあえず逃げませんから、先輩も離れてください」
「……本当に? 本当に逃げない?」
「逃げません。逃げませんから離れてください。僕もいい加減、この視線に心が折れそうです」
「視線……?」
抱きついた姿勢のまま、彼女は首を回して周囲の状況を確認する。そして、トマトのように顔を赤くして、ボンッと頭から湯気を吹いた。
「ご、ごごごごめんなさい! 私、つい……」
パッと手を離し、彼女はササッと僕から距離を置いた。ようやく自分が如何にはしたないことをしていたか、察してくれたらしい。
彼女が僕から離れると、興味を失ったのか、生徒たちは瞬く間に散っていった。
これでやっと、人心地つける……と思ったのだが、そうは問屋が卸さなかった。
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