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序章 転生と辺境の村
神童と呼ばれる日常
しおりを挟む俺が十二歳になった頃、村ではすっかり「神童ノエル」の噂が広まっていた。
どんな難題でも工夫と知恵で何とかしてしまう。そんな俺を指して、村人たちは口を揃えてこう言う。
「困ったら、とりあえずノエルに聞け」
本人の俺としては「俺、ただの便利屋だよ」と肩をすくめるしかない。
けれど、村人たちが安心したように笑う顔を見るたび、胸の奥がじんわり温かくなるのを感じる。
(貧しい村でも、諦めなければきっと変えられる。そうだ……俺がみんなを支える力になればいいんだ)
そう信じて、今日も俺は友人たちと並んで村を歩いていた。
◆
昼下がりの畑は、陽射しに照らされてじんわりと温かい。
鍬を振っていたレオンが、うんざりしたようにため息を吐く。
「はぁ……この土地、相変わらず硬いなぁ」
鍬の先が石混じりの土に突き刺さる音が響く。俺は苦笑しながら、脇に積まれた雑草を手に取った。
「雑草はまとめて積んでおけば肥料になるよ。時間はかかるけど、少しずつ土も柔らかくなるはずだ」
「なるほどな……そうやって工夫すりゃいいのか」
レオンが感心したように頷くと、その横でマルクが声を張り上げた。
「おーい、ノエル! これ見てくれ!」
彼が両手で抱えてきたのは、木で作った支柱だった。
節の向きを揃えたらしく、見た目にも丈夫そうだ。
「風が吹いても折れないぞ! 俺が考えたんだ!」
「おお、すごいじゃないか」
俺は感心して笑う。
「マルク、将来は村に工房を作ればいい。絶対に役立つぞ」
「まかせろ!“マルク工房”って看板を出す日も近いな!」
冗談交じりに胸を張る彼の姿に、周囲も笑い声を上げた。
畑の端では、サラが焚き火を起こして鍋をかき混ぜている。
「働いたあとの一杯が、一番おいしいのよ」
立ち上る湯気の匂いに、みんなの顔が自然と緩んだ。彼女は料理が得意で、村人に温かい食事を届けるのが大好きだった。
一方、倉庫の前ではディランが帳面を広げて数字を並べていた。
「保存食、種子、乾燥肉……在庫の動きが早いな。来月は配分を見直した方がいい」
几帳面に在庫を管理する彼の姿を見て、俺は思わず微笑んだ。
「……本当に、みんな頼もしくなったな」
少し離れた丘では、エリオットが木剣を振っていた。
「やあっ、はっ!」
鋭い音が木人を叩く。毎日の日課で、彼は村を守る戦士になることを夢見ている。
「無茶するなよ」
声をかけると、彼は笑って木剣を肩に担いだ。
「へへ、ノエルも訓練につきあえよ! お前だって俺の相棒なんだからな!」
その言葉に、思わず口元が緩む。
(痩せた土地で生きるのは厳しい。けど、仲間と一緒なら、きっと何とかなる。ここにはもう“希望の芽”が育っているんだ)
◆
数日後。
俺の提案で、村の小川に小さな水車を作ることになった。
「ほらよ、木材はこっちで削っとく!」
マルクが木槌を振るい、レオンが力強く木を支える。
「ディラン、釘と縄の数は足りそうか?」
「ああ、在庫は問題ない。だが、予備を確保しておいた方がいいな」
俺は設計図代わりの簡単な板書きを広げて、全体のバランスを確認する。
皆がそれぞれの得意を活かし、作業は思ったよりも順調に進んでいった。
◆
数日後の午後。
川のせせらぎを受けて、小さな水車が完成した。
「じゃあ、水路を開けるぞ!」
レオンが板を外すと、水流が羽根を叩いた。
ぎしっ、ぎしっ、と音を立てながら羽根が回り始める。
「おおお! 動いた!」
「回ってる、すげえ!」
子供たちが歓声を上げ、村人たちも集まってきて拍手が起こった。
俺はその光景を見ながら、胸の奥がじんわり熱くなるのを感じた。
(もっと大きな仕組みが作れたら、この村の暮らしはきっと変わる。明日を良くする力になるんだ)
小さな水車の回転音は、村にとって初めての“未来の音”だった。
◆
その夜。
いつものように焚き火を囲んで、俺たちは夕食を楽しんでいた。
薪の爆ぜる音と、スープの匂い。柔らかな空気に包まれる時間。
「ノエルはきっと、すごいスキルを授かるわ」
サラが笑顔で言うと、レオンが笑いながら肉を頬張った。
「そうだな。村を豊かにする〈大地の加護〉とか?」
冗談交じりのその言葉に、皆がくすくすと笑う。
俺も笑いながら答えた。
「……スキルって、努力でどうにかできるものじゃないからさ。正直、少し不安だよ」
ぽつりと本音をこぼすと、隣で木剣を抱えていたエリオットが拳を握った。
「大丈夫だ。お前が神童なら、きっと神も期待してる」
焚き火の明かりに照らされた仲間たちの笑顔が、一人ひとりの顔を浮かび上がらせる。
(……そうだな。この仲間と、この村を守りたい。何があっても)
胸の奥に小さな決意が芽生える。
◆
自分の家の窓から外をのぞくと、空には無数の星が輝いていた。
「レオンたちと一緒なら、どんな未来でもきっと大丈夫だ」
つぶやいた瞬間、夜空をひとすじの光が流れる。
その輝きに、思わず笑みがこぼれた。
明日への希望を胸に抱いたまま、俺は静かに目を閉じた。
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