世界に忌み嫌われた俺が、幼馴染との再会をきっかけに"救世の英雄"になるまで

まっさん

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異端の翼

転校生-3

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昼下がりの屋上。

風が心地よく吹き抜け、遠くには学園の校庭が見下ろせる。
生徒たちの賑やかな声が微かに聞こえ、春の暖かな陽射しが辺りを包み込んでいた。

この穏やかな光景とは裏腹に、朔夜の胸中は激しく揺れていた。

「本当に久しぶりだね、朔夜」

微笑みと共に紡がれた声は、七年前と何も変わらない。
温かくて、優しくて、まるで時間が巻き戻ったかのようだった。

そんなはずがない。

目の前の少女──四宮夕璃は、確かにそこにいた。
亜麻色の髪が風に揺れ、琥珀色の瞳が朔夜を見つめる。

記憶の中と寸分違わない姿。
しかし、あり得ない光景だった。

「……お前、死んだはずだろ」

低く、警戒するように呟く。

朔夜は無意識のうちに右手首のブレスレット型神罰具に魔力を流し、──黒き刃が顕現する。

「あの日、確かに……お前は──」

 その瞬間、朔夜の脳裏にあの光景がフラッシュバックした。



絶望の叫びが響く中、少女は自分を庇って倒れていった。

『── 朔夜!逃げて……!』

夕璃の声。
痛みに歪む表情。
鮮血に染まる白い手──

そして、彼女の胸を貫いた翠目の悪魔。



「……夕璃、お前は俺を庇って……死んだんだ」

目の前の少女を睨みつける。
だが、彼女の姿は微動だにしない。

「お前は、誰だ?」

夕璃の名を騙る何か。
それが悪魔の策略なら?
もし、彼女の身体を乗っ取られていたら?

──俺は夕璃に刃を向けることができるのか?

心臓が嫌な音を立てて鳴る。
しかし、夕璃は朔夜の動揺を静かに受け止め、ただ真っ直ぐに見つめていた。

「私は確かに一度死んだ。でも、完全に消えたわけじゃないの」

その声は震えることなく、ただ真実を語るように。



「……どういうことだ」

朔夜は夜喰を握り直しながら問いかける。
夕璃はゆっくりと息を吸い、言葉を紡ぎ始めた。

「私がここに存在する理由を説明するには、まず研究所のことを話さなきゃならないわ」

──研究所。
忌まわしき記憶の場所。
朔夜の脳裏に、コンクリートの壁、冷たく光る蛍光灯、無機質な研究者たちの顔が浮かぶ。

「あの研究所では、悪魔を人に宿す実験をしていた。でも、それとは別に、人に天使を宿す研究も裏で進められていたの」

「……っ!」

目を見開く。
天使──?

「でも、人に天使を宿すというのは、悪魔の受肉よりはるかに難しかった。なぜなら、人間という器は、天使を維持するには脆弱すぎた」

夕璃の瞳が、少しだけ翳る。

「そこで彼らは考えた。人間の魂と天使の魂を融合させることを」

「……融合?」

「聖魂融合──そう名付けられた禁術よ」

聖魂融合。
初めて聞く言葉。

「その適合者が……私だった」

「……っ!!」

朔夜は息を飲む。

「私の身体は、天使を受け入れるための器として選ばれていた。でも、一つだけ誤算があったの」

「誤算……?」

「私の身体が器として弱すぎたのよ。本来、聖魂融合は、人間の魂を天使と完全に同化させるものだった。でも、私の身体は耐えきれず同化はさせられなかった。天使の魂が完全に定着する前に、強欲厄災戦が起こった」

 朔夜は無意識に拳を握りしめる。

「あの翠目の悪魔、強欲の大罪悪魔の襲撃で、私は器として機能する前に殺された」

「……ッ!」

「でも、完全に死んだわけじゃなかった」

 夕璃は胸に手を当て、静かに続けた。

「私の魂は、強欲の悪魔の力によって囚われた。そして、私と同化する予定だった大天使リアナが私の中に入り身体を癒し救ったの」

「リアナ……大天使が、お前の中に?」

「そう。私は今、夕璃の魂が囚われた状態で、リアナの魂がこの身体に宿っている存在」

 ── じゃあ、目の前の彼女は、本当に夕璃なのか?

疑問が頭の中を駆け巡る。
だが、夕璃は微笑んだ。

「心配しないで。私は確かに四宮夕璃よ。記憶も、気持ちも、あの頃と何も変わっていない」

「……?」

「私は、夕璃として生きることを選んだの。リアナとしてではなく、朔夜の幼馴染として、朔夜と共に生きるためにここにいる」

その言葉は、偽りではなかった。
だが、まだ終わりではない。

「私の魂は、強欲の大罪悪魔に囚われている。私は自分の魂を取り返すつもり。朔夜、私に協力してくれない?」

その言葉に、朔夜の拳が震えた。
7年前、夕璃は自分を庇って命を落とした。

今度こそ、俺が夕璃を救う。
それが、自分にできる唯一の償いだった。

「……必ず、俺が助け出す」

まるで誓いのように、強く言い放つ。
夕璃はそんな朔夜の決意を受け止めるように微笑んだ。

「ありがとう。でも、今の私たちじゃ、あいつには勝てない」

真剣な表情で続ける夕璃。

「わかってる。だから……俺はもっと強くなる」

今のままでは、強欲の大罪悪魔には届かない。
ならば、届くまで強くなるだけだ。

だが、夕璃は首を横に振った。

「そのためには、あなたの中にいる悪魔の力が必要になってくる」

「……俺の中の悪魔?」

「気づいてるでしょう? あなたの中にいるのは、暴食の大罪悪魔ヴォルヴェスだって」

──ヴォルヴェス。

その名を聞いた瞬間、朔夜の全身に悪寒が走った。

「……っ!」

──ずっと、耳元で囁いていた声。
──ずっと、俺の中にいた存在。

「ヴォルヴェスの能力は、喰らった悪魔の力を吸収し、自分の力に変えること」

「……っ!」

「あなたの焔の力は、強欲厄災戦で暴走したヴォルヴェスが取り込んだ1級悪魔ザラストールの権能にすぎない。あなたは無意識のうちに、悪魔を喰らい、その力を取り込むことをしてきたのよ」

俺は、知らないうちに悪魔の力を喰らっていた?

夕璃はゆっくりとした口調で続ける。

「これからの戦いでは、その力を意識的に使わないといけない。悪魔を喰らい、その力を取り込むことで、あなたは強欲の大罪悪魔に匹敵する力を得ることができる」

「……俺が悪魔を喰らうってことか?」

悪魔を喰らい、力を得る。

それは祓魔師にとって禁忌とも言える行為。
でもそれが夕璃を救うために必要ならば。

逡巡は、ない。

「そう。そして、私たちは最強の祓魔師を目指す」

夕璃の声には迷いがなかった。
まるで当然のことのように語るその言葉に、朔夜は少し驚く。

だが、次の瞬間
ふっと、朔夜は小さく笑った。

「……そうだったな」

幼い頃、二人で交わした約束。

『二人で最強の祓魔師になろう』



「さて、まずは祓魔師協会の試験を受けるわよ」

唐突に、夕璃がサラリと言う。

「……え? なんで?」

「ただ強くなるだけじゃダメ! この先、情報や知識、色んな面で支援が必要になるのよ。なら、祓魔師協会に入るのが1番手っ取り早いでしょ?」

「別にフリーでも……」

「ダメ! もう決まったこと!」

グイッと顔を近づけてくる夕璃。
その勢いに、朔夜は思わず少しだけ後ずさる。

「試験はいつ受ける?」

「明日よ」

「……え?」

目を瞬かせる朔夜。
あまりの急展開に、つい素っ頓狂な声が出る。

「……俺の意志は?」

「関係ないわ!」

バッサリと切り捨てる夕璃。
まるで当然のような顔で、キッパリとした口調で言い放つ。

昔から、夕璃はこういう性格だった。
一度決めたことは絶対に譲らない。

7年ぶりに会ったというのに、その頑固さはまるで変わっていなかった。
朔夜は苦笑しながら、屋上の手すりに腕を乗せる。

「……しかたねぇか」

「じゃあ、決まりね!」

夕璃は満面の笑みを浮かべる。
それは、7年前と同じ屈託のない笑顔だった。

まるで、何も変わっていないかのように。

だが、確かに変わったことがある。
朔夜は、夕璃を二度と失わないと誓った。

そのために──

俺は、最強の力を手に入れる。




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