世界に忌み嫌われた俺が、幼馴染との再会をきっかけに"救世の英雄"になるまで

まっさん

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異端の翼

転校生-2

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──あの夢から目覚めた朔夜は、しばらく天井を見つめていた。

胸の奥にこびりつく感覚。
息苦しさと、どうしようもない喪失感が心臓を締めつける。

「また……か」

ため息をつき、乱れた呼吸を整えながらベッドから体を起こす。

ふと、部屋の隅に置かれた棚に目をやる。
そこには、手作りのアクセサリーと、夕璃と撮った古い写真。

朔夜は無意識に手を伸ばし、その写真をそっと指でなぞった。

── 7年前のままの笑顔。

「あの時、俺にもっと力があれば……」

目を伏せ、写真を見つめながら呟く。

もしも、もっと強ければ。
あの時、夕璃を守るだけの力があれば。

彼女は今も隣にいて、一緒に戦えていたのではないか。

過去は変えられない。
それは何度も理解しているはずなのに、考えるたびに後悔は深く沈んでいく。

「……行くか」

思考を断ち切るように、朔夜はベッドから立ち上がる。

近くに立てかけてあった愛刀──夜喰に手を伸ばすと、右手に付けていたブレスレットが光を放ち、刃は一瞬で消えた。

──異空間に収納されたのだ。

これはブレスレット型の神罰具であり、アイテムボックスの役割を持つ特別な装備。

祓魔師にとって、必要不可欠なものだった。
装備を常に持ち歩き、瞬時に取り出せることは戦場において生死を分ける。

朔夜は無造作にブレスレットを一瞥すると、ズボンのポケットに手を突っ込み、部屋を出た。

──今日は、星影の家へ行く日だった。



エンジン音が静かに響く朝の街中。
朔夜はバイクのアクセルを緩め、無機質な風景の中を滑るように進む。

背中に背負ったリュックには、昨日スーパーで買い込んだ菓子が詰められている。
孤児院の子供たちが喜びそうなものばかりだ。

本音を言えば、これは自分の罪悪感を薄めるための行動だったのかもしれない。

けれど、それとは別に──

「……俺にとって、唯一の救いなんだよな」

孤児院の子供たちと過ごす時間は、朔夜にとって心が安らぐ時間だった。
悪魔との戦い、冷たい視線、嘲笑……そんな世界の中で、唯一素の自分でいられる場所。

バイクは、街外れの森に囲まれた一角へと到着する。

小さな建物の前には、手入れの行き届いた花壇が広がり、穏やかな空気が流れていた。

── エンジンを切ると、すぐに駆け寄る足音が聞こえた。

「さくやお兄ちゃーん!!」

元気いっぱいの声と共に、数人の子供たちが門の向こうから飛び出してくる。

無邪気に駆け寄る彼らに、朔夜は思わず微笑んだ。

「おいおい、そんな勢いで走るなよ。怪我するぞ」

口では冷たく言いながらも、声音には優しさが滲んでいる。
子供たちはお構いなしに、朔夜の腕にしがみつき、無邪気な笑顔を向けた。

──この場所では、誰も朔夜を 悪魔の子とは呼ばない。

「お兄ちゃん!これ、作ったの!」

小さな女の子が、色とりどりのビーズで作ったブレスレットを差し出した。

「……俺に?」

「うん!お兄ちゃん、いつも頑張ってるから!」

朔夜は一瞬驚いたような顔をしたが、すぐに照れ隠しのように受け取る。

「……おう、ありがとな」

彼はそれをポケットにしまいながら、そっと微笑んだ。

また別の子供が、クレヨンで描いた似顔絵を差し出してきた。

「ねぇ、さくやお兄ちゃん!これ、似てる?」

「……へぇ、俺ってこんなに怖い顔してるか?」

「うん!でもカッコいいよ!」

無邪気な子供の声に、朔夜は思わず吹き出しそうになる。
少しだけ、柔らかな笑みを浮かべた。

子供たちの純粋な優しさに、彼の心は少しずつ溶かされていく。




遊び疲れた子供たちが昼寝を始めると、朔夜は静かに立ち上がり、孤児院の院長マリアのもとへ向かった。

マリアは30代半ばの温かく包容力のある女性で、朔夜に好意的な印象を持った数少ない大人の一人だった。

彼は無言で封筒を差し出す。

中には祓魔師としてのヴァルドリオを討伐した報酬のほとんどが入っていた。

「今回、臨時収入が入ったんで、これを運営の足しにしてください」

マリアは封筒を受け取り、申し訳無さそうな顔をする。

「いつもありがとう、朔夜くん。あなたの助けで子供たちは笑顔でいられるわ」

「別に気にする必要はありません。自分がしたくてやっていることなので」

「あまり無理はしないで」

「別に無理なんか…」

「悪魔被害の孤児たちのために祓魔師で稼いだお金ほとんど使っているじゃない。あなたがここ以外にも寄付や支援をしている事は知っているのよ」

「気にしないでくださいよ。祓魔師協会からぼったくったお金なんで」

おどけて見せる朔夜にマリアも呆れ気味ではあった。

「ねぇ朔夜くん、ここで一緒に暮らさない?ここなら……」

「気にしてくれてありがとうございます。でも、俺にはやらないといけない事があるので」

マリアは心配してくれているのだ。

世間的に嫌われ毎日のように聞きたくもない事を言われる俺に居場所を与えようとしてくれている。

でも、ここでその申し出を受けるわけにはいかない。
約束もあれば、果たさなければならない復讐もある。

マリアの悲しげでもあり寂しそうな表情がとても印象に残った。
 

帰り際、朔夜がバイクに跨ろうとすると、再び子供たちが駆け寄ってきた。

「また来てね、さくやお兄ちゃん!」

「次はもっと大きな絵を描くから!」

朔夜はヘルメットを被りながらも、手を軽く振り返した。

「またな」
 
その手には、先ほどもらったビーズのブレスレットがしっかりと巻かれていた。





─────────





数日後、GWが終わり、学校が始まった。
朔夜はいつものように、無言で校門をくぐる。

周囲の生徒たちの視線が、一斉に彼に向けられる。
無言の嘲笑、蔑み、嫌悪の目線。

「……またか」

気にしない。
もう慣れた。

クラスメイトたちは、朔夜に触れないように距離を取る。
担任の教師だけが、表面上の気遣いを見せるが、それもどこか空々しい。

朔夜は窓際の席に座り、ぼんやりと外を眺めた。

── その時、教室のドアが開く。

「えー、今日は転校生を紹介します」

教師の声が教室に響く。

どうせ俺には関係ない。
朔夜はそう思い、窓の外に視線を戻そうとした。

── しかし、その声が耳に届いた瞬間、時間が止まった。

「はじめまして、四宮 夕璃しのみや ゆうりです。よろしくお願いします」

……夕璃?

死んだはずの、あの夕璃が──。

朔夜はゆっくりと顔を上げた。

教壇に立つ少女。
亜麻色の長い髪、琥珀色の瞳。

彼女は、あの日と同じ笑顔でそこにいた。

「……っ!」

教室がざわめく中、朔夜の鼓動だけが、異様な速さで跳ね上がる。

ありえない。

彼女は、朔夜の方を見つめ、ふわりと微笑んだ。

「……嘘、だろ……?」

心臓が跳ね、喉が詰まる。

── 7年間、悪夢として焼き付いた光景が、今、現実となって目の前に立っていた。

次の瞬間、朔夜の視界が揺らいだ。

四宮夕璃が……生きている?



全身に冷たい汗が滲む。

しかし、担任の指示で夕璃は朔夜の斜め右前の席に座ることになり、二人の距離はわずかに空いたままだった。

朔夜は息を詰まらせ、思わず目を逸らす。
心臓の鼓動が、痛いほどに高鳴る。

── 『お前、死んだはずだろ』

頭の中で何度も繰り返される問い。

7年前の強欲厄災戦。
夕璃が自分を庇い、血に染まって倒れていった光景がフラッシュバックする。

頭の奥で、その瞬間が何度も、何度も繰り返される。
朔夜の呼吸が乱れそうになるのを、必死に抑え込む。

──だが、クラスは全く別の空気だった。

「夕璃ちゃん、どこから来たの?」
「この学校、すぐ慣れるよ!」
「昼休み、一緒にご飯食べようよ!」

夕璃の美しさと明るい雰囲気に、クラスメイトたちはすぐに惹かれていた。
夕璃は微笑みながら会話を楽しんでいる様子を見せる。

その光景を、朔夜は何も言わず見つめながら、机の下で拳を強く握った。

なぜだ。
どうしてここにいる。

込み上げる混乱と感情を、必死に抑え込む。
その瞬間、立ち上がる。

朔夜は無言のまま席を立ち、教室を出ようとした。

しかし──

「久しぶり、朔夜」

背後から聞こえてきた声に足が止まる。
ゆっくりと振り返ると、夕璃が柔らかく微笑みながら立っていた。

「なんで……夕璃が、いるんだ?」

朔夜の声はかすれ、感情が溢れ出しそうになる。
しかし、夕璃は変わらぬ笑顔で答えた。

「ゆっくり二人で話さない?」

その言葉が、教室内の空気を一変させる。
クラスメイトたちがざわめき始めた。

「やめとけよ、そいつ悪魔だから」
「話さない方がいいって!」
「そんなやつより俺らと話そうぜ、夕璃ちゃん!」

生徒たちは、朔夜の噂を信じ警戒心を隠さない。

だが、夕璃はその言葉に全く動じることなく、真っ直ぐに言い放つ。

「朔夜は幼なじみだし、ずっと会いたかったんだよ」
「積もる話もあるし── 朔夜、行くよ」

そう言うと、朔夜の手を取り、強引に教室を出る。

クラスメイトたちは呆然と見送り、教室には奇妙な静寂が広がった。

廊下を歩く間、朔夜の心臓は激しく鼓動していた。

──この感触、懐かしい。
── でも……お前は……。

階段を上り、屋上の扉を開けると、風が二人の間を吹き抜けた。

太陽の光が、朔夜の心の奥に広がる暗闇を照らすかのようだった。

夕璃はフェンス際で立ち止まり、ゆっくりと朔夜の手を離す。
その瞬間、朔夜の胸に残る温もりが、現実であることを告げる。

夕璃は朔夜の方を振り返り、琥珀色の瞳で優しく微笑んでいた。





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