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異端の翼
クラスメイトのお悩み相談-2
しおりを挟む次の日の昼休み、心地よい風が吹く屋上。
フェンスにもたれかかり、ぼんやりと空を見上げていた朔夜は、深く息を吐いた。
昨日の夕璃の言葉が、頭の中に残っていた。
「朔夜、そろそろ友達を作りなさい!」
「これからは、普通の学生生活も大切にしなきゃ」
1人だった俺がクラスメイトと関わることになるなんてな…。
そんなことを考えながらも、結菜の青白い顔が脳裏に浮かぶ。
──あんなものを、毎晩見せられてたら……。
約束だしな。討伐してやるよ。
「おい、天影」
不意に背後から声がした。
鋭く、だがどこか真剣な響きを持った声。
振り返ると、そこにはクラスメイトの高峰隼也が立っていた。
180cmのがっしりした体格の彼は、まっすぐにこちらを見据えている。
「……なんだよ」
「昨日、お前と四宮、それに結菜が話してるのを見た」
「それがどうした」
隼也は一歩踏み込み、低く、しかしはっきりとした口調で言った。
「結菜のこと、何か知ってるのか?」
鋭い目。
ただの好奇心ではない──純粋な心配がそこに宿っていた。
その視線を受け、朔夜は短くため息をついた。
「……悪魔に狙われている」
「……悪魔に……」
隼也の眉がピクリと動く。
「お前、藍川の異変に気づいてたのか?」
「当たり前だろ」
隼也は苛立ったように舌打ちし、拳を握る。
「ここ最近、結菜の様子がずっとおかしかった。授業中も集中してねぇし、休み時間になるとどこか遠くを見てる。声をかけても『大丈夫』って言うけど……あれは明らかに無理してた」
その言葉に、朔夜は何も言わず、じっと彼を見つめた。
──この男は、いい奴なんだろうな。
「……で、お前らはどうするつもりだ?」
「決まってんだろ。助ける」
その一言に、隼也は目を見開いた。
しばし沈黙が続いた後、彼は静かに息を吐き、頭を下げる。
「そうか……なら、頼む。結菜を助けてくれ」
朔夜は急に頭まで下げてきた隼也にびっくりし、一瞬言葉に詰まる。
「…言われなくてもやる」
隼也は小さく笑い、「助かる」とだけ言った。
昼休みが終わる直前、教室へ戻る途中。
廊下を歩く朔夜と夕璃の前に、突然、一人の男が立ちはだかった。
獅堂蓮司──問題児と呼ばれる男。
鋭い目が、獲物を狙う獣のように朔夜を射抜く。
「……なんだよ」
「おい、悪魔野郎」
その一言に、夕璃がピクリと反応する。
朔夜は、ため息をつきながら素通りしようとした。
だが──
「夕璃は騙されてる!」
蓮司の叫びが、廊下に響き渡る。
ざわ……ざわ……
生徒たちの視線が集まり、空気が一変した。
朔夜は足を止め、ゆっくりと振り返る。
その目は、冷え切っていた。
「……あ?」
「お前なんかが夕璃のそばにいるなんて、ありえねぇんだよ!」
蓮司は拳を握りしめながら、叫ぶように言い放つ。
「夕璃はお前を信じてるみたいだが、そんなの勘違いだ。お前は──悪魔なんだよ!」
静寂。
次の瞬間──
「私は朔夜を信じてる」
夕璃が、はっきりと言った。
「……夕璃……?」
蓮司の声には困惑が混じっていた。
「朔夜は朔夜よ。悪魔なんかじゃない」
その言葉に、蓮司の表情が凍りつく。
「……めんどくせぇ」
朔夜は冷ややかにそう言い残し、視線を逸らした。
蓮司の拳が震える。
彼の中で何かが軋んでいた。
「もうやめろよ、蓮司」
不意に割って入ったのは、隼也だった。
「お前がどう思おうが勝手だ。でも、それを煽るようにみんなの前で言うことはないだろ!」
蓮司は噛みつくように言った。
「お前だって、本当は不安なんだろ!」
「……」
隼也の瞳が、わずかに揺れる。
だが、彼は何も言わず、じっと蓮司を見つめていた。
不穏な空気が流れる。
しかし、次の瞬間──
「今はそれどころじゃないわ」
夕璃の静かな声が、場の空気を変えた。
「私たちはやるべきことがあるの」
蓮司は、夕璃を見つめる。
その目には、嫉妬が宿っていた。
だが、彼はそれを押し殺し、舌打ちして強引に立ち去った。
静寂の中、朔夜は静かに息をついた。
……マジでめんどくせぇ。
だが、その背後で蓮司の拳がわずかに震えていたことに、彼は気づいていた。
──獅堂蓮司の心に、何かが揺らぎ始めていた。
夜の帳が降りた頃。
朔夜と夕璃は、黒くそびえ立つ要塞のような建物の前に立っていた。
──祓魔師協会本部。
建物の周囲には結界の光が淡く輝き、そこを抜ける者たちは一様に緊張した面持ちをしている。
入り口を通る際、朔夜はわずかに眉をひそめた。
「……相変わらず、重苦しい空気だな」
「ここは戦場なのよ」
夕璃が小さく微笑む。
「祓魔師たちが戦いを続けるための場所……油断してる暇はないわ」
朔夜は肩をすくめた。
壁には過去の英雄たちの肖像が飾られ、広い廊下には訓練帰りの祓魔師たちが行き交っていた。
その中に、血の匂いを漂わせる一団がいた。
彼らは討伐任務を終えたばかりなのか、全身が傷だらけで、疲労の色が濃い。
……ここの連中は、常に死と隣り合わせだ。
朔夜はふと、自分の右手を見つめた。
幾度となく悪魔を斬り伏せてきた手。
それでも、今回の戦いはこれまでと違う──
夢の世界で戦う。
そこに、どれほどの未知が潜んでいるのかは分からない。
「さ、行きましょう」
夕璃の声で、朔夜は考えを振り払う。
二人は長い廊下を抜け、目的の部屋へと足を踏み入れた。
天井までそびえ立つ書架が、迷路のように入り組む巨大な図書館。
それがアーカイブルームだった。
ここには、祓魔師たちが記録した悪魔のデータがすべて保管されている。
巻物や古文書から、最新のデジタルデータまで、あらゆる情報が詰まっていた。
「悪夢を見せてくる悪魔を探すぞ」
朔夜は書架を片っ端から漁り始める。
一方、夕璃は端末を操作し、データを検索していた。
「……見つけたわ」
夕璃が小さく声を上げる。
『夢喰らい(ナイトメア)』──4級悪魔
朔夜が画面を覗き込むと、そこには詳細な情報が並んでいた。
夢喰らい
危険度: 4級悪魔
特性: 夢の世界に干渉し、対象の精神を蝕む
能力:
悪夢の侵食──連日悪夢を見せ、対象の魂を削る。
夢幻迷宮──夢の世界を迷宮化し、出口を封じる。
恐怖共鳴──標的の最も恐れるものの姿に変化。
魂喰い──夢の中で標的が死亡した瞬間、魂を徐々に喰らっていく。
弱点:
夢の世界でしか実体化できない
標的が恐怖を乗り越えた場合、力が大幅に弱体化する
悪夢の核を破壊されると消滅する
朔夜は画面をじっと見つめた。
「……過去の被害者の記録は?」
夕璃がページをスクロールさせる。
「……あるわ」
彼女の表情が険しくなる。
ナイトメアによる死亡例
A市にて、3名の意識不明事件が発生。
被害者は全員、連日悪夢にうなされていたと報告される。
最終的に、意識を失い死亡。解剖の結果、脳の活動が完全に停止していた。
「……夢の中で死に続けた者は、現実でも死ぬ」
朔夜は低く呟いた。
「ええ……だから、ナイトメアの狩りは厄介なの」
夕璃の手が、無意識に拳を握る。
「絶対に、結菜さんを助けなきゃ」
朔夜は静かに頷いた。
「次は、夢に侵入できる装備を借りるぞ」
二人は書架の奥にある祓魔師専用装備課へと向かった。
受付のカウンターには、無表情な職員が座っている。
夕璃が端末を操作し、目的の装備を検索。
「これね」
画面に表示されたのは──
【神罰具:夢渡の腕輪】
祓魔師が対象者の夢に侵入するための特殊な遺物
使用には高度な精神集中が必要
祓魔師一人につき、一度に持ち込める武器は一つまで
「貸し出しはできるのか?」
「……一応、申請すれば可能みたい。でも、条件があるわ」
「条件?」
「夢の世界は不安定だから、侵入する人数は最大2人まで。それ以上は精神に負荷がかかり、戻ってこられなくなる可能性があるみたい」
朔夜は顎に手を当てる。
「つまり、俺とお前の2人でやるしかないってことか」
「そうなるわね」
夕璃は小さく息をついた後、カウンターにいる職員に話しかける。
「神罰具《夢渡の腕輪》の貸し出しを申請したいのですが」
職員は頷き、データを確認する。
「申請は受理しました。明日の正午には貸し出し可能です」
朔夜は腕を組み、ぼそりと呟く。
「さて……いよいよ、悪夢に突っ込む準備が整ったな」
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