世界に忌み嫌われた俺が、幼馴染との再会をきっかけに"救世の英雄"になるまで

まっさん

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異端の翼

クラスメイトのお悩み相談-3

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翌日の昼、祓魔師協会からの正式な許可が下り、朔夜と夕璃は、祓魔師協会の装備管理室に向かった。

カウンターの奥で待機していた職員が、二人の姿を認めると淡々とした声で言った。

「《夢渡の腕輪)》の貸し出しを許可する。ただし、使用には細心の注意を払え」

そう言って、職員は黒い箱を差し出す。

朔夜が蓋を開けると、中には薄紫色に輝く金属製の腕輪が収められていた。
その表面はまるで星の煌めきを閉じ込めたかのようにゆっくりと脈動している。

「……妙に禍々しいな」

朔夜が腕輪をじっと睨む。

「それも当然だ」

職員が表情を崩さぬまま告げる。

「《夢渡の腕輪》は、もともと悪夢の領域に干渉するために作られた神罰具。だが、その性質上、使い手の精神にも影響を及ぼす可能性がある」

「つまり?」

朔夜が面倒くさそうに尋ねると、職員は淡々とした口調で続けた。

「簡単に言えば、お前たちも悪夢に取り込まれる危険があるということだ」

その言葉に、夕璃の眉がわずかに寄せられた。

「それは……過去に実際に起こったことですか?」

「報告は少ないが、例はある。使用者が夢の世界で精神を喰われ、意識が戻らなくなったケースもな」

「……そういう話は早くしろよ」

朔夜が苦い顔をする。

「言ったはずだ、細心の注意を払えとな。夢の世界では、お前たちもまた、標的になり得る」

職員はそう告げると、カウンターの端末を操作し、最終確認のサインを求めた。
夕璃が署名を済ませると、《夢渡の腕輪》は正式に二人の手に渡った。

「……さて、これで準備は整ったわね」

腕輪を手にした夕璃が静かに呟く。
二人は、覚悟を決めて学園へと向かう。




放課後。

朔夜と夕璃は、藍川結菜を校舎裏に呼び出した。
人目を避けるためとはいえ、いつもより静かな場所に呼ばれたことで、彼女は不安げな表情を浮かべている。

「……あの、何か分かったの?」

彼女の問いに、朔夜はストレートに答えた。

「悪魔の正体は夢喰らいナイトメアだ。」

結菜の表情が一瞬で固まる。

「夢喰らい……?」

「お前が毎晩見ている悪夢、それがこいつの仕業だ。ナイトメアはお前の恐怖を喰らい、魂を削っている」

「……そんな……」

結菜は、はっと息を呑んだ。

「私……死ぬの?」

その問いに、夕璃が力強く答えた。

「いいえ、私たちが助けるから」

だが、結菜は不安げなまま、ぎゅっとスカートの裾を握りしめた。

「……どうやって……?」

「お前の夢の中に入る」

朔夜が言うと、結菜は驚いたように目を瞬かせた。

「夢の中に……?」

「《夢渡の腕輪》を使えば、俺たちはお前の夢の世界に侵入できる。そこで直接、ナイトメアを討つ」

「でも、夢の中で戦うなんて……」

結菜の手が震える。

「私は……怖い……」

「怖いのは当然よ」

夕璃が優しく微笑みながら言った。

「でも、あなたが諦めなければ、私たちは絶対に負けないわ」

「でも……でも……!」

結菜は顔を伏せ、唇を噛んだ。

その背中を支えるように、別の手がそっと添えられる。

「……結菜」

様子を伺っていた高峰隼也だった。

「お前は一人じゃねぇ」

彼は真剣な目で結菜を見つめる。

「お前がどんなに怖くても、こいつらがついてる。それに……俺だっている」

結菜の瞳が揺れた。

「……隼也くん……」

「だから、大丈夫だ。お前は一人じゃねぇから」

結菜はしばらく黙ったまま、視線を落とす。
だが、やがて深く息を吸い込み、小さく頷いた。

「……分かった」

その瞳に、わずかながら決意の色が宿る。

「怖いけど……信じる。朔夜くんと夕璃ちゃんを」

「上出来だ」

朔夜は口角をわずかに上げた。

「それでこそ、優等生ってやつだな」

「……もう、からかわないでよ」

結菜が小さく頬を膨らませる。
そのやり取りを見て、隼也も安堵したように息を吐いた。

「これで決まりだな」

「ええ。今夜、結菜の夢の中に入って、ナイトメアを討つわ」

夕璃が真剣な表情で頷く。

「さぁ──悪夢を終わらせましょう」





夢の世界への侵入は、一瞬の闇だった。

《夢渡の腕輪》を装着した朔夜と夕璃の視界が歪み、まるで水底へ引きずり込まれるような感覚に襲われる。

それは、体の奥底に染み入るような、鈍く冷たい感覚──
気づけば二人は、異様な空間に立っていた。

そこは現実の学園の廊下にも似ていた。
だが、何かが決定的に異なっている。

天井は異常なほど高く、視線を上げれば黒く歪んだ空間が広がっていた。
壁にはびっしりと無数の鏡がかかっている。だが、その鏡には朔夜たちの姿は映っていない。

──「結菜が死ぬ」瞬間の映像だけが、映っていた。

列車に轢かれる。
高所から突き落とされる。
無数の手に引きずり込まれ、水の底へ沈む。
焼ける家の中で、逃げ場をなくし、絶望に染まる。

鏡の中では、何度も何度も結菜が悲鳴を上げ、恐怖に満ちた表情で命を落としていた。
血の色、肉が焼ける音、水に沈む泡、すべてがありありと再現されている。

これは、結菜が見てきた悪夢の断片なのか。

「……気分悪ィな」

朔夜が吐き捨てるように呟いた。
夕璃も厳しい顔で周囲を見渡す。

「結菜の精神世界が、これほどまでに侵食されているなんて……」

彼女の声には憂いが滲む。
その時だった。

──ザリ……ザリ……

背後から、不気味な音が響いた。

乾いた音。
砂を踏み鳴らすような、何かが這いずるような音。
それは、暗闇の奥から確実にこちらへ近づいてくる。

「お前も……ここで死ぬんだ……」

低く掠れた囁きが、耳元で直接囁かれたかのように響いた。
次の瞬間、影のような黒い手が足元から這い寄り、朔夜と夕璃の足に絡みついてくる。

「っ……!」

「──させない!」

夕璃が即座に祓魔術を発動する。
手のひらに淡い光が宿り、神聖な魔方陣が描かれる。
その瞬間、光が炸裂し、影の手が煙のように消え去った。

「気を抜かないで、朔夜。ここはナイトメアの領域よ」

「言われなくても分かってる」

朔夜は夜喰の柄を握り、周囲を警戒する。

「藍川の意識が恐怖に染まれば染まるほど、こいつの力は増す……厄介な相手だな」

そう呟いた瞬間、廊下の奥から漆黒の霧が湧き上がった。
霧の奥で、不気味な光を帯びた何かがこちらを覗いていた。

その光は、一つではない。
二つ、三つ、四つ……いや、無数の光が、闇の中にちらついている。
それはまるで、幾百もの眼球が、こちらを見つめているかのようだった。

影が脈動するように揺れ、ゆっくりと形を成していく。
やがて、それは異形の怪物となった。

「お前たちは……ここに来るべきではなかったな……」

声が、響く。

その声は、不快なほどに頭の中に入り込んでくる。
現実の音ではなく、直接、脳に囁かれるような感覚だった。

目の前にそびえるのは──ナイトメア。

ナイトメアの体は、漆黒の闇そのものだった。
しかし、その身体のあちこちには、無数の人間の顔が浮かんでいる。
誰かの顔が歪みながら笑い、誰かの顔が恐怖に引きつり、誰かの顔が涙を流している。

ナイトメアは、恐怖に飲み込まれた魂の残滓でできているのか。

「こいつが……藍川を苦しめてる悪魔か」

朔夜が冷たく睨む。
ナイトメアの形がさらに歪んでいく。
その顔の一つが、ある形に変わった。

──結菜だった。

「……愚かなる人間よ……」

ナイトメアは低く嗤う。

「この子は、もう絶望に染まりつつある……。恐怖が心を支配するたびに、私はより深く、より甘美に魂を喰らうことができる……」

ナイトメアの体が揺れ、壁に映る結菜の死の映像がさらに鮮明になっていく。
血が飛び散り、肉が裂け、骨が砕ける音が響く。

結菜の意識が負ければ、こいつの領域はさらに広がる。
悪夢は、結菜だけのものではなくなる。

「……なるほどな」

朔夜は静かに呟いた。

「つまり、お前をブッ倒せば、このクソみてぇな悪夢も終わるってわけだ」

ナイトメアは嗤う。

「フフ……お前たちも、すぐに私の一部となる」

その瞬間、闇が爆ぜた。

無数の影が触手のように蠢き、襲いかかってくる。
天井からも、床からも、四方八方から黒い手が伸び、絡みつこうとする。

「やるしかねぇな」

朔夜は夜喰を抜く。

「ええ、全力でいくわよ!」

夕璃も祓魔術を展開する。

ナイトメアの闇が唸りを上げる。
──悪夢の戦いが、幕を開けた。




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