世界に忌み嫌われた俺が、幼馴染との再会をきっかけに"救世の英雄"になるまで

まっさん

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異端の翼

クラスメイトのお悩み相談-4

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──ヒュゥゥゥ……

冷たい風が吹き抜けると同時に、黒い霧が渦巻いた。
異形の気配が、夜の帳のようにあたりを覆い尽くす。

「フフ……ここでは、お前たちの常識は通用しない……」

ナイトメアの囁きとともに、空間が軋む。
重力が歪むような感覚に朔夜は僅かに眉をひそめた。

「……クソが」

彼は静かに夜喰を抜き放つ。
刃が闇を裂き、鈍く光を反射した。

「朔夜、気をつけて! ここは夢の世界、現実の理は通じない!」

夕璃の声が響く。

だが、その直後──

「──っ!?」

斬撃が虚空を裂いたはずなのに、手応えがない。
ナイトメアの体はまるで霧のように形を変え、刀がすり抜けた。

「こいつ……攻撃が効かねぇのか……!?」

「違うわ! ここは結菜ちゃんの恐怖が作り出した空間なの!」

夕璃が結菜の方を振り返る。
少女は怯えきった瞳をしていた。

「……怖い……怖い……!」

彼女の小さな震えが、ナイトメアを強くしているのだ。

「お前たちも……悪夢の一部となれ……。」

ナイトメアが手をかざすと、影の触手が膨れ上がり、一瞬で二人を絡め取った。

「……ちっ……!」

朔夜は腕を振り払い、夜喰を振るう。
しかし、絡みつく影はまるで意思を持つかのように、刃をすり抜け、再びまとわりついてくる。

──その瞬間、意識が闇に沈んだ。

《悪夢の侵食》

「……ここは……?」

気づけば、朔夜は漆黒の世界に立っていた。
足元に広がるのは、まるで奈落の底を思わせる虚無の闇。
そこから這い出すように、無数の黒い手が蠢いていた。

──お前は悪魔だ。
──お前は人を喰らう存在だ。
──お前がいる限り、人間は不幸になる。

囁き声が耳元で響く。
不快な音が骨の奥まで染み込んでくるような感覚。

──その時、視界が歪んだ。

次に目を開いた時、そこにいたのは血に染まったもう一人の自分だった。

「……何……だと……?」

目の前には、暴食の悪魔に呑まれた自分がいた。
黒く染まった肌。血に濡れた唇。
彼の足元には、無数の骸が転がっている。

それは未来の自分。
暴食に呑まれ、人を喰らう獣と化した姿だった。

「やめろ……」

朔夜は喉を震わせる。
だが、もう一人の自分は狂笑しながら、目の前の誰かの肉を喰らった。

それは、四宮夕璃だった。

「っ……!」

朔夜の心臓が強く脈打つ。
次の瞬間、目の前の世界が砕け散った。





「フフ……見たか? これが、お前の未来だ……」

ナイトメアが嘲笑うように囁く。

「未来……だと……?」

「そう、お前はやがて、暴食の悪魔に呑まれ、人を喰らう存在となる……」

黒い霧が朔夜を覆い、視界が閉ざされる。
だが、彼の瞳はなおも冷たく輝いていた。

「……バカが」

朔夜は静かに夜喰を構える。
そして、次の瞬間──

「喰えば関係ねぇだろうが」

──ズバァァァッ!!!

刃が闇を裂き、黒い霧が吹き飛ぶ。
ナイトメアの囁きが止まる。

「貴様……恐怖を……?」

「俺は、過去を乗り越えた。やらなきゃならねぇことがあるんだよ」

静かに、だが確かに朔夜は言い放った。

「俺は、強くなって夕璃を取り戻す」

刹那、彼の手から黒い炎が噴き上がる。

「──夜喰解放ナイトイーター・リリース

彼の足元から溢れ出した黒炎が、螺旋を描くように刀身を包み込む。
灼熱の刃が生まれ、朔夜の全身を黒焔が覆った。

「悪夢なんざ……ぶっ潰すだけだ」

「……チッ、ならばお前を迷宮に閉じ込めるまで……!」

ナイトメアが空間を歪ませる。
無限に続く廊下。
どの扉を開けても、同じ景色が繰り返される。

──終わりのない悪夢、夢幻迷宮。

「……くそっ……!」

「朔夜、落ち着いて!」

夕璃が祓魔術を展開。
手のひらをかざし、聖なる光を放つ。

「……っ!?」

霧の一部が弾かれ、光に焼かれて消えていく。

「聖光の結界を展開するわ! でも、結菜ちゃんの意識が戻らないと完全には消せない!」

「……そうかよ」

朔夜はゆっくりと刀を構える。

「なら、俺が切り拓く」

彼は瞬間的に姿勢を低くし

「──《焔閃》」

瞬きする間もなく、焔の斬撃が迸った。

──ギィンッ!!

空間が歪むほどの超高速の居合斬り。
その刃は一瞬で迷宮の壁を切り裂き、燃え上がらせる。

「な、何ィッ……!?」

ナイトメアが驚愕する中、朔夜はさらに一歩踏み込む。

「──《煉獄刀舞》」

剣が炎の軌道を描き、紅蓮の刃が空間を舞う。
熱波が迸り、夢の世界が揺らぐ。

ここからが本番だ。

「お前の悪夢は、もう終わりだ」

黒焔を纏う剣士が、一気に駆け抜ける。





「……な、なぜ迷宮が崩れる……!? こんなことが……!」

ナイトメアの動揺が空間に波紋を走らせる。
朔夜の剣が振るわれるたびに、夢幻迷宮の法則が破壊されていく。

「お前の理屈なんざ知らねぇが……」

朔夜の瞳が冷たく輝く。

「俺の刃は、理なんざ超えていくんだよ」

黒焔が舞う。
刀身に纏った炎が、紅蓮の軌道を描きながらナイトメアを包囲する。

「──《煉獄刀舞》」

──ゴォォォォッ!!

朔夜の刃が疾風のごとく駆け抜ける。
紅蓮の軌道が次々とナイトメアの周囲を埋め尽くし、鮮烈な火の輪が生み出された。

「ぐっ……!!」

ナイトメアの霧の身体が燃え上がる。
夢の世界において彼の本質は概念。
しかし、朔夜の焔は「概念すら焼き尽くす力」を秘めていた。

「このまま焼き切る……!」

朔夜が再び駆ける。

「──《紅蓮断ち》!!」

──ズバァァァッ!!

灼熱の刃が、空間を裂くように奔った。
飛翔する斬撃が一直線にナイトメアの影を切り裂き、霧の身体を粉砕する。

「が、ぁ……ッ!!」

断末魔のような悲鳴が響く。
夢の世界が揺らぎ、迷宮の構造が完全に崩壊し始めた。





「結菜ちゃん、目を覚まして!これは夢よ!」

夕璃の声が届く。
結菜は閉ざされた意識の中で震えていた。

だが──

「……夢……?」

彼女の言葉が、夢の世界を揺るがせる。

「そうよ! あなたはここに閉じ込められるべきじゃない! これはただの悪夢なのよ!」

夕璃の聖光が彼女の周囲を包み込む。
結菜の目が、静かに開かれた。

「……怖い……けど……」

彼女は朔夜の戦いを見つめる。
恐怖を喰らい、それでも尚、前に進む者の姿を。

──そうだ。

朔夜くんは恐怖に屈していない。
ならば、自分も……。

「私も……負けない……!」

結菜の決意が、世界を覆う闇を打ち砕く。

「やめろ……やめろぉぉぉ!!!」

ナイトメアの悲鳴がこだまする。





「……ああ、感じるさ……」

朔夜はナイトメアを見据えたまま、夜喰を構える。

「けど──喰えば関係ねぇ」

──ズバァァァッ!!!

彼の刃がナイトメアの身体を両断した。
だが、それだけでは終わらない。

「──無限飢餓グラトニー・アビス

次の瞬間、朔夜の体から黒い渦が広がる。
まるで巨大な口を開くかのように、ナイトメアの存在そのものを喰らおうとする力。

「……が、あ……!? 何をしている……!!?」

ナイトメアの霧の身体が削り取られ、次々と吸収されていく。

その瞬間──

「くっ……くそ……こんな……!!」

ナイトメアの最後の叫びが、虚空に吸い込まれた。

──そして、悪夢は完全に消滅した。





結菜が目を開いた時、そこには朔夜と夕璃の姿があった。

「……終わったの……?」

彼女のか細い声に、夕璃が頷く。

「ええ、もう大丈夫よ」

全てが終わったはずだった。

だが。

『……足りねぇ……まだ……食いてぇ……』

朔夜の脳裏には、暴食の悪魔の声が響いていた。

『もっと喰らえ……もっと、もっとだ……!』

彼の手が無意識に震える。
内側から湧き上がる異常な飢餓感。
満たされない欲望が、彼をさらに喰らうことへと駆り立てようとしていた。

「朔夜、戻ってきて!」

夕璃の声が、闇に呑まれかけた朔夜を引き戻す。

悪魔を喰らえば暴食の存在は朔夜の中でどんどん大きくなっていく。





朔夜は静かに、夜喰を鞘に納めた。

「……チッ」

まだ飢えは消えていない。
だが、それでも。

「俺はまだ、人間だ」

そう言い聞かせるように呟いた。

「……ねぇ、朔夜くん」

結菜がそっと彼を見つめる。

「助けてくれて、ありがとう。」

朔夜は一瞬、言葉を失った。
そして、わずかに息を吐き──

「……礼を言うなら、夕璃にしとけ」

それだけ言い残し、朔夜はその場を後にした。




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