世界に忌み嫌われた俺が、幼馴染との再会をきっかけに"救世の英雄"になるまで

まっさん

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異端の翼

クラスメイトのお悩み相談-5

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翌日。
結菜は朔夜と夕璃の前に立ち、深々と頭を下げた。

「本当に……ありがとう」

彼女の声は、昨日までの震えるようなものではない。
言葉には確かな意志が宿り、感謝の念がはっきりと伝わってきた。

──目の前の結菜は、もう悪夢に囚われていた少女ではない。

「おかげで、私はもう悪夢に怯えなくて済むよ」

顔を上げた結菜の瞳は、以前とは違っていた。
弱々しく揺れることなく、まっすぐと朔夜を見つめている。

「よかったわ。これで、もう安心ね」

夕璃はにこやかに微笑む。
朔夜は無愛想に腕を組んだままだったが、結菜の変化を感じ取っていた。

こいつ……こんなにしっかりした目をしてたか?

昨日までの結菜は、怯えた小動物のようだった。
しかし、今の彼女は違う。

──確かに乗り越えた者の目をしていた。

「……別に、俺はやれることをやっただけだ」

つい、そっけなく返してしまう。
だが、そんな態度を見透かしたように夕璃がクスッと笑った。

「素直に受け取ればいいのに」

「うるせぇ」

「ふふっ、ツンデレ」

「う、うるさい!!」

そんなやり取りに、結菜が思わず笑う。
それを見た朔夜は、ますますこそばゆい気持ちになった。

人から直接「ありがとう」と言われることが、こんなに落ち着かないとは──
普段の祓魔師の仕事では、感謝されることよりも恐れられることのほうが多かったから。

だが、結菜の瞳には恐れはなかった。
純粋な感謝の気持ちだけが、そこにあった。





「お前、意外と頼れるんだな」

不意に、別の声が割って入った。
近づいてきたのは、隼也だった。

「……何だよ」

「いや、結菜がずっとおかしかったから、何かできねぇかって考えてたんだ。でも俺には、悪魔相手にできることなんてなかったからな」

そう言うと、隼也は拳を差し出した。

「助けてくれて、マジで感謝してる。礼を言わせてくれ」

朔夜は一瞬戸惑った。
だが、黙って拳を合わせる。

「……まぁ、悪くねぇな」

隼也は満足げに笑い、軽く肩をすくめた。

「正直言うと、もっと冷たい奴かと思ってたぜ」

「意外とは余計だ」

「でもまあ、昨日のあれ見たらな……お前がどれだけぶっ飛んだヤツかも分かったし」

「……まぁ、祓魔師ってのはそういうもんだ」

互いに短い言葉を交わしながらも、わずかに距離が縮まったのを感じた。

そこへ、新たな人物が割り込んできた。

「おやおや、なんか盛り上がってるね~?」

飄々とした声とともに、柊 司が姿を現す。
その後ろには、元気いっぱいな春瀬 雫の姿もあった。

「結菜を助けたすごい人って聞いたけど、まさか朔夜くんだったとはね」

「ねぇねぇ、マジで悪魔を倒したの!? すごいじゃん!」

「……お前ら、どっから聞きつけた」

「そりゃ、夕璃ちゃんから~」

夕璃は悪びれもせず微笑む。

「だって、朔夜の友達作り作戦の第一歩だもの。こういうことは大事よ?」

「はぁ……」

司はじっと朔夜の顔を見つめ、ニヤリと笑う。

「へぇ~、君って意外と人助けするタイプ?」

「……別に、俺は」

「ツンデレ!! これはツンデレです!!」

突然、雫が元気よく叫んだ。

「は? 俺はツンデレじゃねぇ」

「いやいやいや、今の流れは完全にツンデレだって!!」

「俺は別に助けたくて助けたわけじゃ──」

「ほらー! それがツンデレ発言だよ!!」

ワイワイと騒ぐ雫に、朔夜は思わず頭を抱える。
そんな様子を見て、夕璃が優しく笑った。

「ふふっ、そういうところがツンデレよ」

「……だから、違うっての」

だが──悪くない。
今までの学園生活にはなかった騒がしさ。
それが妙に心地よかった。

「ま、とりあえず君とは仲良くなれそうだね」

司が肩をすくめながら言う。

「……勝手にしろ」

自然と、朔夜の口元には微かな笑みが浮かんでいた。

こうして、朔夜は初めて友達と呼べる存在を手に入れた。
まだぎこちないが、それでも確かに距離は縮まっている。





──静かな夜道。

昼間の喧騒とは打って変わって、学園周辺の街並みは穏やかで、心地よい風が頬を撫でる。

朔夜は一人、帰り道を歩いていた。
ポケットに手を突っ込みながら、ぼんやりと空を見上げる。

夜空には、雲一つない星々が瞬いていた。

「……このまま、普通の学園生活を送れるわけねぇよな」

小さく呟く。

クラスメイトと話し、悪魔を祓い、助けた奴に感謝される──
昨日までの自分にはなかったことだ。
確かに、悪くない時間だった。

だが、それと同時に──

胸の奥では、まだ燻るような飢えが消えずにいた。

ナイトメアを喰らった時の感覚。
溶けるような快感と、止まらない欲求。

もっと喰らいたい。

もっと、もっと、喰らって、強くなりたい。

──暴食の声が聞こえる。

「喰え、喰らえ、お前は捕食者だ……」

耳鳴りのように、低く重い囁きが響く。
それはまるで、空腹の度に胃が鳴るような感覚だった。

朔夜は無意識に手を握りしめる。
爪が食い込み、皮膚が白くなるほどに。

(……くそが)

自分が何を求めているのか、わかっている。
──もっと悪魔を喰らい、強くなりたい。
それが本能の欲求になり始めている。

だが。

このままいけば……?

思考が巡る。
今はまだ、人間だ。
だが、もしこの衝動を抑えられなくなったら──?

「……っ!」

無意識に奥歯を噛みしめる。
一瞬、クラスメイトたちの姿が脳裏に浮かんだ。

結菜の笑顔。
隼也の拳。
司や雫の軽口。
そして、夕璃の優しい笑み。

──喰らうべき相手じゃない。
俺は……まだ、人間の側にいる。

「……はは、馬鹿みてぇだな」

小さく笑いながら、再び空を見上げる。

祓魔師として生きることと、学園生活を送ること。
両立するのはきっと難しい。

いや──最初から無理な話なのかもしれない。

それでも。

「……ま、悪くはねぇか」

空に浮かぶ月を見ながら、朔夜は静かに呟いた。



ふと、ポケットの中の感触に気づいた。
手を入れて取り出すと、そこには小さなお守りがあった。

「……?」

思い出す。
それは、結菜がさっき渡してくれたものだった。

「これは、昔、お母さんがくれたものなの」

「お守り? 俺に?」

「……朔夜くんが、これからも無事でいられるようにって」

「……別に、そんなもんなくても俺は平気だ」

そう言ったが、今、手の中にある小さな布袋は温かかった。

「…………」

ポケットに戻そうとしたが、何故か躊躇する。

「……チッ」

結局、朔夜はそれを制服の内ポケットにそっと仕舞った。

「守りたいものができるってのは、こういうことかよ」

それは、今まで持ったことのない感覚だった。
祓魔師としての戦いには、いつも使命しかなかった。

だが今は──
それとは違う何かが、自分の中に芽生え始めている。

「……バカみてぇだな」

再び呟き、朔夜は歩き出した。

──夜の闇に溶け込むように。




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