王譚

ヤマハ

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序章

村にて

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フィースは赤ん坊を抱えたまま、村の入口で足を止めていた。

「このまま家に帰ったら、外でできた子を連れて帰ってきたみたいに思われる――」

頭の中でそんな声がぐるぐると回る。でも、村に入らないわけにはいかない。行くしかない。
(門番さんなら、わかってくれるはず!)

「フィース」
「ど、どうも……」

「あ、あぁ……」

門番の声はぎこちない。視線が、赤ん坊に一瞬流れた。フィースは笑ってごまかす。心臓はちょっと早く打っている。

門番は語る。

「いつも話しかけてくれるのは、本当に嬉しいんだが……」

――回想ーー

月曜日
「フィース」
「いい天気ですね」
「門番」
「そうですね」

火曜日
「フィース」
「いい天気ですね」
「門番」
「そうですね」

水、木、金、土、日。

「門番」「毎日、これの繰り返しなんだ。」

――回想終わり――

木こりにも会った。にこやかに聞かれて、フィースはつい笑って答える。

「その赤ちゃん、どこで拾ってきたんだ?」
「森で。」

笑って、さっとその場を離れた。うまくやり過ごしたつもりだった。

でも木こりは思う。

――回想ーー

月曜日
「木こり」「いい天気だな」

「フィース」「そうですね」

火曜日

「木こり」 いい天気だな

「フィース」「そうですね」

「木こり」 365日この会話だけなんだ

――回想終わりーー

彼女は自分の認識と、村人の認識がズレていることに気づいていない。


家に戻ると、日差しが居間を温めている。フィースは赤ん坊をふわりとベッドに寝かせる。小さな胸が上下する。吐く息はぬくもりがある。指先に触れると、爪の小ささに思わず笑ってしまう。

「この子はどこから来たんだろう。村の子? それとも外から?」
考え始めると、次々に疑問が湧いてくる。なぜ森の外れに? なぜ木々に囲まれていた? 誰が置いた?

――その時だった。

「おぎゃあ! おぎゃあ!」

赤ん坊が急に大声で泣き出す。フィースはっとして、本棚から一冊の古い本を引っ張り出した。表紙は擦り切れた『勇者オルレクス伝説』。
昔から何度も読み返してきた本だ。

フィースは必死でページをめくり、声を落として読み始める。
「昔々、森の向こうに、一人の勇者がいました――」
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