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マリ 9

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そんな話を私は、マグリドとバークマンとしてやすんだ2週間後驚きの人が飛び込んできたのだった。
あまり表情金を動かさないバーグマンが、面食らった様子で問いかけてきた。

「マリ様よろしいですか、お約束されていないお客様が来られてますがどうされますか?」

「珍しいねバーグマンがそんな表情するの、誰が来てるの?」

「タウンゼント辺境伯爵のお嬢様のリビエラ様です。」

「約束も取らずに、急だね。なにか言ってた?」

「お約束もなく面会の申し出て申し訳ないが、早急にお会いしたいとだけ話されています。」

「一人?」

「侍女とお二人ですが、農園には馬車と何人かのおつきが付いて来ました。危ないものはいないようですが気は付けております。」

「お会いしようか、客間にお通しして。ここを片付けたらお会いするわ。」

「わかりました、客間にご案内いたします。」



「主人は後程まいりますので、こちらでしばらくお待ちいただきます。」
客間に案内したリビエラ嬢は緊張した様子で客間に入り、侍女はやたらオドオドしていますね。
マリ様が歩いてこられてますね、意外に早くに来られましたね。お茶の用意を素早くしなくてはいけませんね。

客間の扉が開いた瞬間、驚いて顔を向ける侍女に対しさすがは王妃教育されたリビエラ嬢は緊張していても表情はかえませんね。

「お待たせいたしました、当農園の主のマリです。リビエラ様とは初めてお会いします。よろしくお願いしたします。」

「ご丁寧に。タウンゼント辺境伯爵が娘のリビエラと申します。面会の予約もなしに訪ねてきた非礼をお詫びしますわ。そしてお会いできたことに感謝いたします。」

「いいえ、タウンゼント辺境伯爵領にも一度お伺いしたいと思っておりましたので、問題ございませんわ。
本日はどのようなことで我が家に訪問していただけたのでしょうか?
それより、お茶をご用意させていただきますわ。新しく考えたお菓子も試食して頂きぜひリビエラ様の感想をお聞かせくださいませ。」

先ずは本日このように突然お伺いした理由をお話しさせてください。でないとマリ様に謝罪する勇気がなくなります。と話しだしたリビエラ嬢は緊張で声が震えているわね。
彼女曰く
先日ここで模擬戦が行われた時王太子殿下のお子様方を手に入れようと依頼した。
王太子殿下より婚約破棄されたのは自分が身体が弱く子供をあまり産めないことが原因であると説明されたが事実は異なり私が王太子と関係したからと後でわかった。
ただ身体が弱いのは事実であったので王太子の立場上やむ負えぬかと考えて無理にあきらめようとした。
リビエラ嬢は幼い時から王太子を慕っていたのだそうだ。
王家より婚約破棄されたリビエラ嬢には今後結婚できる望みはほとんどなく、将来は領地の片隅で領地の子供たちの面倒をみながら生きていくと考えていたのだそうだ。
だが最近、王太子殿下は結婚されず誰も娶らないことを知った。
自分が慕った王太子殿下の子供を4人も産みながら正妃にも側妃にもならず自由に生きようとする私に怒りを覚えていたところ1か月ほど前に王都に呼ばれたそうだ。
王都に行く途中で現在評判の食堂で食事をしたところ、子供たちと一緒の王太子と私を見たと話した。
子供たちを抱きしめる王太子をみて、城にもあがらず子供たちに王族としての教育もしない私に怒りが燃え上がった。
自分が王族として一人前に育てたいと心の底から願ったそうだ。
その時小耳にはさんだそうだ。望みを叶えてくれる存在がいることを、彼らに依頼すれば子供をその手にすることが出来る者たちがいると。
今から考えるとどうしてそんなことを思いついたのかわからないけど、その時はがむしゃらに王太子の子供たちが欲しいと思ったようだ。
そして彼らに会い依頼した。
依頼が失敗したとき自分がしたことに慄いたそうだ。
我に返ると恐ろしくなり自分の兄に話して急遽ここに来た。

「申し訳ございませんでした。何を考えていたのか自分でもわかりませんが私だけがした行為です。決して父上や兄上、我が領がかかわってはおりませぬ。私だけの命で此度のこと許していただけないでしょうか、どうかどうかお願いいたします。」

土下座しながら申し出るお嬢様。

「1つ教えてくれますか、あなた様にその手助けするものを教えたのは誰?誰がそのことを貴女に囁いたか教えていただけますか?」

「それは…それは、」

「それは?それは貴女の父上?それとも兄上?それとも誰なのですか?」

「それは、それは人が話してるのを小耳にはさんだだけなのです。」

「その小耳にはさむときに話していたのは誰なのですか?
王城で7才より通っていた貴女だ、そのようなことを話している身分の人間を知らないわけないですよね。」

「知りません、通りすがりに耳に入っただけなのです。」

「信じられませんね。貴女が庇っているのは貴女の父上、兄上?そう考えるのが当然ですよね。
ではそのように判断して責任を取っていただきましょうか。念のためにお伝えしときますが子供たちを攫おうとした者たちはすべて生きたまま魔物の餌になりましたね。
貴女もあなたの家族すべてに同じ目にあっていただきます。よろしいですね。」

「……、私だけの命ではだめなのですか?」

「貴女は自分の計画が失敗したから、ここに来たのですよね。成功していたら死ぬのは私達だったわけですよね。しかも、何もわからない子供たちを攫おうとした。自分がした行為が自分に跳ね返らないとでも思ったのですか。馬鹿ですか貴女は。しかも先ほど貴女が言われたように私の子供たちは王太子の子供。貴女は王族に手を挙げたのですよ。王族に手を挙げたものは一族郎党全員爵位没収の上、死罪ですよ。わかっていますか。」

「貴女は今日ここに来た目的は何なのでしょうか?ただ単に同情を引きたかったのですか?
幼いころから慕っていた王太子に婚約破棄され、子供を産むことが難しい体の弱い自分が生きていくのは領地の片隅、思い余って婚約破棄の原因となった平民の女から子供を奪おうとして失敗した可哀そうな自分。罪を懺悔したので謝ったので許してくれるでしょうとでも言いたいのですか?」

「そんなつもりは…」

「そんなつもりがあって来られたのですよね。でないと自分のしたことが皆に特に王太子にバレてしまうのも時間の問題とここに来たのですよね。」

「違います、違うのです。そんなつもりはありませんでした。」

「では、貴女に農園主の子供たちを攫うように囁いたのは誰ですか?
1か月前に王都にいかれたそうですが、なぜ王都にいかれたのですか。貴女は婚約破棄以降王都には行かれることはなかったはずです。私達の調べでは貴女に行く理由はなかった、タウンゼント辺境伯爵も貴女を呼んではいなかった。では誰が貴女を王都まで呼びつけたのですか?」

「言えません。私には言えません。」

「言わないと貴女の一族は今回の襲撃の責任を取っての爵位没収と断罪がまっていますね。」

「そ、そ、そのような、そのようなことはあり得ません。」

「おやー、あり得ないと思われる理由は何ですか?私は平民ですが、Sランクの冒険者で祝福の女性で子供たちは王太子の子供たちですがそれでも罪に問われないという理由は何でしょうね。
おや、顔色があまりよくないようですね。お話は明日にでもしましょうか。
王太子殿下も明日はこちらに来られるそうです。王太子殿下も貴女のお話を聞きたいでしょうから。
今夜はこちらでゆっくりお休みください。従者の方々も別邸になりますが休んでいただきますね。」

「………。」



      ◇◇◇◇◇


「気づかれないようにすすめ。音を出すなよ。誰にも気づかれないように早く進め。」
我々が助かる道はもうこの方法しかないのだ。
なぜこうなったのか分からない。
妹はなぜ。あの聡明で沈着な妹が突然このような行動に出るとは私には考えられない。



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