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プロローグ
欠点探し
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ーー我が国の貴族は国王の許可無く勝手に結婚してはならない。
今日発表された新しい法律にはそんな文が含まれていた。何故か、などわざわざ聞くまでもない。無駄な反乱を減らしたいからだ。
ただ、こんな法律が出来たところで俺にはあまり関係がない。そもそも縁談などきたことがないし、反乱を起こす気なんて毛頭ないのだから。
今まで、こちらから話を持ちかけた事がないわけではない。それでもことごとく断られて来た。相手にとって悪い条件ではない時でも、だ。だから、結婚する事はなかば諦めていた。
俺も貴族なのだから、恋愛結婚がしたいわけではない。政略結婚でも穏やかな愛を育めればそれでいいとも思っている。
でも結婚さえできないとなれば貴族としての役目が果たせないままに終わってしまう。太ってはいないし、顔も中の下くらいはあると思っていたのだが、自意識過剰だったのだろうか…。
侯爵家の次男だし、いつでも婿に入る準備はできているのに誰も相手にしてくれないのは、かけらほどある自尊心が削れてしまう。溜息を吐きたい気分だが、吐いたところでなにも変わらないので今日も兄上の手伝いをすることにした。
長い廊下を歩き、突き当たり少し前にある扉をノックする。
「兄上、ユニファートです。入ってもよろしいですか?」
「ああ、ユニか。早く入れ、山ほど仕事は溜まってるんだ。」
了承を得たので遠慮なく扉を開く。すると真正面にある大きな机一杯に白い山が見えた。兄上の顔が見えないほどに積み上がっているがいつものことだ。
侯爵家の後継である兄上は今仕事の引き継ぎの真っ最中で流石に可哀想なので仕事を手伝っている。当主のみが見れる機密情報でない限り、そこまで難しいものはない。
大体、俺まで仕事を手伝うはめになったのはこの忙しい時期にいきなり隠居するとか言い始めた父上のせいだ。
60になっても母上とラブラブな父上は「もう隠居して良いよな?ベルンもキリル嬢と結婚することじゃし」などと抜かしやがる。兄上は結婚式の招待状を書いたり、キリル嬢と衣装合わせをしたりと忙しいのに!
キリル嬢はヘンゼル伯爵家の長女で、我が家とも古くから親交のあるご令嬢だ。兄上と歳が近く、幼馴染だったのだが、そこから恋愛感情へと変わっていったらしい。
「どうしたユニ。早く手伝ってくれ、今日中に終わりそうにないんだ。」
「ああ、そうでしたね…。父上はもう少しゆとりを持って引き継ぎをしてくれてもよかったのに。」
「昔からだろう、いつもいきなりだからな。今更じゃ変わりようがない。」
「それはそうですが、兄上も死にそうじゃないですか。」
「いや、死にはしないさ。キリルと結婚するまでは絶対死ねない。」
「一番大事なのはそのあとでしょうに…。」
兄上の目が虚ろだ。疲れ切ってまともに頭が働いていないのだろう。全く、兄上はいつも自分を追い込む。
「俺が書類の整理と処理を進めておきますから、兄上は少しぐらい寝てきてください。」
「いやしかし…。」
「嫌じゃないですよ。キリル嬢と今日は打ち合わせなんでしょう。ブサイクな顔で行っていいんですか?」
「ブサイクは流石にひどくないか…?まあ、そうだな。お言葉に甘えて少し仮眠をとることにするよ。」
そういうと兄上は、ヨロヨロと自室へと向かっていった。兄上は人に言われるまで休んでくれないからな…。多分すぐに戻ってきてしまうから、今のうちに少しは進めておかないと。
各領地からの報告と、公共物建造の補助金の申請。まずは分類して、兄上に回す書類と自分でもできるものに分ける。報告書は、ファイルに挟んで棚に入れるだけでいいので楽だ。
そうこうしているうちに、山が1つなくなった。半分くらいは兄上が判断しなければいけないものがあったので、全部とはいかないが…。少しの達成感を噛み締めていると、兄上が戻ってきた。
時計を確認すると約一時間しか経っていない。どう考えても疲れは取れていないだろう。兄上は机の上を見るなり
「ユニがこんなにやってくれたのか!ありがとう、助かったよ」
なんて言いながら俺の頭をわしゃわしゃと撫でてきた。
「もういいの?まだ休んでていいのに。」
「二人でやった方が早いだろう?」
「それは…そうだけど」
もう19にもなるのに兄上に頭を撫でられると、昔のような口調に戻ってしまう。折角の言葉遣いを変える努力も無駄になってしまった。心配なのだと素直に口に出せたらもう少し違うのだろうが…それはそれでできそうにない。
それからは黙々と作業をしていたが、兄上はキリル嬢とお昼を食べながら打ち合わせをするため出かけていった。クマがひどかったからきっとキリル嬢も心配するだろう。それで少しでも休んでくれたらいいのだが…。
一人で作業を続けるうちに、ふとまたあの法律のことが頭に浮かんだ。俺は兄上みたいに結婚相手を見つけられるだろうか…。恋愛結婚がいいというわけではないけど、結婚できないのは流石に惨めだ。
学園時代は何回かに告白されて付き合ったこともあったし、どこか壊滅的に悪い点があるわけでもないとは思うが…そういえばみんな長続きせずすぐに別れてしまったような?
女性側からいつも振られてしまっていたな…。付き合ってみたら思ってたのと違ったと同じようなことばかり言われて。俺は神にでも呪われているのか⁈
今日発表された新しい法律にはそんな文が含まれていた。何故か、などわざわざ聞くまでもない。無駄な反乱を減らしたいからだ。
ただ、こんな法律が出来たところで俺にはあまり関係がない。そもそも縁談などきたことがないし、反乱を起こす気なんて毛頭ないのだから。
今まで、こちらから話を持ちかけた事がないわけではない。それでもことごとく断られて来た。相手にとって悪い条件ではない時でも、だ。だから、結婚する事はなかば諦めていた。
俺も貴族なのだから、恋愛結婚がしたいわけではない。政略結婚でも穏やかな愛を育めればそれでいいとも思っている。
でも結婚さえできないとなれば貴族としての役目が果たせないままに終わってしまう。太ってはいないし、顔も中の下くらいはあると思っていたのだが、自意識過剰だったのだろうか…。
侯爵家の次男だし、いつでも婿に入る準備はできているのに誰も相手にしてくれないのは、かけらほどある自尊心が削れてしまう。溜息を吐きたい気分だが、吐いたところでなにも変わらないので今日も兄上の手伝いをすることにした。
長い廊下を歩き、突き当たり少し前にある扉をノックする。
「兄上、ユニファートです。入ってもよろしいですか?」
「ああ、ユニか。早く入れ、山ほど仕事は溜まってるんだ。」
了承を得たので遠慮なく扉を開く。すると真正面にある大きな机一杯に白い山が見えた。兄上の顔が見えないほどに積み上がっているがいつものことだ。
侯爵家の後継である兄上は今仕事の引き継ぎの真っ最中で流石に可哀想なので仕事を手伝っている。当主のみが見れる機密情報でない限り、そこまで難しいものはない。
大体、俺まで仕事を手伝うはめになったのはこの忙しい時期にいきなり隠居するとか言い始めた父上のせいだ。
60になっても母上とラブラブな父上は「もう隠居して良いよな?ベルンもキリル嬢と結婚することじゃし」などと抜かしやがる。兄上は結婚式の招待状を書いたり、キリル嬢と衣装合わせをしたりと忙しいのに!
キリル嬢はヘンゼル伯爵家の長女で、我が家とも古くから親交のあるご令嬢だ。兄上と歳が近く、幼馴染だったのだが、そこから恋愛感情へと変わっていったらしい。
「どうしたユニ。早く手伝ってくれ、今日中に終わりそうにないんだ。」
「ああ、そうでしたね…。父上はもう少しゆとりを持って引き継ぎをしてくれてもよかったのに。」
「昔からだろう、いつもいきなりだからな。今更じゃ変わりようがない。」
「それはそうですが、兄上も死にそうじゃないですか。」
「いや、死にはしないさ。キリルと結婚するまでは絶対死ねない。」
「一番大事なのはそのあとでしょうに…。」
兄上の目が虚ろだ。疲れ切ってまともに頭が働いていないのだろう。全く、兄上はいつも自分を追い込む。
「俺が書類の整理と処理を進めておきますから、兄上は少しぐらい寝てきてください。」
「いやしかし…。」
「嫌じゃないですよ。キリル嬢と今日は打ち合わせなんでしょう。ブサイクな顔で行っていいんですか?」
「ブサイクは流石にひどくないか…?まあ、そうだな。お言葉に甘えて少し仮眠をとることにするよ。」
そういうと兄上は、ヨロヨロと自室へと向かっていった。兄上は人に言われるまで休んでくれないからな…。多分すぐに戻ってきてしまうから、今のうちに少しは進めておかないと。
各領地からの報告と、公共物建造の補助金の申請。まずは分類して、兄上に回す書類と自分でもできるものに分ける。報告書は、ファイルに挟んで棚に入れるだけでいいので楽だ。
そうこうしているうちに、山が1つなくなった。半分くらいは兄上が判断しなければいけないものがあったので、全部とはいかないが…。少しの達成感を噛み締めていると、兄上が戻ってきた。
時計を確認すると約一時間しか経っていない。どう考えても疲れは取れていないだろう。兄上は机の上を見るなり
「ユニがこんなにやってくれたのか!ありがとう、助かったよ」
なんて言いながら俺の頭をわしゃわしゃと撫でてきた。
「もういいの?まだ休んでていいのに。」
「二人でやった方が早いだろう?」
「それは…そうだけど」
もう19にもなるのに兄上に頭を撫でられると、昔のような口調に戻ってしまう。折角の言葉遣いを変える努力も無駄になってしまった。心配なのだと素直に口に出せたらもう少し違うのだろうが…それはそれでできそうにない。
それからは黙々と作業をしていたが、兄上はキリル嬢とお昼を食べながら打ち合わせをするため出かけていった。クマがひどかったからきっとキリル嬢も心配するだろう。それで少しでも休んでくれたらいいのだが…。
一人で作業を続けるうちに、ふとまたあの法律のことが頭に浮かんだ。俺は兄上みたいに結婚相手を見つけられるだろうか…。恋愛結婚がいいというわけではないけど、結婚できないのは流石に惨めだ。
学園時代は何回かに告白されて付き合ったこともあったし、どこか壊滅的に悪い点があるわけでもないとは思うが…そういえばみんな長続きせずすぐに別れてしまったような?
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