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二章 王弟殿下の襲来

初めての会話

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 仕事や出国の準備に追われていると、すぐに一週間が過ぎた。

「じゃあ、全部荷物も積んだしそろそろ出発するよ~」

 殿下の気の抜けた声が響く。みんな王城の前で朝早くから集まったのに、殿下がなかなか出てこなかったので出発が遅れてしまった。

 しおりに書いてあった集合時間と出発時間の間の空白の2時間はこの為か……。みんなを寝坊して待たせておきながら悪びれる様子もない殿下。

 殿下に荷物を運ぶのを手伝われても困るけど、こんなに沢山の荷物を俺たちに積ませるのはやめてほしいものだな。騎士とは違って、デスクワークばかりだから筋力はそこまでないんだよ。

 みんなで揃ってため息をつく。さっさと疲れを癒すために、すぐに馬車に乗り込んだ。殿下は違う馬車に乗るから、ちょっと気楽だけど。周りの人と談笑してなんとか同僚と仲良くなりたい。

 陛下や殿下のせいで、周りから孤立しがちだからな……。

「…あのっ」

 声を出した瞬間ガタンッと馬車が揺れて動き出した。俺が発した言葉もその音に飲み込まれてしまう。俺は少し口を開けた変な格好で固まってしまった。

 最初に話せなかったら、なかなか話すタイミングがないんだけどな……。

 出発してすぐ、俺たちはずっと会話のないまま重い空気が流れていた。

「あ、あの、自己紹介、しませんか?」

 こんな空気の中で口を開くのは苦行以外の何物でもないけれど、みんなが必ず話を聞いてくれるチャンスだ。ゆっくりとみんながこちらを見る。その表情が思った以上に冷たくて、喉が少し引き攣った。

「その方が仕事もスムーズに進むでしょうし……。」

ぐるりとみんなの顔を見ると、なんだかみんな固い表情をしている。機嫌が悪いというよりは、緊張している?国外に出るからだろうか。俺も国の外に出るのは初めてだし、ちょっと怖いけれど。

 馬車の中でまでこんなに固まるものなのか?

「お、俺の名前は、ユニファート・ハロイドです。先日入ったばかりの新人ですが、一生懸命頑張ります。よろしくお願いします。」

ペコリと一礼をして顔を上げる。

「皆さんの名前も聞かせてもらってもいいですか?」

 挨拶は自分から。その基本を思い出してつっかえながらも挨拶をした。夜会とかで挨拶回りをするときは、もう少し空気も軽いからな……。こんな挨拶をしていては兄上に怒られてしまいそうだ。

 そういえば、兄上に連絡していなかったな。殿下の外交に同行すると。

 なかなか他の人が口を開いてくれないので、現実逃避をしていると、俺の目の前に座っていた人が自己紹介をしてくれた。

「ぼ、僕の名前は、ベルティアです。今回、外交官として同行します。」

 紫の長い前髪と、黒い太縁の眼鏡が特徴的な人だ。その人に続いて、他の人も口々に自己紹介をし始めた。

「俺は、ボルデモート。ハロイド、お前の先輩だ。よーく覚えておけよ?」

「はい!」

 フレンドリーに人に接されるのが久しぶりな気がして、ちょっと嬉しい。殿下はなんて言うか……フレンドリーじゃなくてただの距離感が分からないだけの人だと思う。あの人にはきっとプライベートゾーンなんてないんだ。

 他にも外交官の人が一人、俺たちと同じ仕官が二人いた。

 馬車に乗り込んだ時とは一転、馬車内は既に和やかな空気になってた。

「さっきまでなんであんなに固い表情かおしてたんですか?」

 俺が問いかけるとみんなは目を見合わせて、そしてボルデモート先輩が口を開いた。

「なんでって……そりゃあ、ハロイドには過度に接触しないように。なんて命令出されたら、話しかけるとか無理だろ。」

 パチリ。瞬きを一つする。ん?聞き間違いか?命令を出されたとか聞こえたんだが。

「それ、誰からの命令ですか。」

「陛下だよ、国王陛下。朝着た瞬間そんなこと言われて、ああ噂はマジだったんだなって妙に納得しちまったよ。」

 ガハハと豪快に笑う先輩。噂って……どこまで広まってるんだこの陛下の恋愛話!殿下だけじゃないのか、もしかして全国民か?!

 それに、俺のことをちゃんと考えてから行動してくれ、って前言った気がするのだが。もしかして陛下、忘れたのか?

「噂ってどんなのなんですか?」

「なんだ、ハロイド知らないのか?陛下と殿下がお前を溺愛してるって話。城中の奴らが噂してるぜ?」

 城中の人……。最近妙に感じる視線はコレのせいか。陛下の話が広まってるのかと思っていたけれど、殿下まで俺を溺愛ってどういうことだよ。

 あの人に甘やかしてもらったこととかないけどな……。もしかして、食堂のやつか?まるで殿下の庇護下に俺が入ってるみたいな口ぶりだったし。

 だとしたら、俺陛下と殿下で二股かけてるみたいに見えるじゃないか!

 うーんと唸りながら考え込んでいると、先輩がさらに追い打ちをかけるような発言をした。

「あの男は王族に媚び売って試験に合格したとか言われてるけど、それってマジなのか?」

「へ?俺、そんなこと言われてるんですか⁈」

「なんだ、その反応じゃあの噂はデマか~つまんねえの。」

 そういうと、先輩は前のめりになっていた体を起こし背もたれにドカッと体重を預けた。そして、馬車の振動が心地よかったのか眠りに入ってしまった。

「ハ、ハロイドくん。気にしないで。優秀な人だって僕は聞いてるよ。きっとたくさん努力したんだよね?」

「ベルティアさん……ありがとうございます。」

 ベルティアさんがまるで天使のように輝いて見える。

 久しぶりにこんなに優しくされて、思わず涙が出そうになった。俺の周り、自分勝手な人ばかりだから……。
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