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オオカミの着ぐるみ
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この児童絵本館の倉庫の片隅に、古びたオオカミの着ぐるみが横たわっていました。
ずんぐりと太い体に、茶色い毛。本物と見間違えるくらいに輝く目。大きくとがった口はいつも、牙をむいて笑っていました。お腹にはチャックがあり、大人がすっぽり入ることができました。
児童絵本館が開いていた時には、児童絵本館の職員さんがオオカミの着ぐるみを着て、子供たちを楽しませていました。
子供たちは動くオオカミを見て、色とりどりの声をあげていました。怖がる子や笑う子、動きをまねる子……。オオカミは子供たちの人気者でした。
でも、児童絵本館が閉館になってからは、ずっと倉庫の隅で眠るようになってしまいました。今では全身の毛が抜け落ち、体じゅう穴だらけです。お腹のチャックはさびついて、動かすことすらできません。もうだれも、中に入ってくれる人はいません。
(私はじきに、捨てられるんだ)
オオカミの着ぐるみはいつも心の中でつぶやいていました。けれども、何日たっても捨てられず、倉庫の隅で眠ったままでした。倉庫に入ってくる者すらいませんでした。オオカミの着ぐるみはさびしく、つらい思いでいっぱいでした。
「ああ、あの頃はよかったな。いつも私を動かしてくれる人がいたのだから」
オオカミの着ぐるみは、自分のお腹を見つめました。チャックのついたお腹は冷たく、空っぽでした。そこにはもう、人のぬくもりはありませんでした。
人が入ってくれない着ぐるみは、動くことができません。
ボロボロの体はいつまでも、冷たい倉庫の床に横たわったままでした。
ずんぐりと太い体に、茶色い毛。本物と見間違えるくらいに輝く目。大きくとがった口はいつも、牙をむいて笑っていました。お腹にはチャックがあり、大人がすっぽり入ることができました。
児童絵本館が開いていた時には、児童絵本館の職員さんがオオカミの着ぐるみを着て、子供たちを楽しませていました。
子供たちは動くオオカミを見て、色とりどりの声をあげていました。怖がる子や笑う子、動きをまねる子……。オオカミは子供たちの人気者でした。
でも、児童絵本館が閉館になってからは、ずっと倉庫の隅で眠るようになってしまいました。今では全身の毛が抜け落ち、体じゅう穴だらけです。お腹のチャックはさびついて、動かすことすらできません。もうだれも、中に入ってくれる人はいません。
(私はじきに、捨てられるんだ)
オオカミの着ぐるみはいつも心の中でつぶやいていました。けれども、何日たっても捨てられず、倉庫の隅で眠ったままでした。倉庫に入ってくる者すらいませんでした。オオカミの着ぐるみはさびしく、つらい思いでいっぱいでした。
「ああ、あの頃はよかったな。いつも私を動かしてくれる人がいたのだから」
オオカミの着ぐるみは、自分のお腹を見つめました。チャックのついたお腹は冷たく、空っぽでした。そこにはもう、人のぬくもりはありませんでした。
人が入ってくれない着ぐるみは、動くことができません。
ボロボロの体はいつまでも、冷たい倉庫の床に横たわったままでした。
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