児童絵本館のオオカミ

火隆丸

文字の大きさ
2 / 14

オオカミの着ぐるみ

しおりを挟む
この児童絵本館の倉庫の片隅に、古びたオオカミの着ぐるみが横たわっていました。

ずんぐりと太い体に、茶色い毛。本物と見間違えるくらいに輝く目。大きくとがった口はいつも、牙をむいて笑っていました。お腹にはチャックがあり、大人がすっぽり入ることができました。

児童絵本館が開いていた時には、児童絵本館の職員さんがオオカミの着ぐるみを着て、子供たちを楽しませていました。

子供たちは動くオオカミを見て、色とりどりの声をあげていました。怖がる子や笑う子、動きをまねる子……。オオカミは子供たちの人気者でした。

でも、児童絵本館が閉館になってからは、ずっと倉庫の隅で眠るようになってしまいました。今では全身の毛が抜け落ち、体じゅう穴だらけです。お腹のチャックはさびついて、動かすことすらできません。もうだれも、中に入ってくれる人はいません。

(私はじきに、捨てられるんだ)

オオカミの着ぐるみはいつも心の中でつぶやいていました。けれども、何日たっても捨てられず、倉庫の隅で眠ったままでした。倉庫に入ってくる者すらいませんでした。オオカミの着ぐるみはさびしく、つらい思いでいっぱいでした。

「ああ、あの頃はよかったな。いつも私を動かしてくれる人がいたのだから」

オオカミの着ぐるみは、自分のお腹を見つめました。チャックのついたお腹は冷たく、空っぽでした。そこにはもう、人のぬくもりはありませんでした。

人が入ってくれない着ぐるみは、動くことができません。

ボロボロの体はいつまでも、冷たい倉庫の床に横たわったままでした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

童話短編集

木野もくば
児童書・童話
一話完結の物語をまとめています。

隣のじいさん

kudamonokozou
児童書・童話
小学生の頃僕は祐介と友達だった。空き家だった隣にいつの間にか変なじいさんが住みついた。 祐介はじいさんと仲良しになる。 ところが、そのじいさんが色々な騒動を起こす。 でも祐介はじいさんを信頼しており、ある日遠い所へ二人で飛んで行ってしまった。

青色のマグカップ

紅夢
児童書・童話
毎月の第一日曜日に開かれる蚤の市――“カーブーツセール”を練り歩くのが趣味の『私』は毎月必ずマグカップだけを見て歩く老人と知り合う。 彼はある思い出のマグカップを探していると話すが…… 薄れていく“思い出”という宝物のお話。

少年イシュタと夜空の少女 ~死なずの村 エリュシラーナ~

朔雲みう (さくもみう)
児童書・童話
イシュタは病の妹のため、誰も死なない村・エリュシラーナへと旅立つ。そして、夜空のような美しい少女・フェルルと出会い…… 「昔話をしてあげるわ――」 フェルルの口から語られる、村に隠された秘密とは……?  ☆…☆…☆  ※ 大人でも楽しめる児童文学として書きました。明確な記述は避けておりますので、大人になって読み返してみると、また違った風に感じられる……そんな物語かもしれません……♪  ※ イラストは、親友の朝美智晴さまに描いていただきました。

紅薔薇と森の待ち人

石河 翠
児童書・童話
くにざかいの深い森で、貧しい若者と美しい少女が出会いました。仲睦まじく暮らす二人でしたが、森の周辺にはいつしか不穏な気配がただよいはじめます。若者と彼が愛する森を守るために、少女が下した決断とは……。 こちらは小説家になろうにも投稿しております。 表紙は、夕立様に描いて頂きました。

夏空、到来

楠木夢路
児童書・童話
大人も読める童話です。 なっちゃんは公園からの帰り道で、小さなビンを拾います。白い液体の入った小ビン。落とし主は何と雷様だったのです。

にたものどうし

穴木 好生
児童書・童話
イモリとヤモリのものがたり

こわがり先生とまっくら森の大運動会

蓮澄
絵本
こわいは、おもしろい。 こわい噂のたくさんあるまっくら森には誰も近づきません。 入ったら大人も子供も、みんな出てこられないからです。 そんなまっくら森のある町に、一人の新しい先生がやってきました。 その先生は、とっても怖がりだったのです。 絵本で見たいお話を書いてみました。私には絵はかけないので文字だけで失礼いたします。 楽しんでいただければ嬉しいです。 まんじゅうは怖いかもしれない。

処理中です...