児童絵本館のオオカミ

火隆丸

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ある寒い冬の夜のことでした。
その日は夜空に大きな満月がのぼり、町を明るく照らしていました。児童絵本館の倉庫の小さな窓からも、月の光がほんのり差し込んでいました。

「ああ、今夜は満月みたいだな。私が本物のオオカミなら、外に出て吠えているのにな」
オオカミの着ぐるみは、じっと窓をながめました。

月の光は、冬の冷たい空気とともに、倉庫の中を照らしていました。

「今夜もまた、私だけか」
オオカミの着ぐるみは、さびしくつぶやきました。

その時でした。
「……あ、あの……、すみません」
突然、声がしました。声は小さく、かすかでした。でも、はっきりと聞こえました。

「だ、誰だ」
オオカミの着ぐるみは、あたりに目をくばりました。しかし、倉庫の中には誰もいません。

「……ここです、あなたのお腹の中です」
声は、お腹のチャックの下から聞こえてきました。

「だ、誰だい、お前は」
思わず、オオカミの着ぐるみはお腹の中にいる声の主に声をかけました。

「申し遅れて、すみません。私は、影です」
声の主はゆっくりと答えました。

「影?」
オオカミの着ぐるみは不思議そうにたずねました。

「はい。私たち影は、いつもみんなの足元にいます。
そして、あらゆるものに宿っています。人にも、木にも、物にも。あなたの知らないところで、私たちは見守っています。この世に光があれば、私たちもいる。それは当たり前と思うかもしれませんが、みんな気づかないものなのです」

影はしずかに続けます。

「私たち影は、あなたたちが思うよりもずっと途方もない時を過ごしています。今、少し退屈していたところです。少しの間、あなたのお腹の中にいてもいいですか。あなたのお腹の中にいると、楽しくなれそうですから」

「楽しくなれる? 私の体はもうボロボロだ。着ぐるみとして、使い物にはならないぞ。私のお腹の中がそんなにいいものなのか」
オオカミの着ぐるみは、影にたずねました。

「ええ、すごく幸せなにおいを感じます。あなたはとてもいい着ぐるみだったのですね」
答える影の声は楽しげでした。

それを聞くと、オオカミの着ぐるみは、胸があたたかくなりました。
こんなに楽しくなったのは、いつの時以来でしょうか。
「ああ、分かった。いいだろう。私のお腹の中でゆっくり過ごすといい」
オオカミの着ぐるみは、微笑みました。
「でも、そのかわり……私の話を聞いてくれないかな。ずっとずっとだれもいなくて、心細かったんだ」

「もちろんいいですよ。あなたのお話、ぜひ聞かせてください。あなたとお話しするのは初めてです。きっと楽しいひとときになるでしょう」
影は喜んで答えました。姿は見えないものの、やさしい心が伝わってきました。

「悪いね。こんな年寄りの話」
オオカミの着ぐるみは、ゆっくりと話しはじめました。
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