児童絵本館のオオカミ

火隆丸

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ツチヤさんとムライさん

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「子供たちを喜ばせるのって、難しいんですね……」
影がうなります。

「そうだね。
 児童絵本館の職員さんたちも、口々に言っていたよ。
『やっぱりオオカミじゃ無理ですよ』
『第一、見た目が怖すぎですよ』
 と。
 でも、クロダさんを励ましてくれた職員さんが二人いたんだ。
 一人はツチヤさん。
 ツチヤさんは若いきれいな女の人で、絵を描くのが好きだった。よく事務室で児童絵本館に飾る絵を描いていたな。春には桜の木、冬には雪景色……ツチヤさんの絵を見ると、季節はかわっていくんだなって思ったよ。
 そしてもう一人は、ムライさん。
 お話をつくるのが好きな男の人で、仕事の合間に、子供たちに聞かせる物語をノートに書いていたな。ムライさんがつくるお話はとても楽しかった。遠い南の島のお話から、寒い雪国のお話……いろいろなお話をつくっていたよ。私は自由に動きまわることができないけど、世界は広いんだなって感じることができたよ。
 二人は私を着て頑張っているクロダさんをいつも見ていた。
 それで、クロダさんに言ったんだ。
『私たちもなにかお手伝いしたい』
 ってね。
 私もクロダさんもうれしかったよ。
 私と子供たちが仲良くなれるために、力になってくれるんだから。
 それからクロダさんとツチヤさん、ムライさんの三人は、どうすれば子供たちが私を好きになってくれるか一生懸命考えたんだ。
 毎日、子供たちからは見えない事務室で、子供たちを喜ばせる方法を話し合っていた。
 みんな、すごく難しい顔をしてたな。でも、どこか楽しそうだった。まるで、面白い遊びを考える子供のようだったよ」

「クロダさんたち、子供の頃に戻ったようだったんですね」

「そうそう。それだよ。子供たちを喜ばせる方法を考えるんだからね。子供の心に戻らなきゃね」
 オオカミの着ぐるみは微笑みました。

「それでね、ある日クロダさんは思いついたんだよ。ここはそれぞれが好きなことをやればいいんだってね」

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