児童絵本館のオオカミ

火隆丸

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ツチヤさんとムライさんの挑戦

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オオカミの着ぐるみは楽しそうに話を続けます。
「まだまだ思い出はあるんだ。クロダさんだけじゃなくて、ツチヤさんとムライさんも私の中に入ってくれたことがあったからね」

「そういえば、クロダさん言ってましたね。どんな着ぐるみだって、中に入る人間の心次第で変わるものだって」

「そうそう、クリスマス会の後、ツチヤさんとムライさんは言ったんだ。
『私たちも、オオカミさんになりたい』
 ってね。
 クロダさんは喜んだ。
『もちろんいいとも。オオカミさんもきっとうれしいと思うよ』
 そう言って、私の中をきれいに掃除してくれた。ツチヤさんとムライさんが気持ちよく私を着ることができるようにね。
 だけど、私を着て動くのは簡単じゃない。
 さっきも言ったけど、着ぐるみを着るとまわりが見えなくなってしまう。それに、着ぐるみは重いから、動くのも難しい。
 だから、ツチヤさんとムライさんは毎晩子供たちが帰った後、児童絵本館のお遊戯室で私を着て動く練習をしていた。最初の日はツチヤさん、次の日はムライさん、そしてまた次の日はツチヤさんとかわりばんこに私を着ていたな。一人が私の中に入っている間、もう一人がうまく動くことができているかを見守っていた。
 練習をしているときの二人は、とても楽しそうだったな。いつもわくわくしながら私を着ていた。チャックを閉めて、頭をかぶった瞬間、ツチヤさんもムライさんも『オオカミさん』になるんだ。練習をしているときは、見守っている方が、
『オオカミさん、もう少し顔をあげたら、かわいいよ』
 なんて言ってたこともあったな」

「二人とも、オオカミさんになるために頑張っていたんですね」
影は楽しそうに笑います。

「そうだね。二人とも大変だったけど、とても愉快に練習していた。
 その様子をクロダさんは微笑ましそうにながめていたな。練習が終わった後は、私を丁寧に手入れしてくれた。
 私も、二人がうまくなれるように心の中で応援していたよ」
オオカミの着ぐるみはやさしく笑いました。

「そうして、練習を繰り返すうちに、ツチヤさんとムライさんは私の中に入って動くことに慣れていった。二人とも、私を着たとたん『オオカミさん』に早変わりだ。すぐに子供たちの人気者になったんだ」

「それはすごい」
影が声をあげます。

「子供たちと触れ合うようになってからは、二人とも思い思いの方法で子供たちを楽しませていた。
 ツチヤさんは絵を描くのが好きだったから、私を着て、子供たちの前で絵を描くことをよくやっていたな。
 児童絵本館の黒板にチョークを使って絵を描くんだ。花とか木とか鳥とかをね。
 子供たちは、
『オオカミさんって、絵を描くこともできるんだ!』
 と目を丸くしていたな。
 だけど、着ぐるみを着て絵を描くのは簡単じゃないから、いつもぐちゃぐちゃの絵になってしまった。それでもよかった。下手な絵でも、オオカミさんが描いた絵は子供たちの心をつかんでいたからね。ツチヤさんも私の中に入っている間、楽しそうに笑っていたよ。
 そして、ムライさんはお話をつくるのがうまかったから、子供たちに楽しいお笑い劇を見せることを頑張っていたな。児童絵本館の職員さんたちと、どんな劇をつくるかよく話し合っていた。いつも面白いお話を考えては、ノートに書きとめていた。
 そうしてお話ができあがったら、子供たちの前で考えたお笑いを見せるんだ。児童絵本館にある劇場に子供たちを集めては、面白い動きを見せていた。
 ある時はバナナの皮で転ぶオオカミさん、ある時はけん玉に挑戦するけれども何度も失敗してしまうオオカミさん、またある時は、全速力で走って壁にぶつかってしまうオオカミさん……
 セリフはなくても、身振り手振りや小道具を使って、子供たちを大笑いさせていた。とても愉快だったよ」

「ふふ。二人とも面白いですね!」
影は、はじけるような笑い声をあげました。

「そうだね。ツチヤさんもムライさんも、私に新しい力をくれた。色々なことができて、本当に楽しかったよ。今の私の中はカビだらけだ。でも、それだけたくさん着てくれたということさ」
オオカミの着ぐるみは、恥ずかしそうに笑いました。

「たくさんの思い出があるなんて、あなたはとても素敵な着ぐるみだったんですね」
影はオオカミの着ぐるみの中で、楽しそうに微笑みました。

「ありがとう。私の思い出を聞いてくれて、本当にうれしいよ」
オオカミの着ぐるみは静かに笑いました。
「……でもね、楽しい時間っていうのはいつまでも続くものではないんだ……」
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