児童絵本館のオオカミ

火隆丸

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はやり病

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「悲しいこと?」

「はやり病が出たんだよ。それもとてもたちの悪い病気だ。
 かかると、たくさんせきが出て、ものすごく苦しくなるんだって、児童絵本館の職員さんたちは口々に言っていたな。だからみんな口を紙や布で覆うようになって、お互いを避けるようになったんだ」

「分かります。そのはやり病の苦しみ。私もたくさん見てきました」

「そうだね。はやり病はたくさんの人たちを悲しませた。私も同じさ。
 児童絵本館に来る子供たちは、私と会うたびに握手をしたり一緒に踊ったりしていた。でも、そんなことをしたら、はやり病が子供たちにうつってしまうのではと、児童絵本館の職員さんは考えたんだ。それで、クロダさんたちに子供たちと触れ合うのをやめるように言ったんだ。
 これにはクロダさんたちもあきらめるしかなかった。子供たちの笑顔にはかえられない。泣く泣く、私を着るのをやめたんだ」

「そんな……」

「最後に私を着た日、クロダさんは言った。
『はやり病だって、いつかおさまる日がくる。はやり病がおさまったら、また一緒に子供たちと遊ぼう。それまでは、ここで待っているんだよ』
 と。
 ツチヤさんとムライさんも、寂しそうだった。
『私たち、オオカミさんになるのが好きだったのに』
『僕もオオカミさんになれないのは、悲しいよ。でも、いつかまたオオカミさんになって、子供たちをうんと楽しませてやるんだから』
 と。
 それから、私はこの倉庫で眠るようになったんだ。
 私はみんなと再び会えることを楽しみに待っていた。
 ……だけど、その願いがかなうことはなかった。
 はやり病のせいで、児童絵本館を支えるお金も人も、とうとうなくなってしまったらしい。
 児童絵本館が閉館になってしまったんだ。
 すごく、悲しかったよ。
 私は今まで、色々な人を楽しませてきた。だけど、こんなことで終わってしまうなんて、思ってもいなかった。
 それからというもの、ずっとずっと倉庫の中さ……」

オオカミの着ぐるみは、今にも泣きそうな声でした。
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