火轍、吼える  特別編 ~夢~

火隆丸

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「ん? 何だ」

 化け猫と目があってしまった。

「あああああああ」

 私は思わず、声にならない悲鳴をあげた。

 襲われるか、喰われるか……恐怖がわき上がる。

「お前は……レイマじゃねえな。なのにおれが見えるのか」

 化け猫は私をじっと見ながらたずねてきた。瞳は燃えるように赤く、闇の中で輝いている。

「は、はい……」
 私はこわごわと返事をする。

「生きている人間に見えるとは……こんなこと、初めてだ。そういえば、閻魔大王からきいたことがあったな。ごく稀に、レイマやカシャが見える人間がいるって」

 化け猫は小声でつぶやきながら近づいてくる。ものすごく驚いているみたいだった。

「あ、あの……私をどうするつもりですか」
 私は化け猫に向かってたずねた。

 だが、化け猫は
「生きている人間は襲わない」
 と首を振りながら言った。

 開いた口からは鋭い牙がのぞいていたが、その声は穏やかだった。

「じゃあ、あなたは一体……何?」

 私は思わず、首をひねった。

「ごめん。おれは、ヤマ……じゃなかった。火轍ひてつ。燃える火にわだちって書いて、火轍という」

 火轍という化け猫は、ゆっくりと答えた。

「ひてつ……?」
 私は聞き返した。

「そうだ。おれは火車だ」
「火車って?」
「そうだな……簡単に言うなら、生きている人間に害を与える幽霊を捕らえる役目を負う者だ。言ってみれば、幽霊を取り締まる警察官といったところかな」

 火轍はそう言うと、ふっと息をついた。

「……じゃあ、さっきの女みたいなのは……?」

「ああ、あいつは霊魔。人間は死んだら、魂は自分からあの世に行くようになっている。だけど強い恨みや欲望、悪意を残して死んだ者はこの世にとどまり続け、霊魔になる。そうなったら、もう悲惨だ。生きている人間を襲うようになる。下手すれば、生きている人間が殺されることだってある」
 火轍の顔が険しくなる。

「……ということは、私……」
私は火轍に顔を向ける。

「ああ、おそらく殺されていただろうな。奴は十分、人を殺せる力を持っている。もしおれがくるのが遅れていたら、お前は今頃、取り殺されていたかもしれない」
「じゃあ、あなたは私を助けたってこと?」
「そうだ。霊魔から生きている人間を守るのが、おれの役目だ」

 そう言うと、火轍は私に向き直った。
「奴はおれが捕まえる。だから安心して帰るんだ」

 ……“帰る”

 その言葉を聞いた瞬間、頭の中に現実が舞い戻ってきた。そうだ、私は死ぬためにここに来たんだ。もうあんな地獄に戻るなんてごめんだ。早く楽になりたい。そして奴らに復讐したい。

「……嫌」

 私は思いっきり吐き捨てた。

「私、ここで死にたいの」

「死にたい……だと?」
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