3 / 8
3. デートの約束
しおりを挟む
エイミーが倒れた二週間後、再びアーロンは理髪店を訪れた。
「髪、切ってもらえますか?」
「はい」
エイミーの目元のクマは完全に消えていたわけではなかったけど、ずいぶんと顔色は回復していた。アーロンをいつものように専用の椅子へと促し、エイミーは手入れしたハサミで軽快に切っていく。
散髪と整髪を終えるまで、エイミーは一心不乱に手を動かした。そして作業が終わり、アーロンに向き合う。
「この間はありがとうございました」
「いえ」
「あの! なんかいつもお釣りを多く貰ったり、倒れたときに運んでくれたり……。お世話になりっぱなしなので、なにかお礼をさせてくれませんか?」
エイミーはアーロンに気を遣ってもらい、お返しがしたくてたまらない様子。しかしアーロンは表情を変えることなく告げる。
「いえ、お構いなく」
「そ、そんなこと言わずに!」
「本当に結構ですよ」
「ダメです! 私の気が済みません」
頑固に断り続けるアーロンに対し、エイミーも食い下がらない。これ以上気を遣われるのは、エイミーにとっては心が晴れない。
「では……古書店へ行くのに付き合ってもらえますか?」
すると諦めないエイミーを目の前にして、ついにアーロンが提案した。
「いいですけど、そんなことでいいんですか?」
「新しい研究を始めるので、その資料集めがしたいんです」
「はい! じゃあいつにしましょうか?」
「では三日後でお願いします」
「三日後ですね! わかりました」
エイミーは喜んで承諾し、三日後のデートの約束を交わした後、アーロンは静かに店を後にする。
「じゃあその日は早く店を閉めて、城の外で待ってます!」
「はい、では三日後に会いましょう。エイミーさん」
アーロンのその言葉に、エイミーは戸惑いの色を滲ませた。
「え、な、なぜ私の名前を……」
「すみません、家まで見送ったときに中から声がして聞こえました」
「は、恥ずかしいです」
「では私はこれで」
「あ、あなたのお名前も教えてください!」
「アーロンです。呼び捨てで構いません」
「あ、アーロンさん……」
エイミーは照れくさそうにアーロンの名前を口にした。アーロンはそれ以上無駄口を交わさず、理髪店を後にする。
「デートの約束しちゃった……キャー!」
アーロンが店を出て姿が見えなくなった後、エイミーは心臓の高鳴りを確かに感じ、頬を赤らめた。
そして三日後、エイミーはいつもより華やかなベージュに花がらが描かれたワンピースに身を包み、店を早めに閉め、城門前へと足を運ぶ。城門前には門番がおり、中には入れない。
ところが、エイミーは城門前でアーロンを待っていると、雨が降り出してきた。城門周りに、雨宿りができるそうな建物や樹木が見当たらない。さらにはじめは小粒だった雨も、ものの数分で地面へ打ち付ける音がうるさいほどの雨へと変化。それでも待っている相手は二週間ごとに確実に髪を切りに来るアーロンだ。三日後としか約束していなかったが、来てくれるはず。
体を殴りつけるような雨が降ってきたが、エイミーはまだ城門前から去る気配がない。
髪も肌も服も、乾いたところがどこにもないほど濡れたとき、エイミーの前に上着を頭にかけてアーロンが慌てて駆けつけた。
「すみません」
「……やっと来てくれたんですね」
エイミーは必死で胸の中に溜まっていた感情を押し殺した。会えて嬉しい気持ちが半分、雨でずぶ濡れになるまで待たされて怒りたい気持ちが半分。いや、本当は怒りたかった。なぜ今回に限って時間を守ってくれなかったのか。せっかくおしゃれもしたのにすべて雨で台無し。全身濡れて、服が肌に張り付いて気持ち悪い。早く帰って着替えたい、この怒りを抱えたままアーロンの前にいたくない。
ふたりの間には手を伸ばせば届く距離がある。しかしふたりとも手を伸ばせなかった。
「髪、切ってもらえますか?」
「はい」
エイミーの目元のクマは完全に消えていたわけではなかったけど、ずいぶんと顔色は回復していた。アーロンをいつものように専用の椅子へと促し、エイミーは手入れしたハサミで軽快に切っていく。
散髪と整髪を終えるまで、エイミーは一心不乱に手を動かした。そして作業が終わり、アーロンに向き合う。
「この間はありがとうございました」
「いえ」
「あの! なんかいつもお釣りを多く貰ったり、倒れたときに運んでくれたり……。お世話になりっぱなしなので、なにかお礼をさせてくれませんか?」
エイミーはアーロンに気を遣ってもらい、お返しがしたくてたまらない様子。しかしアーロンは表情を変えることなく告げる。
「いえ、お構いなく」
「そ、そんなこと言わずに!」
「本当に結構ですよ」
「ダメです! 私の気が済みません」
頑固に断り続けるアーロンに対し、エイミーも食い下がらない。これ以上気を遣われるのは、エイミーにとっては心が晴れない。
「では……古書店へ行くのに付き合ってもらえますか?」
すると諦めないエイミーを目の前にして、ついにアーロンが提案した。
「いいですけど、そんなことでいいんですか?」
「新しい研究を始めるので、その資料集めがしたいんです」
「はい! じゃあいつにしましょうか?」
「では三日後でお願いします」
「三日後ですね! わかりました」
エイミーは喜んで承諾し、三日後のデートの約束を交わした後、アーロンは静かに店を後にする。
「じゃあその日は早く店を閉めて、城の外で待ってます!」
「はい、では三日後に会いましょう。エイミーさん」
アーロンのその言葉に、エイミーは戸惑いの色を滲ませた。
「え、な、なぜ私の名前を……」
「すみません、家まで見送ったときに中から声がして聞こえました」
「は、恥ずかしいです」
「では私はこれで」
「あ、あなたのお名前も教えてください!」
「アーロンです。呼び捨てで構いません」
「あ、アーロンさん……」
エイミーは照れくさそうにアーロンの名前を口にした。アーロンはそれ以上無駄口を交わさず、理髪店を後にする。
「デートの約束しちゃった……キャー!」
アーロンが店を出て姿が見えなくなった後、エイミーは心臓の高鳴りを確かに感じ、頬を赤らめた。
そして三日後、エイミーはいつもより華やかなベージュに花がらが描かれたワンピースに身を包み、店を早めに閉め、城門前へと足を運ぶ。城門前には門番がおり、中には入れない。
ところが、エイミーは城門前でアーロンを待っていると、雨が降り出してきた。城門周りに、雨宿りができるそうな建物や樹木が見当たらない。さらにはじめは小粒だった雨も、ものの数分で地面へ打ち付ける音がうるさいほどの雨へと変化。それでも待っている相手は二週間ごとに確実に髪を切りに来るアーロンだ。三日後としか約束していなかったが、来てくれるはず。
体を殴りつけるような雨が降ってきたが、エイミーはまだ城門前から去る気配がない。
髪も肌も服も、乾いたところがどこにもないほど濡れたとき、エイミーの前に上着を頭にかけてアーロンが慌てて駆けつけた。
「すみません」
「……やっと来てくれたんですね」
エイミーは必死で胸の中に溜まっていた感情を押し殺した。会えて嬉しい気持ちが半分、雨でずぶ濡れになるまで待たされて怒りたい気持ちが半分。いや、本当は怒りたかった。なぜ今回に限って時間を守ってくれなかったのか。せっかくおしゃれもしたのにすべて雨で台無し。全身濡れて、服が肌に張り付いて気持ち悪い。早く帰って着替えたい、この怒りを抱えたままアーロンの前にいたくない。
ふたりの間には手を伸ばせば届く距離がある。しかしふたりとも手を伸ばせなかった。
11
あなたにおすすめの小説
遺産は一円も渡さない 〜強欲な夫と義実家に捨てられた私、真の相続人と手を組み全てを奪い返す~ (全10話)
スカッと文庫
恋愛
「お前の価値なんて、その遺産くらいしかないんだよ」
唯一の肉親だった祖父を亡くした夜、夫の健一と義母から放たれたのは、あまりにも無慈悲な言葉だった。
四十九日も待たず、祖父が遺した1億2000万円の遺産をアテに贅沢三昧を目論む夫。だが、彼には隠し通している「裏切り」があった――。
絶望の淵に立たされた由美の前に現れたのは、亡き祖父が差し向けた若き凄腕弁護士・蓮。
「おじい様は、すべてお見通しでしたよ」
明かされる衝撃の遺言内容。そして、強欲な夫たちを地獄へ叩き落とすための「相続条件」とは?
虐げられてきた妻による、一発逆転の遺産争奪&復讐劇がいま幕を開ける!
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。
だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。
しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。
王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。
そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。
地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。
⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。
冷酷騎士様の「愛さない」は一分も持たなかった件
水月
恋愛
「君を愛するつもりはない」
結婚初夜、帝国最強の冷酷騎士ヴォルフラム・ツヴァルト公爵はそう言い放った。
出来損ないと蔑まれ、姉の代わりの生贄として政略結婚に差し出されたリーリア・ミラベルにとって、それはむしろ救いだった。
愛を期待されないのなら、失望させることもない。
契約妻として静かに役目を果たそうとしたリーリアは、緩んだ軍服のボタンを自らの銀髪と微弱な強化魔法で直す。
ただ「役に立ちたい」という一心だった。
――その瞬間。
冷酷騎士の情緒が崩壊した。
「君は、自分の価値を分かっていない」
開始一分で愛さない宣言は撤回。
無自覚に自己評価が低い妻に、激重独占欲を発症した最強騎士が爆誕する。
以後、
寝室は強制統合
常時抱っこ移動
一秒ごとに更新される溺愛
妻を傷つける者には容赦なし宣言
甘さ過多、独占欲過剰、愛情暴走中。
さらにはリーリアを取り戻そうとする実家の横槍まで入り――?
自己評価ゼロの健気令嬢と愛が一分も我慢できなかった最強騎士。
溺愛が止まらない、契約結婚から始まる甘すぎる逆転ラブコメ
身を引いたのに、皇帝からの溺愛が止まりません ~秘された珠の還る場所~
ささゆき細雪
恋愛
五年前、内乱の混乱のなかで姿を消した最愛の妃・白瑤華(はくようか)。
彼女を失った皇帝・景玄耀(けいげんよう)は、その後ただ一人を想い続けながら執務に追われていた。そんなある日、書類に彼女の名前を発見し、居ても立っても居られなくなる。
――死んだはずの彼女が、生きている?
同姓同名かもしれないが確かめずにいられなくなった彼は地方巡察を決行。そこで、彼によく似た幼子とともに彼女と再会、地方官吏として働く瑤華と、珠児(しゅじ)を見て、皇帝は決意する――もう二度と、逃がさないと。
「今さら、逃げ道があると思うなよ」
瑤華を玄耀は責めずに、待ちの姿勢で包み込み、囲い込んでいく。
秘された皇子と、選び直した愛。
三人で食卓を囲む幸福が、国をも動かすことになるなんて――?
* * *
後宮から逃げ出して身を引いたのに、皇帝の溺愛は止まらない――これはそんな、中華風異世界ロマンス。
夫が運命の番と出会いました
重田いの
恋愛
幼馴染のいいなづけとして育ってきた銀狼族の族長エーリヒと、妻ローゼマリー。
だがエーリヒに運命の番が現れたことにより、二人は離別する。
しかし二年後、修道院に暮らすローゼマリーの元へエーリヒが現れ――!?
バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました
美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる