4 / 8
4. 涙を洗い流す雨
しおりを挟む
睡眠魔法という自分の研究テーマを持てたアーロンは、今まで以上に熱中していた。文献の調査、情報収集、自らの魔法を使った動物実験、そのデータ整理、そして結果の考察。やることは山程ある。
しかし研究に熱中しすぎてしまい、持ち前の集中力のせいでエイミーとの約束が頭の中になくなっていた。すっぽかしてしまったのだ。気づけば外は土砂降りの雨、アーロンが気づいた頃には既に日が傾き始めていた。
「めちゃくちゃ雨降ってるじゃねーかよ、しょうがない今日は飲みに行くか」
外を見たランツが、アーロンに声をかけて提案する。しかしアーロンは反応しない。
「無視かよ! 先輩の俺が飲みに行こうってコミュニケーション取ろうとしてんのによ!」
「わっ!」
ランツはアーロンの肩を持って前後に思いっきり動かし、怒鳴り散らす。
「ったく、雨の日は飲み屋の客が少なくて伸び伸び飲めるってのに……。お前ほんとただの研究バカじゃん」
「雨……?」
とっさにラボの窓から外を見たアーロンは、上着を持って城門前へと走った。すると門の外で、雨に打たれながらもアーロンを待つエイミーの姿があった。
「すみません」
「……やっと来てくれたんですね」
雨に濡れながらも強がるエイミーに、アーロンは何も言い返せなかった。研究に没頭して、デートを忘れていた自分に責任があるのは理解している。謝りたいのに、どう言っても言い訳になってしまう。するとその場に、城門から出てきたランツの姿が現れた。
「お前女を泣かせたのか!?」
「あ、いや違うんです……」
地面に打ち付ける雨音に負けないくらいの大声で、アーロンを非難するランツ。それを見たエイミーは申し訳無さそうに否定するも、ランツは調子良くエイミーに助言を続けた。
「お嬢さんこんな奴やめといた方がいいよ。コイツ筋金入りの魔法研究バカだぜ! じゃあな~」
そう言うと、ランツは下衆な笑顔を見せ、手を振りながら雨の中を一人で走り去っていった。そしてアーロンはエイミーと向き合う。
「ずっと待ってたんですか?」
それが今のアーロンにとって、精一杯のねぎらいの言葉だった。
「あの! 私が勝手に待っただけですから……では」
しかしエイミーはそう告げて頭を下げた後、走り去ってしまった。その姿を見て、追いかけたいのに頭がいっぱいでただただ立ち尽くしてしまうアーロン。悔やむことならいくらでもできる。今は追いかけた方が良いのに、雨のせいか、自分の行動が許せないのか、頭が真っ白で立つ以外のことができなかった。
「アーロンくん! 昨日の彼女とはデートできた?」
「いえ」
「じゃあ、ちゃんと謝ったのか?」
「いえ」
「そりゃあイケないぜ! 先輩の俺が思うに、お前は振られたな」
翌朝、いつも通りアーロンがラボに出勤すると、すがすがしいほどの笑顔を見せるランツが寄ってきた。明らかにこの事態を面白がっている。
「かわいそうにかわいそうに。早く謝らないともう関係修復は不可能だぜ」
「少し外出してきます」
「うんうん、俺の研究手伝ってくれたから、キッチリ謝ってきな? お土産つきで帰ってこいよ」
「はい」
ランツの言葉を胸に、アーロンはエイミーの理髪店へと向かった。しかしそこは看板を下ろし、閉まっていた。近くの修道士に声をかけると、
「あの、ここで働いていた方はどうなりました?」
「エイミーさんかい? なんか今日急に遠くの街に出稼ぎに行くって言い出してねぇ。しばらく戻ってこないって」
修道士の言葉に、アーロンは唖然とした。
「そうですか」
「困るわぁ、ウチの子も髪切ってもらってたのに」
「いつ戻ってくるかはわかりますか?」
「さぁ、しばらくとしか聞いてないわねぇ」
「わかりました、ありがとうございます」
アーロンはひとり修道院を後にした。城のラボへ帰る途中、思わず額に手を当てる。エイミーのことを頭の外に投げ出してしまうほど熱中していた自分、大した言葉もなく謝れなかったこと、謝罪がもう手遅れでエイミーに対して今なにもする術がないこと。
誰かのためにと思って研究を始めたのに、その誰かを傷つけた。それがアーロンにとって心残りだった。
しかし研究に熱中しすぎてしまい、持ち前の集中力のせいでエイミーとの約束が頭の中になくなっていた。すっぽかしてしまったのだ。気づけば外は土砂降りの雨、アーロンが気づいた頃には既に日が傾き始めていた。
「めちゃくちゃ雨降ってるじゃねーかよ、しょうがない今日は飲みに行くか」
外を見たランツが、アーロンに声をかけて提案する。しかしアーロンは反応しない。
「無視かよ! 先輩の俺が飲みに行こうってコミュニケーション取ろうとしてんのによ!」
「わっ!」
ランツはアーロンの肩を持って前後に思いっきり動かし、怒鳴り散らす。
「ったく、雨の日は飲み屋の客が少なくて伸び伸び飲めるってのに……。お前ほんとただの研究バカじゃん」
「雨……?」
とっさにラボの窓から外を見たアーロンは、上着を持って城門前へと走った。すると門の外で、雨に打たれながらもアーロンを待つエイミーの姿があった。
「すみません」
「……やっと来てくれたんですね」
雨に濡れながらも強がるエイミーに、アーロンは何も言い返せなかった。研究に没頭して、デートを忘れていた自分に責任があるのは理解している。謝りたいのに、どう言っても言い訳になってしまう。するとその場に、城門から出てきたランツの姿が現れた。
「お前女を泣かせたのか!?」
「あ、いや違うんです……」
地面に打ち付ける雨音に負けないくらいの大声で、アーロンを非難するランツ。それを見たエイミーは申し訳無さそうに否定するも、ランツは調子良くエイミーに助言を続けた。
「お嬢さんこんな奴やめといた方がいいよ。コイツ筋金入りの魔法研究バカだぜ! じゃあな~」
そう言うと、ランツは下衆な笑顔を見せ、手を振りながら雨の中を一人で走り去っていった。そしてアーロンはエイミーと向き合う。
「ずっと待ってたんですか?」
それが今のアーロンにとって、精一杯のねぎらいの言葉だった。
「あの! 私が勝手に待っただけですから……では」
しかしエイミーはそう告げて頭を下げた後、走り去ってしまった。その姿を見て、追いかけたいのに頭がいっぱいでただただ立ち尽くしてしまうアーロン。悔やむことならいくらでもできる。今は追いかけた方が良いのに、雨のせいか、自分の行動が許せないのか、頭が真っ白で立つ以外のことができなかった。
「アーロンくん! 昨日の彼女とはデートできた?」
「いえ」
「じゃあ、ちゃんと謝ったのか?」
「いえ」
「そりゃあイケないぜ! 先輩の俺が思うに、お前は振られたな」
翌朝、いつも通りアーロンがラボに出勤すると、すがすがしいほどの笑顔を見せるランツが寄ってきた。明らかにこの事態を面白がっている。
「かわいそうにかわいそうに。早く謝らないともう関係修復は不可能だぜ」
「少し外出してきます」
「うんうん、俺の研究手伝ってくれたから、キッチリ謝ってきな? お土産つきで帰ってこいよ」
「はい」
ランツの言葉を胸に、アーロンはエイミーの理髪店へと向かった。しかしそこは看板を下ろし、閉まっていた。近くの修道士に声をかけると、
「あの、ここで働いていた方はどうなりました?」
「エイミーさんかい? なんか今日急に遠くの街に出稼ぎに行くって言い出してねぇ。しばらく戻ってこないって」
修道士の言葉に、アーロンは唖然とした。
「そうですか」
「困るわぁ、ウチの子も髪切ってもらってたのに」
「いつ戻ってくるかはわかりますか?」
「さぁ、しばらくとしか聞いてないわねぇ」
「わかりました、ありがとうございます」
アーロンはひとり修道院を後にした。城のラボへ帰る途中、思わず額に手を当てる。エイミーのことを頭の外に投げ出してしまうほど熱中していた自分、大した言葉もなく謝れなかったこと、謝罪がもう手遅れでエイミーに対して今なにもする術がないこと。
誰かのためにと思って研究を始めたのに、その誰かを傷つけた。それがアーロンにとって心残りだった。
10
あなたにおすすめの小説
遺産は一円も渡さない 〜強欲な夫と義実家に捨てられた私、真の相続人と手を組み全てを奪い返す~ (全10話)
スカッと文庫
恋愛
「お前の価値なんて、その遺産くらいしかないんだよ」
唯一の肉親だった祖父を亡くした夜、夫の健一と義母から放たれたのは、あまりにも無慈悲な言葉だった。
四十九日も待たず、祖父が遺した1億2000万円の遺産をアテに贅沢三昧を目論む夫。だが、彼には隠し通している「裏切り」があった――。
絶望の淵に立たされた由美の前に現れたのは、亡き祖父が差し向けた若き凄腕弁護士・蓮。
「おじい様は、すべてお見通しでしたよ」
明かされる衝撃の遺言内容。そして、強欲な夫たちを地獄へ叩き落とすための「相続条件」とは?
虐げられてきた妻による、一発逆転の遺産争奪&復讐劇がいま幕を開ける!
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。
だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。
しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。
王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。
そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。
地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。
⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。
冷酷騎士様の「愛さない」は一分も持たなかった件
水月
恋愛
「君を愛するつもりはない」
結婚初夜、帝国最強の冷酷騎士ヴォルフラム・ツヴァルト公爵はそう言い放った。
出来損ないと蔑まれ、姉の代わりの生贄として政略結婚に差し出されたリーリア・ミラベルにとって、それはむしろ救いだった。
愛を期待されないのなら、失望させることもない。
契約妻として静かに役目を果たそうとしたリーリアは、緩んだ軍服のボタンを自らの銀髪と微弱な強化魔法で直す。
ただ「役に立ちたい」という一心だった。
――その瞬間。
冷酷騎士の情緒が崩壊した。
「君は、自分の価値を分かっていない」
開始一分で愛さない宣言は撤回。
無自覚に自己評価が低い妻に、激重独占欲を発症した最強騎士が爆誕する。
以後、
寝室は強制統合
常時抱っこ移動
一秒ごとに更新される溺愛
妻を傷つける者には容赦なし宣言
甘さ過多、独占欲過剰、愛情暴走中。
さらにはリーリアを取り戻そうとする実家の横槍まで入り――?
自己評価ゼロの健気令嬢と愛が一分も我慢できなかった最強騎士。
溺愛が止まらない、契約結婚から始まる甘すぎる逆転ラブコメ
身を引いたのに、皇帝からの溺愛が止まりません ~秘された珠の還る場所~
ささゆき細雪
恋愛
五年前、内乱の混乱のなかで姿を消した最愛の妃・白瑤華(はくようか)。
彼女を失った皇帝・景玄耀(けいげんよう)は、その後ただ一人を想い続けながら執務に追われていた。そんなある日、書類に彼女の名前を発見し、居ても立っても居られなくなる。
――死んだはずの彼女が、生きている?
同姓同名かもしれないが確かめずにいられなくなった彼は地方巡察を決行。そこで、彼によく似た幼子とともに彼女と再会、地方官吏として働く瑤華と、珠児(しゅじ)を見て、皇帝は決意する――もう二度と、逃がさないと。
「今さら、逃げ道があると思うなよ」
瑤華を玄耀は責めずに、待ちの姿勢で包み込み、囲い込んでいく。
秘された皇子と、選び直した愛。
三人で食卓を囲む幸福が、国をも動かすことになるなんて――?
* * *
後宮から逃げ出して身を引いたのに、皇帝の溺愛は止まらない――これはそんな、中華風異世界ロマンス。
夫が運命の番と出会いました
重田いの
恋愛
幼馴染のいいなづけとして育ってきた銀狼族の族長エーリヒと、妻ローゼマリー。
だがエーリヒに運命の番が現れたことにより、二人は離別する。
しかし二年後、修道院に暮らすローゼマリーの元へエーリヒが現れ――!?
バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました
美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる