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こんなはずじゃなかった
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そしてその次の日、土曜日になると、朝から更紗が張り切っていた。
「よ~し、パン屋視察だぁ!」
「なんでそんなに張り切ってんの」
「だってさぁ、すぅ姉の恋物語がこの目の前で見られるわけじゃん?」
「大げさなんだってば」
1週間しか小春ベーカリーに通っていないのに、もう更紗の頭の中では恋物語が始まっているらしい。鈴夏はそんなつもりじゃないから、冷静にスルーしつつ準備をする。この日は昼前に小春ベーカリーへ行き、その後買い物へと行く予定だ。仕事用の服と靴を買い足し、まったりとカフェでお茶を飲んでふたりでゆっくり過ごす。月に1回はそんな休みを過ごすのが、鈴夏と更紗の定番だ。
「そのお兄さんたちってさ、彼女いるのかな~」
「さぁ、どうだろうね」
「えっ! それ聞いてないの~?」
「当たり前じゃない。私ただの客なんだから」
――ただの客と店員との会話で、彼女の話が出てくるわけないでしょ……
そう鈴夏の心の中でツッコミつつも、その話題は気になるところだ。でも、いつその話題を出せばいいかわからないし、そもそもどう聞けば良いかがわからない。すると、更紗がしたり顔でこう言った。
「そういうのはさ~、『決めつけて聞いてみたらいい』ってナンパ界隈系のYoutuberが言ってたよ」
「なにそれ。てかなんでそんなYoutuber知ってんの?」
「だってあたしのクライアントだから~」
「決めつけて聞くってどうやるかわかんないし……」
「だからあたしが助け舟を出すんだよ~、すぅ姉」
助け舟と言いつつ、余計なことをされたらどうしようと鈴夏が心配している中、ふたりは家を出て小春ベーカリーへと向かった。
小春ベーカリーに着いて扉を開けると、ちょうどお盆とトングをセットしているチャラいお兄さんに遭遇した。昼前の時間帯だが、ちょうどお客さんはいなかった。
「いらっしゃい。今日は友達連れ?」
「そうで~す!」
鈴夏より先に更紗が元気に挨拶した。
「今日会社休みなんで、連れてきました」
「お、ありがと。ゆっくり選んでって」
そう言うと、チャラいお兄さんはレジへと戻っていく。その間に鈴夏はいつもどおりサンドイッチを、更紗はASMRの動画に使えそうなクロワッサンを中心に選んだ。大食いだけあって、更紗のお盆はすぐにいっぱいになる。
レジに並ぶと、早速更紗がチャラいお兄さんに話題を振った。
「お兄さんイケメンですね~。土曜日なのに、彼女とデートの予定とかないんですか~?」
「あ~、ないっすね。ボクの彼氏美容師なんで」
――ん? 今『彼氏』って言った?
「「あーなるほど……」」
声量を抑えながら、鈴夏と更紗が同時に頷く。チャラいお兄さんは、パンの値段の計算をしながら手早くビニールに詰めてくれる。いつもの光景なのに、いつもより胸を締め付ける感覚があった。
やっぱりチャラいお兄さんには、お相手がいたのだ。その前に、お兄さんにお相手がいてもいなくても、もし鈴夏が恋心を抱いたところで届く相手ではなかった。それがわかると、鈴夏の頭の中でパリンとガラスの割れる音がした。
「よ~し、パン屋視察だぁ!」
「なんでそんなに張り切ってんの」
「だってさぁ、すぅ姉の恋物語がこの目の前で見られるわけじゃん?」
「大げさなんだってば」
1週間しか小春ベーカリーに通っていないのに、もう更紗の頭の中では恋物語が始まっているらしい。鈴夏はそんなつもりじゃないから、冷静にスルーしつつ準備をする。この日は昼前に小春ベーカリーへ行き、その後買い物へと行く予定だ。仕事用の服と靴を買い足し、まったりとカフェでお茶を飲んでふたりでゆっくり過ごす。月に1回はそんな休みを過ごすのが、鈴夏と更紗の定番だ。
「そのお兄さんたちってさ、彼女いるのかな~」
「さぁ、どうだろうね」
「えっ! それ聞いてないの~?」
「当たり前じゃない。私ただの客なんだから」
――ただの客と店員との会話で、彼女の話が出てくるわけないでしょ……
そう鈴夏の心の中でツッコミつつも、その話題は気になるところだ。でも、いつその話題を出せばいいかわからないし、そもそもどう聞けば良いかがわからない。すると、更紗がしたり顔でこう言った。
「そういうのはさ~、『決めつけて聞いてみたらいい』ってナンパ界隈系のYoutuberが言ってたよ」
「なにそれ。てかなんでそんなYoutuber知ってんの?」
「だってあたしのクライアントだから~」
「決めつけて聞くってどうやるかわかんないし……」
「だからあたしが助け舟を出すんだよ~、すぅ姉」
助け舟と言いつつ、余計なことをされたらどうしようと鈴夏が心配している中、ふたりは家を出て小春ベーカリーへと向かった。
小春ベーカリーに着いて扉を開けると、ちょうどお盆とトングをセットしているチャラいお兄さんに遭遇した。昼前の時間帯だが、ちょうどお客さんはいなかった。
「いらっしゃい。今日は友達連れ?」
「そうで~す!」
鈴夏より先に更紗が元気に挨拶した。
「今日会社休みなんで、連れてきました」
「お、ありがと。ゆっくり選んでって」
そう言うと、チャラいお兄さんはレジへと戻っていく。その間に鈴夏はいつもどおりサンドイッチを、更紗はASMRの動画に使えそうなクロワッサンを中心に選んだ。大食いだけあって、更紗のお盆はすぐにいっぱいになる。
レジに並ぶと、早速更紗がチャラいお兄さんに話題を振った。
「お兄さんイケメンですね~。土曜日なのに、彼女とデートの予定とかないんですか~?」
「あ~、ないっすね。ボクの彼氏美容師なんで」
――ん? 今『彼氏』って言った?
「「あーなるほど……」」
声量を抑えながら、鈴夏と更紗が同時に頷く。チャラいお兄さんは、パンの値段の計算をしながら手早くビニールに詰めてくれる。いつもの光景なのに、いつもより胸を締め付ける感覚があった。
やっぱりチャラいお兄さんには、お相手がいたのだ。その前に、お兄さんにお相手がいてもいなくても、もし鈴夏が恋心を抱いたところで届く相手ではなかった。それがわかると、鈴夏の頭の中でパリンとガラスの割れる音がした。
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