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失せ物 諦めずに探し続けよ
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「無事で良かった」
龍大に抱きしめられていると、心臓が早く脈を打っているのが鈴夏にも伝わってくる。おそらく階段を使って走ってきたのだろう、そこまでしてくれて余計に申し訳ない気持ちが湧いてくる。
「ごめんなさい、龍大くん」
「いいから」
まだ事情を話してないのに、思わず謝ってしまう。すると、後ろから歓声のような声が聞こえてくる。
「ひゅうー! アッツアツー」
「こら! 煽らないのジュイチ!」
――たぶん、全部見られてたな……。
さすがに抱きしめられているところを見られるのは、鈴夏にとって恥ずかしかった。そんな状況なのに、龍大の方は平気そうだ。ゆっくり腕をほどいて立ち上がる。
「タッツー、なんでそんな息切らしてんの?」
「いや、匿ってるって聞いたから」
「それで階段で来たんだ、やっぱアッツ!」
寿一郎の楽しそうな声が、玄関中に響き渡る。
「タツ、一旦上がって」
唯翔がそう言うと、龍大が履いていたスニーカーを脱いで部屋の中に入る。さすがに龍大は体が大きいからか、一緒に部屋に入ると少し狭く感じる。
鈴夏が先に座ると、そのすぐ隣に龍大も胡座をかく。でも、なんだか距離が近い。正座している鈴夏の膝には、龍大の太ももが当たっている。
龍大の距離感に少しの戸惑いを感じつつも、鈴夏は自分から寿一郎の家に来た理由を切り出した。
「龍大くんあのね、昨日預かった鍵、失くしちゃって……探したんだけど、見つからなくって……ごめんなさい」
「……それだけ?」
鈴夏は頭を下げるが、龍大のよくわかっていないような声が降ってくる。鈴夏にとっては、鍵を失くしたなんて大惨事だと思っていた。なのに、龍大は目を大きく開き、明らかにキョトンとしている。
「え、それだけだけど……」
「……事件とか事故に巻き込まれたかと思って。鍵だったらまた作ればいいし」
「だってさ、良かったじゃん」
怒られる覚悟で話したのに、龍大は許すどころか全くのノーダメージだった。それを聞いた唯翔も「ほらね」と言わんばかりに微笑んでくれる。
「なんか、かわいいキャラクターのキーホルダーついてたから、思い入れあるものだったらと思って……。あと鍵を悪用されることもあるから。もし鍵付け替えるなら全額費用出すからね! 良い業者は私が会社の人に言えば紹介してもらえるし――」
「まぁまぁ鈴夏さん落ち着いて。鍵はさ、明日また駅員さんに聞いてみたらいいんじゃない?」
唯翔にそう言われ、鈴夏は落ち着きを取り戻す。確かに鍵は落としてすぐ悪用されるものじゃない。まだ見つかっていない場所にあるかもしれない。ただ焦るばかりで、周りに迷惑をかけていることに、ようやく鈴夏自身気がついた。
今まで熱かった頭が急激に冷めてくる。
「……うん、そうする」
本当は龍大にも唯翔にも、ごめんなさいとありがとうを言うべきなのは、鈴夏にもわかっていた。でも、疲労困憊で急に気が緩んだ鈴夏には、その一言が精一杯だった。
「で、ふたりって付き合ってんの?」
すると、急に寿一郎が口を挟む。
「いや、そういうのはまだ――」
正直付き合っている以上のことは、もうしている。だけど、鈴夏にはその寿一郎からの問いに、頷けるだけの理由がない。そう思っていたのに、鈴夏が口を開いてから間髪入れずに龍大も口を開く。
「俺は……まだデート1回しかしてないけど……今日仕事しながらずっと鈴夏のこと考えてた」
鈴夏は龍大の方を向いて、目を見開いた。龍大のまっすぐで、射抜くような視線が突き刺さる。しかも、鈴夏のことを呼び捨てで呼んでいる。
「ふぉ~ほほほほほ! いいねぇタッツー」
「はいはい、ジュイチ大人しくして」
寿一郎は楽しそうに膝を叩いている。一方で唯翔は冷静だ。
からかっているわけではなく、なんとなく祝っているように見えて鈴夏は急に照れくさくなる。
「そっか。じゃあそれ以上はボクらから聞かないでおくよ」
その心遣いは、鈴夏にとっては痛いほどありがたい。おそらく家に帰ったら、更紗には「何があったの?」と詰められるだろう。デートに行き、晩は帰らず、更紗が寝ている時間に帰宅。そのまま会社に行き、帰ってきたと思ったら「鍵がない」と行ってまた出ていって今に至るのだ。そんな状況で、更紗が今すごくニヤついているだろう。
とりあえずお茶だけゆっくり飲んでいいと唯翔が言っていたので、キリが良い時間までいさせてもらうことになった。
龍大に抱きしめられていると、心臓が早く脈を打っているのが鈴夏にも伝わってくる。おそらく階段を使って走ってきたのだろう、そこまでしてくれて余計に申し訳ない気持ちが湧いてくる。
「ごめんなさい、龍大くん」
「いいから」
まだ事情を話してないのに、思わず謝ってしまう。すると、後ろから歓声のような声が聞こえてくる。
「ひゅうー! アッツアツー」
「こら! 煽らないのジュイチ!」
――たぶん、全部見られてたな……。
さすがに抱きしめられているところを見られるのは、鈴夏にとって恥ずかしかった。そんな状況なのに、龍大の方は平気そうだ。ゆっくり腕をほどいて立ち上がる。
「タッツー、なんでそんな息切らしてんの?」
「いや、匿ってるって聞いたから」
「それで階段で来たんだ、やっぱアッツ!」
寿一郎の楽しそうな声が、玄関中に響き渡る。
「タツ、一旦上がって」
唯翔がそう言うと、龍大が履いていたスニーカーを脱いで部屋の中に入る。さすがに龍大は体が大きいからか、一緒に部屋に入ると少し狭く感じる。
鈴夏が先に座ると、そのすぐ隣に龍大も胡座をかく。でも、なんだか距離が近い。正座している鈴夏の膝には、龍大の太ももが当たっている。
龍大の距離感に少しの戸惑いを感じつつも、鈴夏は自分から寿一郎の家に来た理由を切り出した。
「龍大くんあのね、昨日預かった鍵、失くしちゃって……探したんだけど、見つからなくって……ごめんなさい」
「……それだけ?」
鈴夏は頭を下げるが、龍大のよくわかっていないような声が降ってくる。鈴夏にとっては、鍵を失くしたなんて大惨事だと思っていた。なのに、龍大は目を大きく開き、明らかにキョトンとしている。
「え、それだけだけど……」
「……事件とか事故に巻き込まれたかと思って。鍵だったらまた作ればいいし」
「だってさ、良かったじゃん」
怒られる覚悟で話したのに、龍大は許すどころか全くのノーダメージだった。それを聞いた唯翔も「ほらね」と言わんばかりに微笑んでくれる。
「なんか、かわいいキャラクターのキーホルダーついてたから、思い入れあるものだったらと思って……。あと鍵を悪用されることもあるから。もし鍵付け替えるなら全額費用出すからね! 良い業者は私が会社の人に言えば紹介してもらえるし――」
「まぁまぁ鈴夏さん落ち着いて。鍵はさ、明日また駅員さんに聞いてみたらいいんじゃない?」
唯翔にそう言われ、鈴夏は落ち着きを取り戻す。確かに鍵は落としてすぐ悪用されるものじゃない。まだ見つかっていない場所にあるかもしれない。ただ焦るばかりで、周りに迷惑をかけていることに、ようやく鈴夏自身気がついた。
今まで熱かった頭が急激に冷めてくる。
「……うん、そうする」
本当は龍大にも唯翔にも、ごめんなさいとありがとうを言うべきなのは、鈴夏にもわかっていた。でも、疲労困憊で急に気が緩んだ鈴夏には、その一言が精一杯だった。
「で、ふたりって付き合ってんの?」
すると、急に寿一郎が口を挟む。
「いや、そういうのはまだ――」
正直付き合っている以上のことは、もうしている。だけど、鈴夏にはその寿一郎からの問いに、頷けるだけの理由がない。そう思っていたのに、鈴夏が口を開いてから間髪入れずに龍大も口を開く。
「俺は……まだデート1回しかしてないけど……今日仕事しながらずっと鈴夏のこと考えてた」
鈴夏は龍大の方を向いて、目を見開いた。龍大のまっすぐで、射抜くような視線が突き刺さる。しかも、鈴夏のことを呼び捨てで呼んでいる。
「ふぉ~ほほほほほ! いいねぇタッツー」
「はいはい、ジュイチ大人しくして」
寿一郎は楽しそうに膝を叩いている。一方で唯翔は冷静だ。
からかっているわけではなく、なんとなく祝っているように見えて鈴夏は急に照れくさくなる。
「そっか。じゃあそれ以上はボクらから聞かないでおくよ」
その心遣いは、鈴夏にとっては痛いほどありがたい。おそらく家に帰ったら、更紗には「何があったの?」と詰められるだろう。デートに行き、晩は帰らず、更紗が寝ている時間に帰宅。そのまま会社に行き、帰ってきたと思ったら「鍵がない」と行ってまた出ていって今に至るのだ。そんな状況で、更紗が今すごくニヤついているだろう。
とりあえずお茶だけゆっくり飲んでいいと唯翔が言っていたので、キリが良い時間までいさせてもらうことになった。
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