7 / 17
7 臆病な仔猫のように(※ドミニク視点)
しおりを挟む
彼女は扉を開けた。
その泣き腫らした目が僕を捉えた。
怯えと好奇心を湛える、美しい瞳。
華奢で可憐な容貌を目にして、可哀相だと胸が痛む反面、愛くるしいとしか表現できず胸が弾んだのは、不謹慎だとしても事実だ。
「やあ、ルシア」
「もっ」
「?」
大声で言い淀んだ直後、ルシアは深く膝を折って頭を垂れた。
「申し訳ございません!」
「……」
予想外の展開に、つい、キョトンとしてしまう。
「勝手にお部屋に入ってしまいました! すべて私のせいです! ここの係の人は、私のせいで持ち場を離れてしまっただけです! どうか、彼女に罰を与えないでくださいお願いします!!」
若い衣装係のエイミー。
おとなしいけれどひょうきんな一面もある、はにかんだそばかす顔が目に浮かぶ。広間の騒ぎを聞きつけて僕に報せてくれたのがその〝係の人〟だと言ってあげなければ、ルシアは体を起こしそうにない。
「ルシ──」
「あああ、あと! もし私がこの中の物に悪さをしてしまったとお考えでしたら、どうぞっ、お検めください!」
僕は自分の目尻がさがった事を自覚した。
酷い目にあって泣いていたのに、彼女は善良で思いやりに溢れている。可愛いと一言で片づけてしまうには勿体ない尊さを、ルシアに感じた。
「脱ぎます!」
「?」
意を決した宣言に、思わず目を瞠った。
彼女はその場で実行に移りはしなかったものの、本気である事は確かだ。
疑ってなどいない。
とにかく安心させてあげなければと、腕にふれた。
「おいおい」
「!」
びくりと飛び跳ねて、後ずさる。
大きな瞳が、こちらを見あげて揺れていた。
まるで怯える仔猫のようだ。
可哀想なのだが、愛くるしい。どうにかしてあげたくなる。
僕は腕を下ろした。
「そんな必要はない。恐がらせてごめんね。大丈夫、なにもしないよ」
「……」
「まずは、エイミーを庇ってくれてありがとう。彼女が罰せられる事はないから安心して。僕に君の事を知らせてくれたのはエイミーだ」
「!」
ルシアが怯えた。
「違う。言いつけたとかではなくて、君を助けるように言われた」
「……」
「騒ぎは聞いた。僕はちょうど、ソースを零してね。レモン片手に柱時計の脇で奮闘していて立ち会ってはいなかったんだけど、災難だったね」
「……っ」
きゅっと眉が絞られ、今にも泣き出しそうな顔になる。
事実、大きな目にたっぷりと涙を溜めて、ルシアは唇を噛んだ。
そうか。
泣き虫なんだ。
抱きしめたい。
守ってあげたい。
胸が苦しくて、同時に、急き立てられた。
思えばこの時、僕はもう、恋をしていたんだ。
「君はなにも悪くない。兄上がそうしてくれないなら、僕が君を守るよ」
「──」
ただでさえ大きな目を瞠り、ルシアが僕を凝視する。
彼女がなにか言おうとして、大きく息を吸った。
「もっ」
その泣き腫らした目が僕を捉えた。
怯えと好奇心を湛える、美しい瞳。
華奢で可憐な容貌を目にして、可哀相だと胸が痛む反面、愛くるしいとしか表現できず胸が弾んだのは、不謹慎だとしても事実だ。
「やあ、ルシア」
「もっ」
「?」
大声で言い淀んだ直後、ルシアは深く膝を折って頭を垂れた。
「申し訳ございません!」
「……」
予想外の展開に、つい、キョトンとしてしまう。
「勝手にお部屋に入ってしまいました! すべて私のせいです! ここの係の人は、私のせいで持ち場を離れてしまっただけです! どうか、彼女に罰を与えないでくださいお願いします!!」
若い衣装係のエイミー。
おとなしいけれどひょうきんな一面もある、はにかんだそばかす顔が目に浮かぶ。広間の騒ぎを聞きつけて僕に報せてくれたのがその〝係の人〟だと言ってあげなければ、ルシアは体を起こしそうにない。
「ルシ──」
「あああ、あと! もし私がこの中の物に悪さをしてしまったとお考えでしたら、どうぞっ、お検めください!」
僕は自分の目尻がさがった事を自覚した。
酷い目にあって泣いていたのに、彼女は善良で思いやりに溢れている。可愛いと一言で片づけてしまうには勿体ない尊さを、ルシアに感じた。
「脱ぎます!」
「?」
意を決した宣言に、思わず目を瞠った。
彼女はその場で実行に移りはしなかったものの、本気である事は確かだ。
疑ってなどいない。
とにかく安心させてあげなければと、腕にふれた。
「おいおい」
「!」
びくりと飛び跳ねて、後ずさる。
大きな瞳が、こちらを見あげて揺れていた。
まるで怯える仔猫のようだ。
可哀想なのだが、愛くるしい。どうにかしてあげたくなる。
僕は腕を下ろした。
「そんな必要はない。恐がらせてごめんね。大丈夫、なにもしないよ」
「……」
「まずは、エイミーを庇ってくれてありがとう。彼女が罰せられる事はないから安心して。僕に君の事を知らせてくれたのはエイミーだ」
「!」
ルシアが怯えた。
「違う。言いつけたとかではなくて、君を助けるように言われた」
「……」
「騒ぎは聞いた。僕はちょうど、ソースを零してね。レモン片手に柱時計の脇で奮闘していて立ち会ってはいなかったんだけど、災難だったね」
「……っ」
きゅっと眉が絞られ、今にも泣き出しそうな顔になる。
事実、大きな目にたっぷりと涙を溜めて、ルシアは唇を噛んだ。
そうか。
泣き虫なんだ。
抱きしめたい。
守ってあげたい。
胸が苦しくて、同時に、急き立てられた。
思えばこの時、僕はもう、恋をしていたんだ。
「君はなにも悪くない。兄上がそうしてくれないなら、僕が君を守るよ」
「──」
ただでさえ大きな目を瞠り、ルシアが僕を凝視する。
彼女がなにか言おうとして、大きく息を吸った。
「もっ」
53
あなたにおすすめの小説
婚約破棄した王子は年下の幼馴染を溺愛「彼女を本気で愛してる結婚したい」国王「許さん!一緒に国外追放する」
佐藤 美奈
恋愛
「僕はアンジェラと婚約破棄する!本当は幼馴染のニーナを愛しているんだ」
アンジェラ・グラール公爵令嬢とロバート・エヴァンス王子との婚約発表および、お披露目イベントが行われていたが突然のロバートの主張で会場から大きなどよめきが起きた。
「お前は何を言っているんだ!頭がおかしくなったのか?」
アンドレア国王の怒鳴り声が響いて静まった会場。その舞台で親子喧嘩が始まって収拾のつかぬ混乱ぶりは目を覆わんばかりでした。
気まずい雰囲気が漂っている中、婚約披露パーティーは早々に切り上げられることになった。アンジェラの一生一度の晴れ舞台は、婚約者のロバートに台なしにされてしまった。
聖女の魔力を失い国が崩壊。婚約破棄したら、彼と幼馴染が事故死した。
佐藤 美奈
恋愛
聖女のクロエ公爵令嬢はガブリエル王太子殿下と婚約していた。しかしガブリエルはマリアという幼馴染に夢中になり、隠れて密会していた。
二人が人目を避けて会っている事をクロエに知られてしまい、ガブリエルは謝罪して「マリアとは距離を置く」と約束してくれる。
クロエはその言葉を信じていましたが、実は二人はこっそり関係を続けていました。
その事をガブリエルに厳しく抗議するとあり得ない反論をされる。
「クロエとは婚約破棄して聖女の地位を剥奪する!そして僕は愛するマリアと結婚して彼女を聖女にする!」
「ガブリエル考え直してください。私が聖女を辞めればこの国は大変なことになります!」
「僕を騙すつもりか?」
「どういう事でしょう?」
「クロエには聖女の魔力なんて最初から無い。マリアが言っていた。それにマリアのことを随分といじめて嫌がらせをしているようだな」
「心から誓ってそんなことはしておりません!」
「黙れ!偽聖女が!」
クロエは婚約破棄されて聖女の地位を剥奪されました。ところが二人に天罰が下る。デート中にガブリエルとマリアは事故死したと知らせを受けます。
信頼していた婚約者に裏切られ、涙を流し悲痛な思いで身体を震わせるクロエは、急に頭痛がして倒れてしまう。
――目覚めたら一年前に戻っていた――
自称聖女の従姉に誑かされた婚約者に婚約破棄追放されました、国が亡ぶ、知った事ではありません。
克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」「ノベルバ」に同時投稿しています。
『偽者を信じて本物を婚約破棄追放するような国は滅びればいいのです。』
ブートル伯爵家の令嬢セシリアは不意に婚約者のルドルフ第三王子に張り飛ばされた。華奢なセシリアが筋肉バカのルドルフの殴られたら死の可能性すらあった。全ては聖女を自称する虚栄心の強い従姉コリンヌの仕業だった。公爵令嬢の自分がまだ婚約が決まらないのに、伯爵令嬢でしかない従妹のセシリアが第三王子と婚約しているのに元々腹を立てていたのだ。そこに叔父のブートル伯爵家ウィリアムに男の子が生まれたのだ。このままでは姉妹しかいないウィルブラハム公爵家は叔父の息子が継ぐことになる。それを恐れたコリンヌは筋肉バカのルドルフを騙してセシリアだけでなくブートル伯爵家を追放させようとしたのだった。
次に貴方は、こう言うのでしょう?~婚約破棄を告げられた令嬢は、全て想定済みだった~
キョウキョウ
恋愛
「おまえとの婚約は破棄だ。俺は、彼女と一緒に生きていく」
アンセルム王子から婚約破棄を告げられたが、公爵令嬢のミレイユは微笑んだ。
睨むような視線を向けてくる婚約相手、彼の腕の中で震える子爵令嬢のディアヌ。怒りと軽蔑の視線を向けてくる王子の取り巻き達。
婚約者の座を奪われ、冤罪をかけられようとしているミレイユ。だけど彼女は、全く慌てていなかった。
なぜなら、かつて愛していたアンセルム王子の考えを正しく理解して、こうなることを予測していたから。
※カクヨムにも掲載中の作品です。
幼馴染以上、婚約者未満の王子と侯爵令嬢の関係
紫月 由良
恋愛
第二王子エインの婚約者は、貴族には珍しい赤茶色の髪を持つ侯爵令嬢のディアドラ。だが彼女の冷たい瞳と無口な性格が気に入らず、エインは婚約者の義兄フィオンとともに彼女を疎んじていた。そんな中、ディアドラが学院内で留学してきた男子学生たちと親しくしているという噂が広まる。注意しに行ったエインは彼女の見知らぬ一面に心を乱された。しかし婚約者の異母兄妹たちの思惑が問題を引き起こして……。
顔と頭が良く性格が悪い男の失恋ストーリー。
※流血シーンがあります。(各話の前書きに注意書き+次話前書きにあらすじがあるので、飛ばし読み可能です)
王子に婚約破棄されて国を追放「魔法が使えない女は必要ない!」彼女の隠された能力と本来の姿がわかり誰もが泣き叫ぶ。
佐藤 美奈
恋愛
クロエ・エルフェシウス公爵令嬢とガブリエル・フォートグランデ王太子殿下は婚約が内定する。まだ公の場で発表してないだけで、王家と公爵家の間で約束を取り交わしていた。
だが帝立魔法学園の創立記念パーティーで婚約破棄を宣言されてしまった。ガブリエルは魔法の才能がある幼馴染のアンジェリカ男爵令嬢を溺愛して結婚を決めたのです。
その理由は、ディオール帝国は魔法至上主義で魔法帝国と称される。クロエは魔法が一番大切な国で一人だけ魔法が全然使えない女性だった。
クロエは魔法が使えないことに、特に気にしていませんでしたが、日常的に家族から無能と言われて、赤の他人までに冷たい目で見られてしまう。
ところがクロエは魔法帝国に、なくてはならない女性でした。絶対に必要な隠された能力を持っていた。彼女の真の姿が明らかになると、誰もが彼女に泣いて謝罪を繰り返し助けてと悲鳴を上げ続けた。
【完結】新たな恋愛をしたいそうで、婚約状態の幼馴染と組んだパーティーをクビの上、婚約破棄されました
よどら文鳥
恋愛
「ソフィアの魔法なんてもういらないわよ。離脱していただけないかしら?」
幼馴染で婚約者でもあるダルムと冒険者パーティーを組んでいたところにミーンとマインが加入した。
だが、彼女たちは私の魔法は不要だとクビにさせようとしてきた。
ダルムに助けを求めたが……。
「俺もいつかお前を解雇しようと思っていた」
どうやら彼は、両親同士で決めていた婚約よりも、同じパーティーのミーンとマインに夢中らしい。
更に、私の回復魔法はなくとも、ミーンの回復魔法があれば問題ないという。
だが、ミーンの魔法が使えるようになったのは、私が毎回魔力をミーンに与えているからである。
それが定番化したのでミーンも自分自身で発動できるようになったと思い込んでいるようだ。
ダルムとマインは魔法が使えないのでこのことを理解していない。
一方的にクビにされた上、婚約も勝手に破棄されたので、このパーティーがどうなろうと知りません。
一方、私は婚約者がいなくなったことで、新たな恋をしようかと思っていた。
──冒険者として活動しながら素敵な王子様を探したい。
だが、王子様を探そうとギルドへ行くと、地位的な王子様で尚且つ国の中では伝説の冒険者でもあるライムハルト第3王子殿下からのスカウトがあったのだ。
私は故郷を離れ、王都へと向かう。
そして、ここで人生が大きく変わる。
※当作品では、数字表記は漢数字ではなく半角入力(1234567890)で書いてます。
「犯人は追放!」無実の彼女は国に絶対に必要な能力者で“価値の高い女性”だった
佐藤 美奈
恋愛
セリーヌ・エレガント公爵令嬢とフレッド・ユーステルム王太子殿下は婚約成立を祝した。
その数週間後、ヴァレンティノ王立学園50周年の創立記念パーティー会場で、信じられない事態が起こった。
フレッド殿下がセリーヌ令嬢に婚約破棄を宣言した。様々な分野で活躍する著名な招待客たちは、激しい動揺と衝撃を受けてざわつき始めて、人々の目が一斉に注がれる。
フレッドの横にはステファニー男爵令嬢がいた。二人は恋人のような雰囲気を醸し出す。ステファニーは少し前に正式に聖女に選ばれた女性であった。
ステファニーの策略でセリーヌは罪を被せられてしまう。信じていた幼馴染のアランからも冷たい視線を向けられる。
セリーヌはいわれのない無実の罪で国を追放された。悔しくてたまりませんでした。だが彼女には秘められた能力があって、それは聖女の力をはるかに上回るものであった。
彼女はヴァレンティノ王国にとって絶対的に必要で貴重な女性でした。セリーヌがいなくなるとステファニーは聖女の力を失って、国は急速に衰退へと向かう事となる……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる