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3 恐るべきキャシー
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それからざっと4ヶ月。
タウンズ伯爵家とライルズ伯爵家はこれまでにない緊張感で距離を置き、長年に及ぶ婚約に終止符を打った。母は父たちの友情にも終止符を打ってほしかったようだけれど、残念ながらそこまでには至らなかった。
「結婚する前でよかったのです、モリー。あのような愚かな了見の夫など、いないほうがましというもの。恋なんて、愚かな人間のする気の迷いです。全部なかった事にして、いい結婚相手を見つけましょう」
母が恐ろしいほど燃えている。
静かに燃えるタイプである。
脳裏に過る疑問は、とりあえず、母にとって父のどの辺りがいい結婚相手だったのかという事。尻に敷けるところ?
「モリー、泣いちゃいかん……っ」
「泣いてるのは私じゃなくてお父様よ」
「うぅ……っ」
「気を確かに。私がデビッドを軽蔑しているからといって、お父様とライルズ伯爵の友情を疎んだりしません」
そんなふうに慰めあって励ましあったりしていたら、ある日の事。
なんとデビッドが現れた。なぜかはわからないけれど、恐ろしいものを見たような顔で、逃げ惑ったようなボロボロな姿で。
「ちょっと……彼、なにしてるの!?」
門番は食い止めている。
母は窓辺で青筋を立てている。
父は抜け殻のように立ち尽くしている。
私は目を凝らして、前庭の向こうの門での一悶着を観察。
「……泣いてる……?」
門番に必死に取り縋っている姿が、実に憐れ。
ただその様子が、私を恋しがっているというより、完全になにかに怯えているように見えて、私は父を伴い門へ向かった。許すわけではないけれど、長年の付き合いで生じた情というものがある。
勘当されて、路頭に迷った?
ライルズ伯爵夫妻にそこまでの気概はないはず。
「どうしたの? デビッド」
「モモモモモ、モリー! たっ、助けてくれ!!」
「?」
門番が私に手をのばずデビッドを断固として妨害している。
父は驚きと困惑で、骸骨みたいな顔になってるし。
「なによ。ブロドリック伯爵令嬢に求婚する道すがらクマにでも襲われたの?」
「ああっ、モリー!」
うざい。
これを機に情も消えそう。
と、そのとき。
「デェェェェビィーーーーーーッドおんっ!!」
「!?」
野太い声が、近づいて来た。
「……ぁ……ぁ、ぁぁ……っ」
デビッドがガクガクブルブルと震え始める。
ドゴドゴドゴドゴ……
馬車の音。
「デェェビちゃあぁぁぁ~んっ!!」
「ひぃっ!」
顔面蒼白になったデビッドが膝から崩れ落ちた。
そして謎の馬車が門の前で停まり、勢いよく扉が開いて、ぬっと足が出てきた。
「……」
思わず見つめちゃう、大きな足。
と、ピンクの靴。
と、ピンクのフリル。
「もぉん、悪いコね! 以前の許婚ちゃんを見せつけて私を嫉妬させようだなんてっ。そんな事しなくっても、あなたにはとぉ~っても胸キュンなのにっ♪」
「…………?」
出てきた。
馬車から。
大きくて太い足の上で揺れるフリル。布をふんだんに使ったピンクのドレス。ずずずいっと巨体。四角い肩に四角い顎。分厚くて赤い唇と、その上の繁る産毛。大迫力の鼻(と、鼻毛)。崖の如く切り立つ頬骨。中心に寄ったバチバチ睫毛のくりっくりな目。芋虫眉毛。そして弾む巻き毛。
「……」
「たたっ、たしゅけ……モリ……!」
呆気に取られている門番が、デビッドを引き渡した。
ブロドリック伯爵令嬢キャスリン・グウィルト。
噂には聞いていたけど、想像よりはるかに巨大だわ。そして見た目が、ほぼ男。ピンクのフリルに包まれた大男よ。
凄い……
衝撃的……
「はぁ~い、デェビィ~ッドぉん♪ つ・か・ま・え・たっ♪」
「ひっ」
「プッ」
思わず笑ったわよ。
ほかにどうしろっていうの。
タウンズ伯爵家とライルズ伯爵家はこれまでにない緊張感で距離を置き、長年に及ぶ婚約に終止符を打った。母は父たちの友情にも終止符を打ってほしかったようだけれど、残念ながらそこまでには至らなかった。
「結婚する前でよかったのです、モリー。あのような愚かな了見の夫など、いないほうがましというもの。恋なんて、愚かな人間のする気の迷いです。全部なかった事にして、いい結婚相手を見つけましょう」
母が恐ろしいほど燃えている。
静かに燃えるタイプである。
脳裏に過る疑問は、とりあえず、母にとって父のどの辺りがいい結婚相手だったのかという事。尻に敷けるところ?
「モリー、泣いちゃいかん……っ」
「泣いてるのは私じゃなくてお父様よ」
「うぅ……っ」
「気を確かに。私がデビッドを軽蔑しているからといって、お父様とライルズ伯爵の友情を疎んだりしません」
そんなふうに慰めあって励ましあったりしていたら、ある日の事。
なんとデビッドが現れた。なぜかはわからないけれど、恐ろしいものを見たような顔で、逃げ惑ったようなボロボロな姿で。
「ちょっと……彼、なにしてるの!?」
門番は食い止めている。
母は窓辺で青筋を立てている。
父は抜け殻のように立ち尽くしている。
私は目を凝らして、前庭の向こうの門での一悶着を観察。
「……泣いてる……?」
門番に必死に取り縋っている姿が、実に憐れ。
ただその様子が、私を恋しがっているというより、完全になにかに怯えているように見えて、私は父を伴い門へ向かった。許すわけではないけれど、長年の付き合いで生じた情というものがある。
勘当されて、路頭に迷った?
ライルズ伯爵夫妻にそこまでの気概はないはず。
「どうしたの? デビッド」
「モモモモモ、モリー! たっ、助けてくれ!!」
「?」
門番が私に手をのばずデビッドを断固として妨害している。
父は驚きと困惑で、骸骨みたいな顔になってるし。
「なによ。ブロドリック伯爵令嬢に求婚する道すがらクマにでも襲われたの?」
「ああっ、モリー!」
うざい。
これを機に情も消えそう。
と、そのとき。
「デェェェェビィーーーーーーッドおんっ!!」
「!?」
野太い声が、近づいて来た。
「……ぁ……ぁ、ぁぁ……っ」
デビッドがガクガクブルブルと震え始める。
ドゴドゴドゴドゴ……
馬車の音。
「デェェビちゃあぁぁぁ~んっ!!」
「ひぃっ!」
顔面蒼白になったデビッドが膝から崩れ落ちた。
そして謎の馬車が門の前で停まり、勢いよく扉が開いて、ぬっと足が出てきた。
「……」
思わず見つめちゃう、大きな足。
と、ピンクの靴。
と、ピンクのフリル。
「もぉん、悪いコね! 以前の許婚ちゃんを見せつけて私を嫉妬させようだなんてっ。そんな事しなくっても、あなたにはとぉ~っても胸キュンなのにっ♪」
「…………?」
出てきた。
馬車から。
大きくて太い足の上で揺れるフリル。布をふんだんに使ったピンクのドレス。ずずずいっと巨体。四角い肩に四角い顎。分厚くて赤い唇と、その上の繁る産毛。大迫力の鼻(と、鼻毛)。崖の如く切り立つ頬骨。中心に寄ったバチバチ睫毛のくりっくりな目。芋虫眉毛。そして弾む巻き毛。
「……」
「たたっ、たしゅけ……モリ……!」
呆気に取られている門番が、デビッドを引き渡した。
ブロドリック伯爵令嬢キャスリン・グウィルト。
噂には聞いていたけど、想像よりはるかに巨大だわ。そして見た目が、ほぼ男。ピンクのフリルに包まれた大男よ。
凄い……
衝撃的……
「はぁ~い、デェビィ~ッドぉん♪ つ・か・ま・え・たっ♪」
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「プッ」
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ほかにどうしろっていうの。
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