「恋がしたい」と幼馴染から婚約破棄されました。その後を笑って眺める私です。

百谷シカ

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2 破滅のクロッケー

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「お父様! デビッド、婚約破棄するって!!」

「うえええっ!?」


 向こうでクロッケーに興じていた大人たちが、揃ってこっちを向いた。


「おい、モリー! そんな大声で言うなよ!」


 デビッドが声を裏返して狼狽。


「君に説得してもらいたくて打ち明けたのに……! これじゃあ台無しだ!」

「そんな都合いい話があると思って? デビッド?」

「どういう事だ!? モリーッ!?」


 向こうで父が叫ぶ。
 

「ブロドリック伯爵令嬢に求婚したいんですって!!」

「おい、モリー!!」


 悲痛な叫びをあげるデビッドの椅子の足を蹴って、私は歩き出した。
 向こうからも父が走って来る。

 更にその向こうで、デビッドの母ライルズ伯爵夫人が卒倒した。
 ライルズ伯爵が支えたので、地面に転がる事はなかったけど。
 まあ、おば様に罪はないし。


「嘘だろ!? モリー! 君なら味方になってくれると信じていたのに!!」

「……」


 あら。私としたことが、うっかり。
 あんなアホに育てた罪があったわね。


「モリモリモモモリー」

「落ち着いて、お父様。舌か唇を噛むわよ」

「モッ、モォリィーッ! ほっ、ほほほ本当なのか!?」

「ええ。今そう言われた。私は空気みたいで胸が高鳴らないんですって」

「ぬあっ……カハッ!」


 父が愕然と草を凝視して、若干の過呼吸に陥る。
 父とライルズ伯爵は幼馴染で親友。両家は家族ぐるみで平和に付き合ってきた。そして私とデビッドの結婚によって、親友はついに親戚に昇格するはずだった。

 これは大事件だ。


「ちっ、違うんです、おじ様! モリーの事は愛しています!!」


 デビッドが追いついて父に縋りつき、力いっぱい振り払われて転んだ。
 興奮した様子で顔をあげたデビッドと父が、目を剥いて叫びあう。


「それなのにモリーを棄てるのか! 許婚だぞ!?」

「親同士が決めた事です! 僕は2才でモリーは0才だった!! 僕だけじゃなくモリーの人生も勝手に決めてしまったんです! 理不尽だ!! だいたい、モリーも僕を頼りない男兄弟くらいにしか思ってませんよ!! 二足歩行する前から僕を尻に敷いて、僕の尻を叩いていたんですから!!」


 その一言で理性が舞い戻り、私はふたりの間で頷いた。


「一理ある。でもむかつく」

「一理なんてない! これは裏切りだ!!」

「おっ、おじ様……そんな……ッ!!」


 正直、デビッドがなにに驚いているのか理解できない。
 貴族として盛大なルール違反をしているし、しっかり裏切りだ。

 母がマレットをギリギリと握りしめ、青筋を立てて闊歩してくる。厳格で口煩くて鬱陶しい、あまり心の交流とかない母親だけれど、人生で初めて眩しいと感じる姿を見たわ。
 夏の日差しを背にして、まるで湯気のあがるような憤怒。と、嫌悪。

 母は無言でデビッドの尻を叩き、


「ヒィッ!」


 と泣いたデビッドの眼前、マレットで地平線の果てを指示した。

 追放宣言だ。
 怒りのあまり無声だけど、目で充分、殺してる。

 実に頼もしいわ。
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